『フォールアウト』の本当の意味:ミッション:インポッシブルでのイーサンの宿命

『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』の本当の意味:ミッション:インポッシブルでのイーサンの宿命
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2018年に公開されたシリーズ6作目『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』。『ゴースト・プロトコル』、『ローグ・ネイション』のように、4作目からメインタイトルに加えて副題もつけられ、その言葉にどんな意味が込められているのかも話題となってきた。

今作に付けられた副題は『フォールアウト』の1単語。これまでの2単語よりも、さらに短いサブタイトルとなっている。この副題にどのような意味が込められているのか解説する。

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「フォールアウト」の言葉が持つ複数の意味

専門的な用語として「放射性降下物(英: nuclear fallout)」を意味する言葉としてフォールアウト(英:fallout)があります。これは核爆発や事故によって放射性物質が発生したときに出るちりのことを指し、広範囲に放射能汚染を引き起こす原因といわれている。

より一般的な言葉としては「副次的影響」「結果」「余波」を意味する言葉として使われる。これらの言葉が本作のストーリーの何を表しているのかみていく。

劇中で描かれる多層的な「フォールアウト」

『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』イーサンの選択が招く「直接的フォールアウト」
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イーサンの選択が招く「直接的フォールアウト」

トム・クルーズ演じるイーサン・ハントは、テロ組織が核爆弾の材料となるプルトニウムの取引を行う現場への潜入ミッションをIMFから指示される。しかし仲間であるルーサー・スティッケル(演:ヴィング・レイムス)の命を守ることを優先し、プルトニウムを奪取するチャンスを逃してしまう。このことが「結果として」世界を危機に陥れるより複雑なミッションへとつながっていく。

シリーズを貫く「時間差フォールアウト」

前作『ローグ・ネイション』で知能犯のソロモン・レーンを知恵で捕まえたイーサン。しかしレーンが率いていた組織〈シンジケート〉は完全には消滅しておらず、その残党〈アポストル〉が今作のミッションにつながっている。

また冒頭にイーサンが夢で見ているジュリアとの悪夢。これも、これまでイーサンが下してきた選択がいまにフォールアウトしていることを示している。

人間関係における「避けられないフォールアウト」

『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』イーサンとジュリアの物語の結末
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フォールアウトは何も悪い面ばかりを描いていない。2006年の『M:i:III』から続いてきたジュリアとの関係に答えを出す物語になっている。それを見守ってきたルーサー。新たに仲間となったイルサ。イーサンを中心に積みあがってきた人間関係の集大成を描いている。

冒頭のイーサンとジュリアの湖での結婚式のシーンは、二人が出会ったというワナカ湖を連想させますが、実際のロケ地はワナカ湖と同じくニュージーランドのミルフォード・サウンドで行われた。

We had one hour to shoot that scene.
[そのシーンを撮影するのに1時間しかありませんでした。]

EXCLUSIVE INTERVIEW: ‘Mission: Impossible – Fallout’ Director Christoper McQuarrie (SPOILERS) – YouTubeより引用

クリストファー・マッカリー監督は非常に短い時間で、このシーンの撮影を終えたことをインタビューで明かしている。またどこに行っても観客から「ジュリアはどうなったの?」と聞かれることが多く、ジュリアとの物語を完結させる必要を感じていた。

制作者が仕掛けた「フォールアウト」:マッカリー監督の意図

マッカリー監督は、本作で過去作とは異なるトーンで、より感情的な映画にしたいと考えていた。そこにはシリーズ初の復帰した監督ということに対する思いもあった。

And I said, I think a third time it’s going to be cute. And we need to change direction. I want to make a darker movie. I want to make a more personal movie, a longer movie, a bigger movie.
[そこで私は、「3回目はキュートな作品になると思う。方向性を変える必要がある。もっとダークな映画を作りたい。もっとパーソナルな映画、もっと長くて壮大な映画を作りたい」と言いました。]

Christopher McQuarrie Interview – Mission: Impossible – Falloutより引用

クレジットこそされていないが、マッカリー監督は『ゴースト・プロトコル』でも脚本で部分的に参加している。そこで以前からファンからの要望も多かったジュリアとの物語から『フォールアウト』を始めることにした。

本作ではフォールアウトの比ゆ的な意味でもある、イーサンの過去が彼を苦しめるという方向でイーサンの内面をより掘り下げている。冒頭のジュリアとの結婚式のシーン、そしてプルトニウム奪還のため参加せざるを得なくなったソロモン・レーン強奪をイメージするシーン。これはどちらもイーサンが過去に下した決断がいまもイーサンを苦しめる重荷であることを示している。このシーンにはどちらもローン・バルフによる音楽「Should You Choose to Accept…」が使われており、イーサンの苦しみを多層的に感じられる演出となっている。

ヘンリー・カヴィル演じるオーガスト・ウォーカーなど、新たなキャラクターも登場し、ウォーカーの「大義のためには人命を軽視する」という考え方が、イーサンの「犠牲を避ける」という哲学と対立する関係性も描かれている。

「Fallout」と1単語であることも、過去シリーズからの余波はあるものの、独立した異なる作品であるという監督の思いが込められている。

まとめ:なぜ「フォールアウト」というタイトルなのか?

このタイトルは、制作の最初から決まっていたわけではない。タイトルを考える際に、制作チームが『ミッション:インポッシブル』のタイトルジェネレーターを見つけて遊んでいたところから、マッカリー監督は2単語のサブタイトルという伝統から脱却し、単語一つのタイトルにすべきだと考えた。

『フォールアウト』は、これまでのシリーズとは異なるタイプの映画であり、異なる姿勢を示し、独自の立場を打ち立てると感じたため、このタイトルが選ばれた。

ちなみに「『ミッション:インポッシブル/最後のジェダイ』というタイトルの登録準備はばっちりだったが、スター・ウォーズに1週間先を越されてしまった」という冗談も語られている。

タイトルの文字通りの意味である「核の脅威」や「余波」は、映画のスケールの大きなアクションシーンの文脈とも関連している。トム・クルーズはヘリコプターの操縦やHALOジャンプなど非常に多くのスタントを自身で行い、極めて危険なシーンが含まれる。これらのスタントは観客に現実的な緊張感をもたらし、撮影は非常に過酷で文字通りの「余波」を伴うこともあり(例:トム・クルーズの足首骨折)、作品全体の緊張感や主題に深みを与えている。

『フォールアウト』とは単にメインストーリーの核テロの脅威を指すだけでなく、イーサン・ハントという男の生き様そのものであり、彼の善意が招く避けられない宿命、そしてそれに向き合う彼の人間性を描いた言葉であり、その余波はシリーズ第7作『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』へと続く。