
映画『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』を観終えたあなたの頭の中に、今、一人の男の顔が浮かんでいないだろうか。
イーサンを助ける素振りを見せたかと思えば、その裏で冷徹に駒を進めるCIA長官、ユージーン・キトリッジ。
彼の真の目的は何なのか? 敵か、味方か、それとも第三の勢力か?
この記事では、世界中のファンの声と劇中に散りばめられた伏線を徹底的に分析し、彼の謎に満ちた正体に迫っていく。『ファイナル・レコニング』を10倍楽しむための「答え合わせ」を、今ここで始める。
ファン待望!キトリッジの”完璧な”復活が意味するもの
27年ぶり。初代『ミッション:インポッシブル』でイーサン・ハントを「裏切り者」と決めつけ、執拗に追い詰めたあの男が、シリーズに帰ってきた。SNSやレビューサイトでは、彼の再登場に対する驚きと称賛の声が溢れている。
「キトリッジが出てきて集大成を感じる」
「この食わせ物感がたまらない。彼こそがミッション:インポッシブルだ」
しかし、彼の再登場は単なるファンサービスではない。その証拠に、本作の監督クリストファー・マッカリーは、海外メディアColliderのインタビューでこう語っている。
So when we cast Henry, we had talked about casting him many, many times, we just never had anything worthy, really, for him to do. It always felt a little bit like fan service and that we were using Henry and not serving him.
出典:Mission: Impossible Dead Reckoning Director on AI, Tom Cruise, and Part 2 2025年6月18日閲覧
[ヘンリーをキャスティングした時、何度も何度も話はしましたが、彼にふさわしい役柄が思いつかなかったんです。いつもファンサービスのような気がして、ヘンリーを利用しているだけで、彼に尽くしていないような気がしました。]
つまり製作陣は、キトリッジの再登場を、物語に不可欠で、かつ名優ヘンリー・ツェニーにふさわしい深みを持った役割でなければならない、と考えていた。
まさにキトリッジの復活は、この物語が原点に回帰し、イーサン・ハントの”最初の試練”から地続きであることを示す、重要な狼煙(のろし)となっている。
新人同然だったイーサンと、彼を追い詰めたIMF長官。27年の時を経て、伝説のエージェントとCIA長官として再会した二人の間には、一体何が流れ、何が変わったのだろうか。
【徹底考察】キトリッジの真の目的は? “敵のフリをした味方”説を読み解く

劇中の彼は、終始イーサンと対立する立場にいるように見える。鍵は自我をもったAIであるエンティティを支配するために使うべきだとイーサンに語り、CIAのエージェントを動員してイーサンを追い詰める。一見すれば、彼は紛れもなく”敵”だ。
しかし、彼の言動の裏に隠された意図を注意深く分析すると、全く異なる結論が浮かび上がってくる。
結論から言えば、キトリッジはイーサンの味方だ。そして、全知全能の”エンティティ”を欺くために、あえて冷酷な敵対者のペルソナを演じている、そう考察する。(関連記事:「最恐の敵、AI「エンティティ」とは何者か?その正体と真の目的を徹底解剖する」)
その根拠は、劇中の2つの重要なシーンに隠されている。
根拠①:冒頭のブリーフィング ― 命令に見せかけた”極秘依頼”
物語の冒頭、おなじみのミッション伝令のシーンがあり、キトリッジはイーサンにこう告げる。
「鍵を手に入れろ。そしてイルサ・ファウストについては君に任せる。」
これは命令だろうか?いや、違う。すべての電子機器はエンティティに監視されているかもしれない状況で、キトリッジがイーサンにミッションを託す唯一の方法が、この”高圧的な命令”だったのではないだろうか。彼は、世界で唯一エンティティに対抗できる可能性を持つイーサンに、「鍵の奪取」と「鍵の情報を知るイルサの保護」という真のミッションを、公の場で密かに託したのだ。
根拠②:エンディングの伝言 ― 絶望の淵にいる友への”激励”
そして、最も決定的なのがエンディング。イルサを失い、失意の中なんとかガブリエルから鍵を奪うことに成功したイーサン。しかしまだエンティティの脅威が去ったわけではないイーサンに、キトリッジはナレーションという形でこう告げる。
「すべての犠牲が無駄になる前に。あまり時間はない。急げ、イーサン。幸運を」
