『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』水中スタント完全解説

『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』水中スタント完全解説
CGでも代替できない「本物の潜水」が、このスタントの核だった。※画像はイメージ

映画『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』で、トム・クルーズ演じるイーサン・ハントが挑む水中金庫シーンは、みているこちらが思わず呼吸を止めてしまうスタントとして知られている。約12m のトーラス型セット、6 分ものブレスホールド、そして CG と実写を融合させた革新的な撮影手法。本記事では、その舞台裏を徹底解剖します。

スポンサーリンク

『ローグ・ネイション』水中スタントの真実

このシーンには相当量のCG/VFX が使われている。しかし、それは撮影が楽だった証拠ではない。キャストが手で触れる部分は物理的に造形され、背景のほとんどをCGが補った一方で、潜水自体はトム・クルーズとレベッカ・ファーガソン本人が行っている。その結果、実写の緊張感とCGのスケール感が共存する希有なセットが生まれた。

このシーンはトム・クルーズがエアバスA400Mにしがみついたシーンと並んで困難な撮影だった。

水中金庫〈トーラス〉は実在するのか?

『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』水中金庫〈トーラス〉は実在するのか
※画像はイメージ

水中金庫は完全な実在物ではない。金庫内部のうち4分の1(30–40 ft)、約12mだけを物理的に製作し、残りはCG延長した。撮影はグリーンバックを張り巡らせた巨大タンク内で行われ、そのタンク内にドーナツ型セットを製作、水流や光の屈折をリアルに再現している。

“there was a section i would say maybe one quarter of that that doughnut set i think uh bissell built maybe 40 feet of it or 30 feet
[ドーナツセットの4分の1くらいのセクションがありました。ビッセルが作ったのは40フィートか30フィートくらいだと思います。]

35. Robert Elswit Interview, Part 2 (Cinematographer of ‘Mission: Impossible – Ghost… – YouTubeより引用

このセットでのワンテイク、ロングショットを実現するため、トム・クルーズとレベッカ・ファーガソンは軍隊式の潜水トレーニングを行った。

トム・クルーズ6分チャレンジの舞台裏

『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』トム・クルーズ6分チャレンジの舞台裏
※画像はイメージ

撮影はワンカットのロングショットで実施された。クルーズとファーガソンはカナダのフリーダイバー、カーク・クラックから軍隊式の息止めトレーニングを受け、クルーズは最大 6分のブレスホールドを達成。

I’ve never done an extended underwater sequence how can we make a really long sequence for an audience and have them experience what it’s like holding your breath for that period of time
[今まで長時間の水中シーンをやったことがないから、どうすれば観客に長時間のシーンを撮って、息を止めている感覚を体験してもらえるだろうか]

MISSION: IMPOSSIBLE – ROGUE NATION (2015) Behind-the-Scenes Mission Immersible – YouTubeより引用

このトムのコメントから、この水中シーンをなぜファーガソンやトム自身がやる必要があるのか、その理由が感じられる。

保険会社を納得させるため、本来必要以上の潜水能力を証明したうえで本番に臨んでいる。

撮影方法:トランスファード・モーションの仕組み

『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』撮影方法:トランスファード・モーションの仕組み
※画像はイメージ

トム・クルーズが飛び込みトンネルに吸い込まれていくシーン。実はクルーズ自身は1mも動いていない。「トランスファード・モーション」という、カメラを動かして俳優が動いているかのように見せる特殊な撮影手法で実現されている。撮影監督のロバート・エルスウィットがインタビューでその手法を語っている。

they’re static and they’re rotating and turning but they’re not actually traveling in space
[静止していて回転しているが、実際には空間を移動しているわけではない]

35. Robert Elswit Interview, Part 2 (Cinematographer of ‘Mission: Impossible – Ghost… – YouTubeより引用

俳優は水中で静止し、カメラを動かし、装置により水流を発生させ、泳いでいる錯覚を作り出す。これはスター・ウォーズシリーズでのミレニアム・ファルコンの撮影手法と同じ手法だ。

セット、キャストの訓練、撮影スタッフの技術、すべてが複雑に合わさって、水中スタントのシーンは完成した。

次回作でのアップデート予告

それでもトム・クルーズとクリストファー・マッカリー監督の二人は、このシーンに満足していなかった。

we worked underwater in Rogue Nation, and we left very dissatisfied with those sequences.
[私たちは『ローグ・ネイション』で水中で撮影しましたが、そのシーンには非常に不満を抱いてしまいました。]

‘Mission: Impossible 8’s Underwater Scenes Will Fix This ‘Rogue Nation’ Problemより引用

これまでの水中撮影の経験すべてが最新作『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』に活かされている。