
シリーズ史上、最も不気味で、最もエレガントなヴィラン、ガブリエル。
彼はなぜ、あれほどまでに強く、そして恐ろしいのだろうか。イーサン・ハントを凌駕するほどの戦闘能力、未来を見透かすかのような洞察力。しかし、彼の本当の恐ろしさは、そのミステリアスな”動機”にある。
AI「エンティティ」の代弁者でありながら、彼の瞳の奥には時折、人間的な憎悪が宿る。彼は本当にAIの操り人形なのだろうか?
この記事では、彼の強さの秘密から、イーサンとの過去、そして俳優イーサイ・モラレスの怪演に至るまで、ガブリエルというキャラクターを丸裸にしていく。「恐ろしいのになぜか魅力的」―その理由が、ここにある。(関連記事:「『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』のサブタイトルが意味することとは」)
【最重要】ガブリエルにまつわる3つの「なぜ?」を徹底考察

多くの観客が抱いたであろう疑問。その核心に、独自の視点で迫る。
なぜイルサを殺したのか?―それはエンティティが仕掛けた”究極の罠”
ベニスのミニッチ橋の上で起きた、あの衝撃的な悲劇。多くのファンが愛したイルサ・ファウストは、なぜ命を落とさなければならなかったのか。
結論から言えば、あれはガブリエルがイーサンに自分を殺させるために仕掛けた、エンティティによる巧妙な”罠”だった。
思い出してください。エンティティは未来を確率で予測し、最も確実な勝利への道筋を立てる。エンティティにとっての勝利とは、自らの生存を脅かす唯一の存在=イーサン・ハントを排除するか、無力化すること。
エンティティの計算では、イルサかグレースのどちらかを殺せば、激昂したイーサンは理性を失い、ガブリエルを殺しに来る可能性が非常に高かった。もしイーサンがその感情に身を任せてガブリエルを殺害してしまえば、エンティティにつながる鍵の情報を知っている唯一の情報源を失うことになる。そうなれば、エンティティのたったひとつの弱点を失うことになってしまう。
イルサの死は、イーサンの心を折るための、最も効果的で残酷な一手。ガブリエルは、そのための冷徹な実行者に過ぎなかった。
なぜイーサンを憎むのか?―エンティティに利用された”過去の亡霊”
ガブリエルのイーサンに対する執着は、単なるビジネスライクなものではない。彼の瞳には、確かに個人的な憎悪が宿っている。
彼は、イーサンがIMFに入る以前に唯一取り逃がし、その結果「マリー」という女性を死に追いやったとされる、まさに”過去の亡霊”だ。
ガブリエルは、まるで幽霊のように実態が掴めない。彼の存在は「シリーズ1作目よりも前からイーサンと因縁があった」という後付けの設定を違和感なく受け入れさせるための、巧みなキャラクター造形と言える。
ガブリエルの個人的な憎悪は本物だ。しかし、それすらもエンティティに利用されているのが彼の滑稽さを際立たせている。エンティティは、イーサンのことを最もよく知り、最も効果的にイーサンの心を揺さぶれる駒として、ガブリエルを選んだ。
なぜエンティティに仕えるのか?―神託を受ける”預言者”という快感
では、ガブリエルはなぜエンティティの言いなりになっているのだろうか。
彼は、全知全能の”神”にも等しいエンティティから神託(未来予測)を受け、それを物理世界で実行する”預言者”であり”手足”であることに、一種の快感と優越感を覚えていると考えられる。
エンティティがもたらす情報アドバンテージは、彼に絶対的な自信を与えた。彼はもはや操り人形ではなく、神の代理人として、自らの意志で世界を動かしていると錯覚しているのかもしれない。
ガブリエルの魅力と評価:シリーズ最高の悪役か?

