「DUNE/デューン 砂の惑星」のシールドの仕組み:ホルツマン効果が支える技術

「DUNE/デューン 砂の惑星」手に装着したシールド
Image:Warner Bros. Pictures / YouTube

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督による映画「DUNE/デューン 砂の惑星」(2021)は、圧倒的な映像で製作され、2022年第94回アカデミー賞で視覚効果賞を受賞しました。なかでも銃弾など飛び道具の直撃を防いでくれるシールドは、印象的な近未来のテクノロジーとして登場します。

このシールドに使われているDUNE独自の技術「ホルツマン・フィールド発生機」について原作の内容や現実の科学をもとに深堀していきます。

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DUNEの科学技術はホルツマン効果に支えられている

ホルツマン・フィールド発生機とは、ホルツマン効果を応用したフィールドを発生させる装置です。

ホルツマン効果 シールド発生機の負の反発効果(ネガティブ・リペレント・エフェクト)

出典:「デューン砂丘の子供たち 1 (ハヤカワ文庫. SF)」フランク・ハーバート 著 [他], 早川書房, 1978.11

原作でも科学的な詳しい説明はありません。シールドはホルツマン効果により、物をそのまま通過させず受け止める機能だと考えられます。

ホルツマン・フィールド発生機を用いたテクノロジーは、シールドだけでなく色々な装備や機械に使われています。

一定速度以上のものを防ぐシールド

「DUNE/デューン 砂の惑星」攻撃を受け止めるシールド
Image:Warner Bros. Pictures / YouTube

手に装着した装置を起動すると使用者の体を包むようにシールドが発生し、ある速度以上で近づく物体を受け止めてくれます。この速度は原作では秒速6から9センチに設定できるとされています。本編ではシールドが受け止めた毒矢をダンカンが弾いたり、背後から狙われたレト公爵は弾くことができずに最終的には被弾してしまうなど完璧な防御ではないことがわかります。それでも高速で移動する物体をいったん受け止めてくれる壁のようなシールドはかなり心強い防御装備です。シールドは個人の防御だけでなく鳥型飛行機オーニソプターや大型の軍用船などにも装備されています。

シールドによって本作が他のSF映画と異なるのは、レーザーガンのような武器が登場しないことです。

なぜレーザーガンや銃が登場しないのか

DUNEには「スター・ウォーズ」のようなSF映画に登場するレーザー光線のような銃は登場しません。ホルツマン・フィールドにレーザー光線があたると、連鎖反応が起こり核爆発を引き起こすからです。その代わりレト公爵も被弾した麻痺銃やフレメンが使うスプリング式で毒矢を撃つマウラ・ピストルが登場します。基本的に対人戦は剣で行われます。

撮影方法

「DUNE/デューン 砂の惑星」シールドを貫通
Image:Warner Bros. Pictures / YouTube

シールドなどの視覚効果の編集はポール・ランバートにより行われました。青と赤で表現されたシールドは編集段階で生まれたアイデアだそうです。

It was only once we got to the edit, where we had to add color, because what was happening is that when you had Gurney (Josh Brolin) and Paul fighting, and they were getting really intense, it became a bit of a mess.
(編集に入って初めて色を加えなければならなくなりました。というのも、ガーニー(ジョシュ・ブローリン)とポールが激しく戦っているときに、ちょっと混乱が生じていたからです。)

The ‘Dune’ visual effects team used sandscreens instead of bluescreens – befores & aftersより引用

攻撃を防げているときは青、攻撃がシールドを貫通してしまったときは赤で表現されることで一目見てシールドの役割を理解できる映像になっています。この視覚効果は他のオーニソプターや大型船のシールドにおいても使われています。

ものを浮遊させるサスペンサー

「DUNE/デューン 砂の惑星」追っ手のサーダカー
Image:Warner Bros. Pictures / YouTube

ハルコンネン男爵が無重力のようにふわふわと浮く映像も印象的です。これにはサスペンサーという技術が使われています。原作ではホルツマン・フィールドの第2段階だと説明されており、シールドは第1段階になります。

サスペンサーは対象の質量に対するエネルギーがあればハルコンネン男爵のように浮くことができる機能です。ポールのそばを追従して移動する照明にもサスペンサーが使われています。原作では照明球(グロー・グローブ)と呼ばれています。惑星アラキスでポールの追っ手、皇帝の近衛兵サーダカーが空からふわりと降りてくるシーンもこのサスペンサーを装着していたと考えられます。

実際に実現できるのか

ラス・クンブレス天文台の上級科学者であるアンディ・ハウエルは、The Naked Scientistsのインタビューでホルツマン効果は現実の科学では素粒子の反発を利用しているのではないかと答えています。

What exactly is this repellant force of subatomic particles?
Andy – It’s a fictional construct to be able to justify all the fanciful cool technology they have in Dune, but there are parallels in real world physics.
(素粒子の反発力とは、いったい何なのでしょうか?
アンディ – これは『デューン』に登場する空想的でクールなテクノロジーを正当化するための架空の構想ですが、現実世界の物理学にも類似点があります。)

How to build a sci-fi planet from scratch | Interviews | Naked Scientistsより引用

DUNEのシールドのように素粒子の反発を現代の科学では実現できないようですが、実際に作ることができるもので最も似た効果をもつのが、コーンスターチと水を混ぜて作るウーブレックだといいます。TVなどの簡単な科学実験としてよく目にする、速く動けば液体の上に立つことができ、動くのをやめると沈んでしまうダイラタンシーと呼ばれる現象です。

ホルツマン・フィールドとシールドによる独自のSF世界

DUNEの世界は現代のおよそ1万年後の時代を描いています。テクノロジーの面で考えるとかなり進歩していてもおかしくありません。実際にシールドや重力を打ち消すサスペンサーなど現代の科学では実現不可能なものが登場します。その反面決闘はナイフだけの肉弾戦で行われ原始的な空気感も漂います。原作者のフランク・ハーバートにより唯一無二のSF作品となっています。