SF映画「DUNE/デューン 砂の惑星」でスパイスが重要な理由:バトラーの聖戦とテクノロジーの停滞

「DUNE/デューン 砂の惑星」スパイスを手に取るポール
Image:Warner Bros. Pictures / YouTube

2021年のSF映画「DUNE/デューン 砂の惑星」において、スパイスと呼ばれる香料<メランジ>は人々の生活を支配し、宇宙の運命を左右する重要な存在です。なぜスパイスがこれほどまでに価値を持つに至ったのか、その背景には、人類の歴史における一つの大きな出来事が深く関わっています。それが、「バトラーの聖戦」です。

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バトラーの聖戦とは?

バトラーの聖戦[バトラーのジハード] コンピュータ、思考機械、自意識あるロボットに対する聖戦。BG201年に勃発し、BG108年に終結を迎えた。当時の戒めは、つぎの形で『オレンジ・カトリック聖典』に残っている。「汝、人心を持つがごとき機械を造るなかれ」

映画『DUNE/デューン 砂の惑星』公開記念! 〈デューン〉の世界を知ろう!|Hayakawa Books & Magazines(β)より引用

バトラーの聖戦は、ブライアン・ハーバートとケビン・J・アンダーソンによる「デューン:バトラー派の聖戦(原題:Dune: The Butlerian Jihad)」(2002)で描かれたDUNE伝説のはじまりの物語です。本映画にも主要勢力として登場するコリノ家、アトレイデス家、ハルコンネン家の第1世代が登場します。

人類によって作られた思考する機械が人類に置き換わろうとする支配に人類が対抗して起きた戦争です。最終的に人間は勝利しますが「人のように思考する機械を禁止する」という教訓が生まれます。1863年にはイギリスの小説家サミュエル・バトラーによるエッセイ「機械の中のダーウィン(原題:Darwin among the Machines)」のなかで、進化した機械が人間に取って代わる危険性が書かれており、現実世界の未来予想ともとれる出来事となっています。

バトラーの聖戦とテクノロジーの停滞

「DUNE/デューン 砂の惑星」アトレイデス家
Image:Warner Bros. Entertainment / YouTube

バトラーの聖戦の後、コンピュータ・テクノロジーの発展を禁止したDUNEの世界では、現実世界では機械にさせる代わりに、人間を教育することで可能とさせています。アトレイデス家に使えるスフィル・ハワトは自分の頭だけでスーパーコンピュータ並みの計算をできるメンタートの一人です。

惑星間社会でありながら高度な計算を必要とする宇宙航行にコンピュータを使うことができないDUNEの世界では、コンピュータやAIを超えて人間の能力を拡張する貴重な物質がスパイスだったのです。

スパイスが重要な理由

スパイスは、以下の点で人類にとって不可欠な存在となりました。

超光速航行の鍵

「DUNE/デューン 砂の惑星」スペーシングギルド
Image:Warner Bros. Entertainment / YouTube

DUNEでは惑星間の超光速での移動をスペーシング・ギルドのナビゲーターにより実現しています。ナビゲーターはスパイスを大量に摂取することで先を見通すことが可能となり安全な宇宙航行を支えています。スパイスなしでは、人類は惑星間を自由に移動することができません。

予知能力の賦与

「DUNE/デューン 砂の惑星」ビジョンをみるポール
Image:Warner Bros. Pictures / YouTube

スパイスには摂取した人物に未来がみえる予知夢のような能力を覚醒させる力があります。女性だけの秘密結社ベネ・ゲセリットは、過去、現在、未来すべての時代につながることができる救世主<クウィサッツ・ハデラック>を生み出すために権力者のそばで暗躍しています。母ジェシカによりクウィサッツ・ハデラックになるように育てられたポールは惑星アラキスでスパイスを吸い込むことで徐々にその予知夢の力を覚醒させていきます。

寿命の延長

スパイスには、人間の寿命を延ばす効果があると言われています。惑星アラキスの先住民フレメンにとって神聖なサンドワームにより生み出されるスパイス。摂取し続けたものはその見た目もサンドワームのようになり、原作シリーズ4作目「デューン砂漠の神皇帝」へと物語はつながります。

DUNEはスパイスによって人類が進化した1万年後の世界

「DUNE/デューン 砂の惑星」には銃弾など飛び道具を防ぐ防御シールドや、砂漠の惑星アラキスで一日活動しても針先ほどの水分しか失わないスティルスーツなど、現代でも実現できない科学技術が存在します。しかしバトラーの聖戦があったためロボットやAIのようなテクノロジーが発展していません。

そのため機械ではなく、人間の能力を最大限に引き出すための新たな道を探る必要に迫られました。その結果、スパイスは人類にとって不可欠な存在となり、宇宙の覇権を争う上で最も重要な資源となったのです。コンピュータを禁止した世界にすることで、原作者のフランク・ハーバートにより独自の精神世界を持つ物語が描かれています。