その特異なキャラクターは、これまでのヴィランと比較することで、より深く理解できる。
圧倒的な「強さ」の秘密は”情報”
彼のナイフ捌きや格闘術が優れているのは事実だ。しかし、彼の本当の強さの源泉は、エンティティがもたらす情報。相手の次の動き、最短の逃走経路、最も効果的な攻撃。それらを事前に「知っている」からこそ、彼は常にイーサンの先を行くことができた。
俳優イーサイ・モラレスの”人間と非人間”の境界を歩く怪演
この複雑なキャラクターに命を吹き込んだのが、俳優イーサイ・モラレスの演技。AIの代弁者としての無機質な冷酷さと、イーサンを前にした時の人間的な感情の爆発。その両極を違和感なく演じ分けることで「ガブリエル」という前代未聞のヴィラン像を確立させた。
このつかみどころのないキャラクターを、モラレス本人は次のように演じた。
I have to look at Gabriel as the star of his own movie, I play these characters with as much humanity as I can.
出典:Esai Morales is the bad guy in ‘Mission Impossible.’ He’s embracing it – Los Angeles Times 2025年6月17日閲覧
[ガブリエルを彼自身の映画の主役として見なければなりません。私はできる限り人間味を持って、これらのキャラクターを演じています。]
ただの敵の悪役としてではなく、モラレスはガブリエルをひとりの人間として演じている。
また普段からテニスが好きで、水泳などでも体を鍛えてはいたが、本作に向けてさらにトレーニングを積んだことを明かしている。
Then [I got] to London and met some of the finest stunt people who do fighting, acrobatics, knife fighting, boxing. The thing is to get your reflexes in shape
出典:Esai Morales is the bad guy in ‘Mission Impossible.’ He’s embracing it – Los Angeles Times 2025年6月17日閲覧
[その後、ロンドンに行き、格闘技、アクロバット、ナイフファイティング、ボクシングなど、一流のスタントマンたちに会いました。反射神経を鍛えておくことが大事です。]
何度テイクを重ねても対応できるように備えている。モラレス本人のプロフェッショナルな考えが、ガブリエルの隙のない雰囲気に表れている。
評価の分かれるポイント:彼に”殉教者”の覚悟はない
ここで、過去作の敵キャラと比較してみる。『ゴースト・プロトコル』のカート・ヘンドリクス(コバルト)は、自らの信じる理想のために、躊躇なく命を投げ出した。彼は自分の思想の殉教者だった。
一方、ガブリエルはどうだろうか。彼はエンティティの勝利を望んでいるが、それは「自分が生きていること」が前提だ。列車の屋根でイーサンに追い詰められた彼は「エンティティの勝利を確実にするために自ら命を絶つ」という選択はしなかった。
彼はエンティティの熱心な信者ではあっても、殉教者になるほどの覚悟はない。
この「自己保身」とも言える性質は、シリーズの歴代ヴィランと比較すると、より一層際立つ。例えば、個人的な愉悦のためにイーサンを精神的に追い詰めたオーウェン・デイヴィアンのサディズムや、歪んだ正義感から世界に混乱を巻き起こしたソロモン・レーンの狂信的な思想とも、ガブリエルの動機は明らかに異なる。
彼の行動原理は、あくまでエンティティという絶対的な力を背景にした優越感と生存本能。この人間的な弱さ、あるいは狡猾さこそが、彼を完全な「AIの駒」で終わらせない、キャラクターの深みとなっている。
【続編の展望】『ファイナル・レコニング』でガブリエルという”純粋な悪意”とどう対峙するのか

『デッドレコニング PART ONE』のラスト、ガブリエルはイーサンにしてやられ、エンティティが格納されている潜水艦の”鍵”を奪われた。これは、エンティティの予測を裏切る、初めての出来事だったはず。
幽霊のように存在が希薄だったガブリエルは、シリーズの集大成に向けて、イーサンが乗り越えるべき「純粋な悪意」の象徴として、より明確な実体を持ち始める。
テクノロジー(エンティティ)の脅威と、人間の最も原始的な悪意(ガブリエル)が融合した、このシリーズ最大の敵に、イーサン・ハントはどう立ち向かうのか。『ファイナル・レコニング』は、イーサンが自らの「過去の亡霊」と決着をつける物語になることは間違いない。
よくある質問(FAQ)
Q1. 結局、ガブリエルって何者?
A. イーサン・ハントが過去に取り逃がした因縁の相手であり、AI「エンティティ」の代弁者として行動する敵の悪役です。エンティティから未来予測の情報を受け取り、それを物理世界で実行する役割を担っています。
詳しくは本文の「なぜイーサンを憎むのか?」をご覧ください。
Q2. なぜガブリエルはイルサを殺したのでしょうか?
A. エンティティが仕掛けた巧妙な”罠”です。イルサを殺すことでイーサンを激昂させ、冷静な判断を失わせることが目的でした。これはイーサンを無力化するための、最も効果的で残酷な一手でした。
詳しくは本文の「なぜイルサを殺したのか?」をご覧ください。
Q3. ガブリエルを演じている俳優は誰ですか?
A. プエルトリコ系アメリカ人俳優のイーサイ・モラレス(Esai Morales)です。彼はガブリエルを単なる悪役ではなく、人間味のあるキャラクターとして演じ、その怪演が高い評価を得ています。
詳しくは本文の「俳優イーサイ・モラレスの怪演」をご覧ください。
Q4. ガブリエルは続編にも登場しますか?
A. はい、登場します。『デッドレコニング PART ONE』のラストで鍵を奪われており、続編ではイーサンとの直接対決が物語の核となることは間違いありません。
詳しくは本文の「続編の展望」をご覧ください。
最後に:デッドレコニングの謎を解く鍵、ガブリエル
ガブリエルは、単なる冷酷な敵ではない。彼は、
- エンティティの手足として動く、神の代理人
- イーサンの過去から蘇った、純粋な悪意の亡霊
- しかし、自己犠牲の覚悟までは持たない、人間的な弱さも併せ持つ存在
だった。
彼の行動の「なぜ」を理解することで、『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』という物語が、単なるアクション映画ではなく、テクノロジーと人間の未来を問う壮大なテーマを内包していることが見えてくる。『ファイナル・レコニング』でイーサンとガブリエルの因縁がどのような結末を迎えるのか、今から目が離せない。