『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』のサブタイトルが意味することとは

『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』「デッドレコニング(推測航法)」を強いられるアナログなヒーローと、イーサン・ハントが対峙するデジタルな脅威
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2023年に公開された映画『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』。4作目の『ゴースト・プロトコル』から『ローグ・ネイション』、『フォールアウト』とサブタイトルがつくことがお馴染みとなってきた本シリーズ。

このサブタイトルはトム・クルーズ演じるイーサン・ハントが、毎回直面する危機を象徴してきた。シリーズ7作目の本作につけられた副題は『デッドレコニング』。

シリーズ初の2部構成で、本作はPART ONE。デッドレコニングはいったいイーサン・ハントのどんな危機を表しているのか。

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「デッドレコニング」の意味

デッドレコニングは本作の造語ではなく、一般的に使われる言葉として存在する。

一般的な意味での使われ方

デッドレコニングは一般的には推測航法を意味する言葉として使われる。

船舶や車両などの移動体の現在位置を推定する技術.車両における車輪の回転や船舶における水との相対速度などの計測,あるいは,加速度計やジャイロセンサなどの慣性センサによって自分の動きの情報を得て,それを累積計算することにより自分の位置を知る.推測航法ともいう.

出典:デッドレコニング [JSME Mechanical Engineering Dictionary] 2025年6月13日閲覧

つまりデッドレコニングとはGPSを使わずに、自分の現在位置を計算する方法である。本作では、学習型防御システムを搭載したロシアの次世代潜水艦「K559″セヴァストポリ”」の航法として、デッドレコニングという言葉が登場する。

セヴァストポリは、氷の厚さや形状、気象条件により航路が変化する北極海を、推測航法により問題なく航行。学習型防御システムも、意図的に各国の軍艦に近づくも一度も探知されないという驚異的な性能を発揮していた。

映画のテーマと「デッドレコニング」の関係

デッドレコニングは一般的な意味だけではなく、本作のテーマとしても使われている。

AIの敵、エンティティとは

『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』エンティティが「どこにでもいて、どこにもいない」「すべての情報にアクセスし、操る」という、実態のない脅威であること
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イーサンが直面する危機として登場するのが、AIの敵エンティティだ。エンティティはセヴァストポリに搭載された学習型防御システムの中核をなすAI。エンティティはオンラインの情報すべてにアクセスが可能で、情報を意のままに操ることができる。

エンティティにより情報が汚染されてしまえば、同盟国がまるで敵のようになり、対立している敵の侵入を許してしまうなど、国としての安全が脅かされる状況となってしまう。そして最も厄介なところが、エンティティはそこら中にいるのに、どこにもいない、どこかのサーバーを壊せば倒すことができる、というわけではないこと。

イーサン達に残された唯一の対抗策

つまりイーサン・ハントにとっての新たな脅威とは”情報”です。

そんなデジタルの魔神のような存在に、唯一対抗できるのが、これまで何度もアナログな手法で世界を救ってきたイーサンとそのチーム。

監督のクリストファー・マッカリーは、デッドレコニングの意味をEMPIREに次のように明かしている。

There are many things emerging from Ethan’s past. Dead reckoning’ is a navigational term. It means you’re picking a course based solely on your last known position and that becomes quite the metaphor not only for Ethan, but several characters.
[イーサンの過去から多くのことが明らかになります。『デッドレコニング』とは航海術用語です。これは、最後に確認された位置のみに基づいて航路を選択することを意味します。これはイーサンだけでなく、多くの登場人物にとって重要なメタファーとなっています。]

出典:Christopher McQuarrie Explains Mission: Impossible – Dead Reckoning’s Title And What It Means For Ethan Hunt – Exclusive 2025年6月13日閲覧

『ゴースト・プロトコル』では限られたガジェットだけで、世界一高いビルを登り、『ローグ・ネイション』では体一つで飛行機にしがみつき、『フォールアウト』では飛んでいるヘリコプターに飛び乗ってきた。

その瞬間瞬間、現在地で最大限できることを探ってきたイーサン・ハントのやり方はまさにデッドレコニングといえる。オンラインで最強のエンティティを倒すためには、オフラインで最強なイーサンたちしか対抗できない。

『ファイナル・レコニング』への最大の伏線?「デッドレコニング」が示す未来

『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』「未確定な未来への、終わらない旅」PART ONEがまだ旅の途中であること、そしてPART TWO(続編)の結末が作り手にとっても「不可能(インポッシブル)」な挑戦であること
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「デッドレコニング(推測航法)」は、『ファイナル・レコニング』への最大の伏線であり、物語の未来を指し示す重要な要素となっている。

クリストファー・マッカリー監督によると、このタイトルは「『ファイナル・レコニング』のアフリカでの撮影中に初めて決まった」ものであり、物語自体にも、そして映画製作の過程にも適していると語っている。

製作のほとんどの期間において、完璧な計画がない中で、状況に合わせて進んでいく製作の様子が、物語の登場人物たちが未知の脅威に立ち向かう姿勢にも重なっていることを示唆している。

PART ONEは「推測航法の旅の途中」

PART ONEでイーサンの過去の一部が描かれたが、パート2である『ファイナル・レコニング』では1作目からのつながり、彼のIMFへの関わり方や、本当の過去がさらに深く探求されることが最大の伏線の一つといえる。

この戦い方は『ファイナル・レコニング』で成功するのか

後編である『ファイナル・レコニング』ではAIであるエンティティとの戦いは当然本格化する。デジタル化した社会で、情報を支配されることの果てしない脅威に立ち向かうことの困難さについて、監督でありながら脚本も担当しているマッカリー監督がその心境を明かしている。

We know how impossible it is, and that’s a problem for Part Two.
[それが不可能なことだということはわかっています。それがパート 2の問題です。]

出典:Mission: Impossible Dead Reckoning Director on AI, Tom Cruise, and Part 2 2025年6月13日閲覧

イーサン・ハントですらどう立ち向かえばいいのかわからない強敵、それは映画の作り手側にとっても同じ。『デッドレコニング』はストーリーだけではなく、制作側も含めた本作を象徴するサブタイトルとなっている。

タイトルを知れば映画はもっと面白くなる

タイトルを知ることで「イーサン・ハントがなぜそんな選択をしたのか」に意味を感じることができ、映画をより楽しむことができる。