『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』とは?シリーズ5作目の意味

『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』
Image:Mission Impossible/YouTube

シリーズ5作目の『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』(2015)。監督のクリストファー・マッカリーは本作を「シリーズ全体を祝福するような作品にしたかった」という。

主演でもあり1作目からプロデューサーも努めてきたトム・クルーズは「このシリーズは世界を旅する作品」と表現している。

20年の月日が流れ、積み重ねてきたイーサン・ハントというキャラクター、チームとの関係、そして「ヒーローとは何か?」という問い。たどりついた答えは、派手なアクションではなく「知恵の戦い」だった。

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あらすじ:そもそもローグ・ネイションとは?

『ローグ・ネイション』とは何か? タイトルの意味、そして物語の本質に迫ることで、この第5作がどんなテーマを描いているのかが見えてくる。

ローグ・ネイションとは英語で「Rogue Nation」と表記し、情報・知識&オピニオンのimidasでは

ならず者国家  
[rogue state]
1994年1月のクリントン元米大統領の演説において初めて使われた用語であり、国内で人権を抑圧し、テロリストを支援したり大量破壊兵器を保有しようとしたりする国家を指す。
(一部抜粋)

ならず者国家 | 時事用語事典 | 情報・知識&オピニオン imidas – イミダスより引用

とある。映画ではこの“ローグ・ネイション=ならず者国家”という言葉が、国ではなく、国家の監視を逃れ独自の秩序で動く〈シンジケート〉という秘密組織を象徴するものとして使われている。

各国でテロ行為を働き、証拠を残すことなく活動している組織〈シンジケート〉。そのすべての現場に存在していたのがソロモン・レーンという男だった。イギリス諜報機関MI6の元エージェントだった彼は、与えられてきたミッションが権力者の私利私欲のためであったことに愛想をつかし、テロ行為ともとれる活動により、自ら社会構造を変えようとする危険人物だった。

まるで幽霊のようなシンジケートの存在を唯一確信し、追い続けていたのがイーサン・ハントだった。CIAにもIMFにもその存在を信じてもらえず、むしろイーサンがそのシンジケートなのではないかと疑われてしまう。

そこにIMFすら手玉に取り、イーサンの目の前に現れたソロモン・レーン。いまIMFのならず者イーサン・ハントと、無法組織シンジケートを率いるソロモン・レーンとの知恵の戦いがはじまる。

シリーズ5作目の本作には前作から引き続きウィリアム・ブラント(演:ジェレミー・レナー)、おなじみのルーサー・スティッケル(演:ヴィング・レイムス)、ベンジー・ダン(演:サイモン・ペッグ)も登場。いつものキャラクターに加え謎に包まれた女エージェント、イルサ・ファウスト(演:レベッカ・ファーガソン)も本作から登場する。シリーズを重ねることで生まれた深みがより一層増し「記念碑的」作品にふさわしい1本となっている。

クリストファー・マッカリー監督の考え

『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』クリストファー・マッカリー監督
Image:Flicks And The City Clips/YouTube

クリストファー・マッカリー監督は本作『ローグ・ネイション』のシリーズでの位置付けを以下のように考えている。

I wanted to celebrate the entire series it was the fifth film and it had been 20 years and so I wanted this film to to hearken back to all of the previous movies there’s even elements of the first movie in this movie where we’ve we’ve made little references to the first film throughout for anybody who is very familiar with the first film
[私はシリーズ全体を祝いたかったのです。5作目であり、20年が経っていたので、この映画では以前のすべての映画を思い起こさせたかったのです。この映画には最初の映画の要素もあり、最初の映画をよく知っている人のために、最初の映画へのちょっとした言及も随所に盛り込んでいます。]

Mission Impossible 5 Rogue Nation Seoul Press Conference – YouTubeより引用

本編では1作目のイーサンがCIAの諜報員リストを盗み出したことを審査委員会から追求されるシーンがある。シリーズはこれまで異なる監督を起用してきた。そのため各作品が異なる雰囲気をもつことは当然だ。

しかし本作は、3作目『M:i:III』(2006)からほのかにはじまっていた「ストーリーの積み重ね」を一気に加速させている。これまでのシリーズすべてに意味があったと思わせる監督の演出が色濃く出ている。

トム・クルーズのプロデューサーとしての一面

『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』トム・クルーズのプロデューサーとしての一面
Image:Flicks And The City Clips/YouTube

「ミッション:インポッシブルシリーズ」では毎回トム・クルーズ自身が挑戦する人間の限界ともいえるスタントが話題となる。本作では冒頭から「エアバス A400Mの側面にしがみつくイーサン・ハント」という衝撃的な映像からはじまる。

だが、プロデューサーとしてのトム・クルーズが本当に重視しているのは「どこで、どんな危険なスタントをするか」ではない。

story is is King
[物語は王様]

Mission Impossible 5: Rogue Nation Official Interview – Tom Cruise – YouTubeより引用

という考えを大事にしている。どんな派手なアクションもすべてはストーリーを推し進めるために存在しているという考えだ。

これまでで最もスタイリッシュなラスト

物語を最優先する姿勢は、クライマックスの設計にも表れている。

that was a purely a consequence of story uh we kept trying to come up with an ending uh that was bigger than the rest of the movie and every time we did we felt ourselves dissatisfied with the way the characters were resolving we realized that the conflict between uh Ethan Hunt and Solomon Lane was an intellectual one and not one of big action it was a battle of Wis
[それは純粋にストーリーの結果でした。私たちは映画の残りの部分よりも大きな結末を考え出そうとし続けました。そして、そのたびに、登場人物の解決方法に満足できないと感じていました。イーサン・ハントとソロモン・レーンの間の対立は知的なものであり、大きなアクションではなく、知恵の戦いだということに気づいたのです。]

Mission Impossible 5 Rogue Nation Seoul Press Conference – YouTubeより引用

これはマッカリー監督のインタビューコメント。爽快なアクションではなく、呼吸をひそめるような静かな緊張感。銃弾も爆発もない、知恵と戦略の対決。それでいて、過去シリーズにはなかった鮮やかな決着。

最初はいかに派手なエンディングを迎えるかに頭を悩ませていたそうだが、監督の「イーサン・ハントとソロモン・レーンとの知恵の戦い」というフレーズが、まさにぴったりとくる、いつまでも記憶に残るラストとなっている。「物語が王様」という哲学を軸に、監督マッカリーとクルーズは絶妙なバランスで演出とアクションを組み立てていった。

記念碑としての第5作、そして未来へ

『ローグ・ネイション』はアクション映画の限界を押し広げる作品でありながら、物語とキャラクターへの誠実さを貫いた「静かな革命作」と言える。

スタントに目を奪われがちな本シリーズにおいて、もっとも“語られるべき内面”が詰まっているのがこの第5作なのだ。