これは、組織の論理を優先し、常にイーサンを追い詰めてきた男の言葉とは思えない。これは、CIA長官としてではなく、世界の命運を背負い、友を失った一人の男への、最大限の理解と激励のメッセージだ。「君の命こそが最優先事項だ。必ず生き延びて、このミッションを成し遂げろ」という、キトリッジからの魂のエールだと解釈できる。(関連記事:「【ネタバレ徹底解説】『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』の結末を考察!『ファイナル・レコニング』への伏線も解説」)
“二枚舌”のリアリティ ― 俳優ヘンリー・ツェニーの演技
この「敵を演じる味方」という極めて複雑なキャラクター像は、俳優ヘンリー・ツェニーの圧巻の演技によって、見事な説得力を得ている。
彼の演技は、言葉そのものよりも、視線、沈黙、そして声のトーンでキャラクターの真意を伝える。イーサンと対峙する際の鋭い眼光の裏に一瞬だけよぎる憂いや、イーサンの意図を読み取りグレースを迎え入れるときの声色の変化。それら全てが「言葉とは裏腹に、彼はイーサンのことを理解している」という無言のメッセージを、私たち観客に送り続けている。
また日本語吹き替え版は、その役への理解を徹底した演技に定評のある声優の江原正士が担当している。ウィル・スミスやトム・ハンクスの吹き替えを多く担当してきており、本作のキトリッジではまた違った味わいを出している。
原点回帰にして最大のキーマン ― 物語におけるキトリッジの役割

キトリッジは、イーサンがシリーズを通して常に戦ってきた”組織の論理”や”国家の体面”といった官僚主義の象徴だ。1作目では、その論理でイーサンを断罪しようとした。
しかし、27年の時を経て、彼自身もまた、その”組織”すら簡単に乗っ取る全知全能の”エンティティ”という未曾有の脅威に直面している。彼は理解したのだ。国家の体面やルールといった旧来の価値観では、この新たな敵には到底太刀打ちできないことを。そして、そのルールを破壊してでも世界を救おうとするアウトロー、エンティティの予想すら超えてくるイーサン・ハントこそが唯一の希望であることを。
キトリッジはエンティティの推測通りに動いているようにみせかけ、その上でイーサンの助けになるようにしていると考えると、キトリッジもある意味エンティティの計算から外れたキャラクターだと考えることができる。
キトリッジの再登場は、イーサン・ハントの物語が原点に回帰し「個人の正義 vs 組織の論理」というテーマが、”人類 vs AI”という新たな次元で繰り返されることを示唆している。
『ファイナル・レコニング』の展開予想!キトリッジはイーサンと”共闘”するのか?
これまでの考察を踏まえると『ファイナル・レコニング』でのキトリッジの役割は明確だ。彼は、エンティティと戦うイーサンの”影の支援者”として、決定的な役割を果たすだろう。例えそれがどれだけイーサンの邪魔にみえても、そう動くことがキトリッジに求められている役割だと考えられる。
公にはイーサンを追い詰め、CIA長官としての立場を利用してエンティティの目を欺きながら、水面下ではイーサンがミッションを遂行するための情報を流し、障害を取り除く。それは、究極の二重スパイ作戦に他ならない。
『ファイナル・レコニング』のクライマックス、キトリッジがイーサンに「鍵を渡せ」と迫るシーンがもしあるとすれば、それはもはや敵としての言葉ではないはず。
それは、世界を救うための最終ミッションが始まることを告げる、27年越しの”戦友”からの信頼の合図なのかもしれない。
よくある質問(FAQ)
Q1. 結局、キトリッジは敵ですか? 味方ですか?
A1. 本記事では「敵のフリをした味方」であると考察しています。全知全能のAI”エンティティ”を欺くため、あえてイーサンと対立する立場を演じている可能性が高いです。詳しくは本文の「【徹底考察】キトリッジの真の目的は?」をご覧ください。
Q2. キトリッジは、どの作品に登場しますか?
A2. 1996年公開のシリーズ第1作『ミッション:インポッシブル』と、本作『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』、そして『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』に登場します。1作目ではIMF(Impossible Missions Force)の長官でしたが、本作ではCIA(中央情報局)の長官として登場します。
Q3. キトリッジを演じている俳優と、日本語吹き替えの声優は誰ですか?
A3. 演じているのは、カナダ出身の俳優ヘンリー・ツェニーです。日本語吹き替え版は、ウィル・スミスやトム・ハンクスの声でも知られる、声優の江原正士が担当しています。
Q4. デンリンガーとキトリッジは、どちらが偉いのですか?
A4. 地位としては、全米の諜報機関を統括する「国家情報長官」であるデンリンガーの方が上です。キトリッジは、その中の「CIA(中央情報局)」の長官という関係になります。劇中でも、キトリッジがデンリンガーに報告するシーンがありました。