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トム・クルーズ主演の大ヒットスパイアクション「ミッション:インポッシブル」シリーズ。ブライアン・デ・パルマ監督による緻密なサスペンスが光る1作目と、ジョン・ウー監督のスタイリッシュなアクションで魅せた2作目から6年。
主演のトム・クルーズは、その空白の期間に次回作に必要な“何か”を模索していた。単に敵と戦うだけではない、もっと人物の内面に踏み込んだ物語。それがシリーズを次の段階へ進める鍵になると考えていた。
そして続編の監督を務めたのは、テレビドラマ「LOST」や「エイリアス」で実績を残しながらも、長編の映画監督は初挑戦のJ・J・エイブラムス。IMFエージェント、イーサン・ハントの新たな冒険をどのように描いたのか?それは、シリーズに新たな息吹を吹き込むプロジェクトであり、アクションとドラマの両立を目指す試みだった。
「M:i:III ミッション:インポッシブル3」のあらすじ
イーサンはかつての最前線で活躍するスパイから身を引き、IMFの新人エージェントを育てる教官の立場に転身していた。そして私生活では、看護師のジュリア(ミシェル・モナハン)と婚約し、危険な任務から遠ざかった平穏な家庭生活を築こうとしていた。しかし、そんな彼の前に突如として現れたのが、シリーズ史上最も危険で残忍な敵、オーウェン・デイヴィアン(フィリップ・シーモア・ホフマン)。デイヴィアンに拉致された最も優秀な教え子、リンジー・ファリスを救出するためイーサンは再び危険な任務に身を投じていく。
さらにデイヴィアンは「ラビットフット」と呼ばれる謎の兵器の取引を企て、イーサンを罠に引き込むためにジュリアを人質に取る。この危機に際して、イーサンの頼みの綱となるのが、1作目からお馴染みのルーサー・スティッケル(ヴィング・レイムス)と、新たに加わった技術担当のベンジー・ダン(サイモン・ペッグ)。ベンジーのユーモアと卓越した技術力は、緊迫したミッションに新たな息吹を吹き込み、強力な味方として活躍する。
「ミッション:インポッシブル3」の大きな特徴は、それまでのシリーズがミッションの内容そのものやトム・クルーズ演じるイーサンのアクションに重点を置いていたのに対し、今作ではイーサンの人間性や感情の機微に焦点が当てられている。任務と私生活の間で引き裂かれる彼の葛藤、仲間との絆、そして何よりジュリアへの愛情が物語の中心となり、単なるスパイアクションを超えた重みのある人間ドラマとなっている。イーサン・ハントというキャラクターが、冷徹なスパイから感情を持った一人の人間として描かれることで、シリーズに新たな深みが加わっている。
前作からの変化 – 6年の空白が生んだ新境地
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「ミッション:インポッシブル」シリーズにおいて、トム・クルーズは単なる主演俳優を超えた存在であり続けている。第1作目から主演を務めるだけでなく、プロデューサーとしても深く制作に関わり、シリーズの方向性を決定づける重要な役割を担ってきた。「M:i:II」(2000年)の公開から「M:i:III」(2006年)まで空いた6年という期間は、トムにとって次なるステップを慎重に見極める貴重な時間だった。
この空白期間中、トムは「ミッション:インポッシブル」の本質と今後の展開について熟考を重ねた。アクションとサスペンスで世界中の観客を魅了してきたシリーズだが、3作目ではより深い人間ドラマと感情の機微を描きたいという強い思いがあった。イーサン・ハントというキャラクターをより立体的に描き、観客が感情移入できるストーリーを模索していた。
そして、トムの目に留まったのが、テレビドラマ「エイリアス」(2001~06)だった。J・J・エイブラムスが手掛けたこのスパイドラマは、緻密なストーリー展開と登場人物の感情描写の深さで高い評価を得ていた。トムはエイブラムスの才能に可能性を見出し、彼なら「ミッション:インポッシブル」シリーズにこれまでにない深いストーリー性をもたらすことができると確信した。長編映画監督の経験のないエイブラムスを大作の監督に抜擢するという大胆な決断は、6年という熟考期間があったからこそ可能になったといえる。
この長い空白期間と新たな監督の起用は、結果的にシリーズに新しい命を吹き込み、より成熟した「ミッション:インポッシブル」が誕生した。
J・J・エイブラムス監督の映画デビュー作としての挑戦
J・J・エイブラムスにとって「M:i:III」は大きな挑戦であり、夢を叶えるチャンスだった。興味深いことに、エイブラムスが原案・製作総指揮を務めたスパイドラマ「エイリアス」(2001~2006)は、もともと「ミッション:インポッシブル」シリーズから多大な影響を受けていたことを、トム・クルーズとのインタビューで彼自身が語っている。
自身が原案、製作総指揮をしたスパイドラマ「エイリアス」(2001~2006)はミッション:インポッシブルから影響を受けている
‘Mission: Impossible III’ | Unscripted | Tom Cruise, J.J. Abrams – YouTubeより引用
影響を受けた作品の続編を自ら監督することになるという運命的な巡り合わせがあった。
エイブラムスは「M:i:III」に独自の視点をもたらした。彼は「最初の2作品では、イーサン・ハントがどんな人物なのかはあまり深く描かれていない」ことに着目し、新たなアプローチを模索することにした、とIGNのインタビューで語っている。
本作はイーサンがどんな人間なのか家庭生活をどう送るのかといったところを深堀してそれが映画の面白さとしてどうストーリーに機能するかを描いた
Mission: Impossible III Movie Interview – J.J. Abrams Interview – IGNより引用
この新しい方向性は、デビュー作にしては非常に野心的なものだ。ハリウッドの大作フランチャイズの新作を任されたエイブラムスは、単にアクションシーンを並べるのではなく、キャラクターの内面や人間関係に焦点を当てることで、シリーズに新たな深みを与えることに成功した。テレビドラマでの経験を活かした彼の人物描写は、「ミッション:インポッシブル」シリーズの転換点となり、以降の作品にも大きな影響を与えている。
J・J・エイブラムスが追求したミッション:インポッシブルらしさ
エイブラムス監督は「なにをするのか、というよりもどうやるのか」を見せることこそが「ミッション:インポッシブル」の真髄だと語った。その言葉通り、彼が手掛けた「ミッション:インポッシブル3」は過去作ではほとんど触れられなかったスパイ工作の舞台裏に迫っている。ルーサーの緻密なガジェットや、フェイスマスクの製作過程など、IMFエージェントたちの準備段階を丁寧に描写したシーンは観る者の心を躍らせる。
テレビドラマで培った手法を大スクリーンに持ち込んだエイブラムスの演出は鮮烈だ。冒頭からジュリアの危機を描き、その後時間を遡る構成、最後まで正体不明の「ラビットフット」のようなクリフハンガーは観客の緊張感を最後まで維持した。また、上海のビル間ジャンプや橋での銃撃戦など、トム・クルーズ自身が挑んだスタントシーンでは、CGに頼らない生々しいリアリティが追求されている。
本作の成功により「ミッション:インポッシブル」シリーズは単なるアクション映画の枠を超え、人間ドラマとしての深みを獲得した。エイブラムスの長編映画監督デビュー作は、彼自身のキャリアの重要な一歩であると同時に、この人気フランチャイズの新たな出発点となった。