Image: Warner Bros. Pictures/YouTube/(C)2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved
時間の逆行(英:time inversion、時間反転)とは「TENET テネット」において、人やモノの時間経過が地球の時間軸(順行)とは反対に進むことです。
映画の中では映像、BGMの音楽、謎に包まれた主人公の相棒ニールなどあらゆる場面に逆行の演出が仕掛けられています。
現実の科学に忠実なわけではありませんが、熱力学第二法則やマクスウェルの悪魔など作品を理解するのにいくつか役立つものがあります。
クリストファー・ノーラン監督は、時間が逆行するアイデアについて次のように答えています。
I had this notion of just a bullet getting sucked out of the wall and into the barrel of a gun.
‘It’s Tricky’: Christopher Nolan Assembles the ‘Tenet’ Puzzleより引用
私はただ弾丸が壁から銃身に吸い込まれるというこの概念を持っていました。
仕組み
主人公たちは逆行装置である回転ドアを利用して逆行、順行を繰り返していきます。
回転ドア
逆行を可能とする回転ドアは4か所に登場しています。
ゴヤの贋作が隠されていた空港、カーチェイスを行ったタリン、最終決戦に備えたプリヤの船、最終決戦を行ったスタルスク12。
Image: Youtube/(C)2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved
回転ドアは現代で作られたものではなく、未来から送られてきた機械です。
人がひとり入ることができるものから複数人同時に入ることができるものまでサイズは様々。
アルゴリズム
Image: Youtube/(C)2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved
「TENET」に登場するアルゴリズムとは、地球の時間軸を逆行させるものであり、未来の科学者により時間軸を逆行させる手順を機械にしたものです。
回転ドアにはこのアルゴリズムの縮小版のようなものが組み込まれていると推測できます。
アルゴリズムは破壊することもできず、一度起動されれば止めることもできず、地球上のあらゆる生物が死亡してしまいます。
時間の逆行が可能な未来
Image: Youtube/Warner Bros. Pictures/(C)2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved
アルゴリズムの原理として分かっていることは、エントロピーの減少を可能とする技術であるということです。
エントロピー増大則とも呼ばれる熱力学第二法則によりエントロピーは減少することがないとされています。
つまり時間は不可逆であり戻ることはないということです。
冷めたコーヒーがひとりでに熱くなることはありえません。
量子力学から熱力学第二法則を導出することに成功より引用
つまり、コーヒーが冷めるのは不可逆な変化です。
このような不可逆性は、しばしば比喩的に「時間の矢」と呼ばれます。
「TENET」ではこの熱力学第二法則を覆す技術が未来で発明されており、時間の矢を反転させ時間の逆行を可能としています。
現実の科学では、マクスウェルの悪魔が存在すれば時間反転が可能といわれており、次のセクションで詳しく説明します。
情報戦だけど無知が最大の武器
マクスウェルの悪魔とは、物理学者マクスウェルが提唱したエントロピーの減少を可能とする存在です。
フリーポートで主人公が未来の自分と格闘したり、タリンでのカーチェイスでセイターに先回りされたのはマクスウェルの悪魔のためです。
マクスウェルの悪魔では知っているかどうかが重要な情報となります。
対象の状態を知っていることが秩序としてエントロピーを下げ、知らないことがエントロピーの大きな乱雑さを表す
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より引用
「TENET」にもこの考え方が反映されています。
つまり「TENET」では、知ることで未来の自分が現在に先回りできるということです。
主人公が科学者から説明を受けているとき、自分で落としてもいない銃弾が手元に戻ってきました。
これは主人公が、自分が落としたという事実を知ったからです。
「TENET」では知られていないこと、「無知」が最大の強みとなります。
ルール
時間の逆行にはいくつかルールがあります。
Image: Youtube/(C)2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved
回転ドアに入るときは、逆行もしくは順行の自分もドアに入るのを確認すること。逆行している間は酸素マスク、防護スーツを着用することなど。
その中でも重要なルールが1つあります。
時間軸は1つである
「TENET」では過去に戻ることが可能なため、回転ドアに入るたびに新たな時間軸が発生しているのではないかと思ってしまいます。
この疑問についてクリストファー・ノーラン監督は否定しています。
彼らの時間軸は1つだ
【特別映像】『TENET テネット』クリストファー・ノーラン監督インタビュー BD&DVD発売/デジタル配信中より引用
彼らは逆行のルールを通じて過去に戻る
再度、回転ドアを通れば時間は順行し始める
だが彼らは同じ時間軸にいたままだ
時間軸は常に1つしかない
逆行と順行を行き来できるだけであり、主人公の名もなき男の目線で映像を追っていくことが唯一の時間軸となります。
また「TENET」では到達したい過去に戻るためには、1日前なら1日、1週間前なら1週間かけて逆行しなければならないという点で従来のタイムトラベルやタイムリープとは異なります。
一度見ただけですべては理解できない、そんなところがノーラン作品の醍醐味です。