映画「DUNE/デューン 砂の惑星」と原作小説の違い:フランク・ハーバートの世界観を忠実に映像化した試み

「DUNE/デューン 砂の惑星」アラキスの砂漠
Image:Warner Bros. Pictures/YouTube

砂の惑星アラキスに水平線のように広がる砂丘の波がスクリーンに映るとき、観客は「DUNE/デューン 砂の惑星」の壮大な世界に引き込まれる。しかし、映画を観終えたあとふと気になるのが、原作との違いだ。

1965年にアメリカの作家フランク・ハーバートが書いたSF小説「デューン砂の惑星」(原題:Dune)。過去にデビッド・リンチ監督による映画化はあったが、それはドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が原作を読んだ13歳のときの原体験を呼び起こすものではなかった。

ヴィルヌーヴ監督は今回の映画化のテーマを、GoldDerbyでのインタビューで次のように答えている。

It’s like a mission that I had since a long time that there was an edition that would need to be made differently than what has been attempted in the past, something that was closer to the spirit of the [book].
(以前から、私が抱いていた使命のようなものは、過去に試みられたものとは違う、本の精神に近い形で作らなければならないというものでした。)

Denis Villeneuve (‘Dune’ director/writer) interview transcript – GoldDerbyより引用

ヴィルヌーヴ監督は原作そのままを映像化するのではなく、フランク・ハーバートが作り上げた世界観をいかに実現するかに心血をそそいだ。監督は最初の段階で2部作で描くことを決定しており、PART1では少年だったポールが大人になるまでを描き、PART2では結末まで駆け抜けていく。

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原作小説「デューン砂の惑星」とは?

「DUNE/デューン 砂の惑星」スパイスハーベスターを飲み込むサンドワーム
Image:Warner Bros. Pictures / YouTube

ハーバートが砂丘に興味を持ったのは、彼がまだ雑誌のライターとして働いていたときに、米農務省によるオレゴン州の砂丘を安定化させるプロジェクトについて調べ始めたことがきっかけだ。

砂丘をテーマとした雑誌記事のためにオレゴン州で調査し、膨大な資料を集め執筆した「彼らは動く砂を止めた(They Stopped the Moving Sands)」は結局掲載はされなかった。しかし砂丘を流体として扱うことや砂丘の生態に興味をもち、その後200冊を超える専門書を読み「デューン砂の惑星」を執筆する。

映画と原作の違い:より忠実な体験のなるように

デューンにはハーバートが砂漠から学んだ生態学や宗教、知恵の集大成のような独自の世界が作られた。ただし主人公ポールを単純なヒーローとみなす当時の反応はハーバートの予想に反したものだったらしい、とデューンの世界に感化された若者のひとりだったヴィルヌーブ監督はいう。

When the first book was released, Frank Herbert said he was disappointed by the way the book was perceived by some readers who saw in Paul a hero, and saw the book as a celebration of Paul.
(最初の本が出版されたとき、フランク・ハーバートは、ポールを英雄と見なし、この本をポールの祝福と見なした読者がこの本を受け取った方法に失望したと述べました。)

Director Denis Villeneuve On Shooting ‘Dune: Part Two’ In The Desertより引用

宗教や権力などの雰囲気が色濃く表現されているのは、ハーバートが法律や規律とは異なる各自の中にある倫理感を問いかける意図がある。しかし当時の読者がポールを単純にヒーローとして受け入れたことにがっかりしたという。

そこでヴィルヌーヴ監督は、原作ではポールの信者であり陰にかくれていたチャニを映画では前に出し本編の倫理感の指針にしようと試みた。

チャニはポールの信者として描かれていた

「DUNE/デューン 砂の惑星」
Image:Warner Bros. Pictures / YouTube

原作ではポールはフレメンの救世主として妄信的に支持されていくが、映画ではチャニにそんなポールに失望の眼差しを向けさせることで、フランク・ハーバートが本来伝えたかった救世主主義の危険性を観客が直感的に感じられるようにしている。

In the book, she’s a believer, she’s in Paul’s shadow, but I decided to transform our character in order to bring this idea that the movie will be a cautionary tale and not a celebration of his ascension.
(原作では、彼女は信者で、ポールの影に隠れていますが、私はキャラクターを変えて、映画はポールの昇天を祝うものではなく、教訓的な物語になるというアイデアを伝えることにしました。)

Director Denis Villeneuve On Shooting ‘Dune: Part Two’ In The Desertより引用

また原作では、PART2で登場する皇女イルーランの語りからはじまるが、映画本編ではチャニのナレーションではじまることも変更点だ。これから何が起きるのかまだ何も知らない観客と、ポールの変化をとらえる指針となる重要なキャラクターであるチャニとの距離を縮める監督のアイデアだ。

リエト・カインズ博士を女性にした理由

「DUNE/デューン 砂の惑星」
Image:Warner Bros. Pictures / YouTube

ベネ・ゲセリットが女性だけの組織であり、皇帝を含めた権力者のそばで暗躍していることからハーバートが女性のパワーを「デューン」の物語に重要な要素として組み込んでいることは明らかだ。ヴィルヌーブ監督はそういったハーバートの考えをよりわかりやすくするために元々は男性だったリエト・カインズ博士を女性にした。

「デューン」のファンサイト「Dune News Net」がヴィルヌーブ監督がハリウッド・リポーターに語った内容を掲載している。

Jon Spaihts [screenwriter] came up with the brilliant idea to transform Doctor Kynes to flip gender as a female, which makes total sense. It came from an impulse I had to bring more femininity into the movie.
(ジョン・スペイツ[脚本家]はカインズ博士を女性として性別を逆転させるという素晴らしいアイデアを思いつきました。それは完全に理にかなっています。それは、映画にもっと女性らしさを取り入れたいという衝動から生まれました。)

Denis Villeneuve Talks Turning Dreams to Reality – Dune News Netより引用

ポールの視点で描かれる物語

ヴィルヌーブ監督は物語をポールの視点に重点を置いて描いた。そこにチャニやリエト・カインズ博士のキャラクターの変更による原作との違いを加えることで、フランク・ハーバートが伝えたかったことをより際立たせるようにしている。