出典:IMDb/(C)2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved
「TENET」のカーチェイスシーンは、難解ながらも時間を逆行できるとはこういうことかと衝撃を受けるシーンでもあります。ルドウィグ・ゴランソンによるBGMも緊迫感を盛り上げてくれています。
なぜセイターは主人公の前に先回りして現れたのか、なぜ2回撃たれたキャットの傷は治らなかったのか。矛盾を感じるこの2点に絞って解説していきます。
※この記事は映画「TENET テネット」のネタバレを含みます。
酸素マスクありセイターと酸素マスクなしキャット
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プルトニウム241を奪取した主人公とニールの前に現れるセイターは、未来で逆行してきたセイターの巻き戻しです。
セイターは逆行してきた自分が順行の主人公からどう見えるか熟知した動き方をしているため違和感がありません。また、そのセイターに連れられたキャットは主人公と同じ順行です。これが観客を混乱させます。
セイターは酸素マスクをしていて、キャットは酸素マスクをしていないことで区別ができます。逆にキャットが酸素マスクをしていることに矛盾を感じる、この後のフリーポートでの青い部屋についても酸素マスクのありなしで区別できます。
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主人公と同じ順行のセイターは、回転ドアがあるフリーポートの倉庫の片隅に身を隠して部下からの情報を受け取っています。
セイターは実は先回りではない
アルゴリズムを手に入れた主人公たちの前に現れたセイターが、主人公たちと同じ順行のセイターであれば先回りになりますが、そうではありません。
上で書いた通り主人公と同じ順行のセイターは、フリーポートに身を隠して情報を集めています。
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「TENET」では時間の逆行を利用して、原因と結果の流れを反対にすることができます。
時間の逆行の仕組みについて研究者バーバラが主人公に説明していたときに、落としてもいない銃弾が、主人公の手元に吸い寄せられるように戻ってくるシーンを思い出してください。
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「原因と結果が反対だ」と主人公は驚きますが、バーバラはカメラで撮影した映像とともに「どちらにも見える」と言います。つまり「TENET」では知り得た情報をもとに「原因よりも結果を先に作る」こともできるということです。
主人公たちの前にセイターが酸素マスクをして現れたのは「結果」で、フリーポートでの情報収集は「原因」です。セイターは主人公がアルゴリズムを奪う様子を部下に逐一報告させています。その情報をもとに主人公がアルゴリズムを奪ったところにキャットを連れて先回りして現れます。
主人公の「奴の“無知”が唯一の防御だ」というセリフもこのためです。
時間軸でみるキャット
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アルゴリズムを手に入れた主人公たちの前に銃を突きつけられて現れたキャット、フリーポートの倉庫で逆行弾で撃たれたキャット。これらは主人公と同じ順行のキャットです。
逆行弾で撃たれたときのキャットが酸素マスクをしていたのは、順行のため逆に逆行の酸素で満たされた倉庫で呼吸ができないためです。
そのあと赤の倉庫の片隅から姿を現したセイターは主人公を銃で殴り回転ドアを使って逆行に切り替わります。
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観客には順行のままのキャットと、セイター視点の巻き戻るキャットが同時に同じ場所にいるように見えるので混乱するかもしれません。
このとき逆行したのはセイターだけなので、順行の主人公が見ているキャットと逆行しているセイターが見ているキャットは別人です。逆行のセイターはもう一度キャットを撃ちますが、このキャットは逆行弾で撃たれたときの時間が巻き戻っているだけです。
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逆行のセイターからみたら巻き戻っているキャットの傷はなかったものになりますが、順行のままの主人公やキャットにとっては傷はそのままです。
逆行弾による傷は順行のままでは治らない
「TENET」では逆行弾による傷は致命傷だということが何度か出てきます。時間の逆行のルールからその理由を考察します。
何かしら傷を負えば、人間は自己治癒力によって治そうとする力が働きます。しかし逆行弾による傷は通常とは逆になるため、自己治癒力が反転してしまいます。そのため傷は治るのではなく、どんどん広がっていきます。だからキャットは逆行に切り替わり、自己治癒力を正常に戻す必要がありました。
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時間による挟撃作戦
カーチェイスのシーンには、時間の逆行、逆行による挟撃作戦などの「TENET」における重要な要素がすべて詰まっています。何度か観ていると、スタルスク12の最終決戦と同じ構成であることが分かります。
クリストファー・ノーラン監督は、いきなり最終決戦で時間の逆行の要素をすべて展開すると観客が大混乱することを見越しています。カーチェイスはストーリー的にも盛り上がるシーンであり、観客にとって「TENET」の世界を理解する手助けになるシーンでもあります。
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