
前作『ローグ・ネイション』で捕らえたソロモン・レーン。レーンが持つ情報を引き出そうと各国情報機関がたらい回しにする中、レーンが率いていたテロ組織シンジケートの残党も〈神の使徒アポストル〉と名前を変えて活動を続けていた。アポストルは謎の過激思想をもつジョン・ラークから依頼を受けて、核爆弾の材料となるプルトニウムを手に入れようとしていた。そこでイーサンはプルトニウムを奪うために取引に潜入するも、仲間であるルーサーの命を優先することでプルトニウム奪取に失敗する。
プルトニウム奪取の失敗を理由にCIA長官のスローンは、イーサンのチームに監視役としてCIAエージェントのオーガスト・ウォーカーを派遣する。本作『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』ではプルトニウムをめぐりイーサン・ハント、CIA、ジョン・ラークの思想が激しく衝突する。しかし、物語はそれだけに留まらない。派遣されたウォーカーの真の目的とは? そして、世界を破滅に導こうとするジョン・ラークの正体とは一体何者なのか?
本記事では、この複雑に絡み合う物語の核心、特にオーガスト・ウォーカーという男と、ジョン・ラークの謎めいた思想、そして衝撃の真相に深く迫ります。
※【重要】この記事には映画の核心的なネタバレが含まれます。未鑑賞の方はご注意ください。
オーガスト・ウォーカーとは何者か? ~CIAの影とイーサンとの対立~

イーサンの前にCIAから派遣された監視役、オーガスト・ウォーカー。スーパーマンとして知られるヘンリー・カヴィルが圧倒的な存在感で演じるウォーカーは、標的を確実に破壊するCIAの「ハンマー」と称される冷徹なエージェント。ジョン・ラークの手がかりとなる人物を躊躇なく殺害するなど、その効率的でときにブルータルな捜査スタイルは、人命を優先するイーサンの信念と激しく衝突し、二人の間には常に緊張が走る。
演じたヘンリー・カヴィルは、ウォーカーのキャラクターを次のようにとらえている。
he’s ruthless he has less regard for human life then say Ethan Hunt because he’s ultimately focusing on the greater good and the greater good for him is if I kill that one man I may and other people die in the process I may save tens of thousands later
Interview Henry Cavill MISSION: IMPOSSIBLE – FALLOUT – YouTubeより引用
[彼は冷酷で、イーサン・ハントのような人間よりも人命を軽視している。なぜなら彼は究極的には大義に焦点を当てているからだ。彼にとっての大義とは、もし私が一人の男を殺し、その過程で他の人々が死ぬかもしれないが、後に何万人もの命を救うかもしれないということだ。]
特筆すべきは、トイレでの壮絶な格闘シーン。柔術などのトレーニングを行いヘンリー・カヴィル自身がこなしたというアクションは、ウォーカーの人間離れした強さを観客に強烈に印象付ける。しかし、彼はCIA長官スローンに「イーサンこそジョン・ラーク」と密告するなど、その行動は謎に満ちている。彼が口にする大義の裏には、一体どんな目的が隠されているのか。ウォーカーの正体への疑問は、観る者を物語の核心へと引きずり込んでいく。
謎の男「ジョン・ラーク」~世界を破滅に導く思想~

物語の背後に潜む最大の謎、それが最重要テロリスト「ジョン・ラーク」だ。彼は単なる破壊者ではなく、世界秩序の転覆と新たな世界の創造を目指す、危険な思想を持つ人物である。「大いなる苦しみなくして、大いなる平和は訪れない」という彼のマニフェストは、既存秩序の完全破壊とその後の新世界創造という過激な目的を示唆し、絶望を抱える者には歪んだカリスマ性をもって響く。
ジョン・ラークはアポストルにプルトニウムの入手を依頼。核兵器専門家のデルブルックによって、どこにでも持ち運べる核爆発装置を製造。その目的は、世界を未曾有の混乱と苦しみに陥れることだ。この計画の残虐性と、世界の信仰や文化に対する攻撃は、計り知れない破壊をもたらす。
彼の思想が持つ扇動性と、それが引き起こす破滅的な未来像ゆえに、世界中の諜報機関は彼を追う。正体不明である点が、その危険性と恐怖を増幅させる。ジョン・ラークの存在は、現代社会が抱える問題や、歴史における終末論的な過激思想とも結びつけて哲学的に考察できる。
イーサン・ハントはこの見えざる敵の脅威から世界を救えるのか。ジョン・ラークという深い闇の奥に隠された真実とは何か。物語は、底知れぬ謎と緊張感をはらみ、破滅へのカウントダウンを刻む。
【核心ネタバレ】ジョン・ラークの正体とウォーカーの衝撃的な裏切り

※警告:これより先の内容は、映画『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』の最も重要なネタバレを含みます。未鑑賞の方は、映画をご覧になった後にお読みいただくことを強く推奨します。
これまでのセクションで、屈強なCIAエージェント、オーガスト・ウォーカーの謎めいた行動と、世界を破滅に導こうとする謎の思想家ジョン・ラークの脅威について考察してきた。二つの異なる脅威がイーサン・ハントに迫るかに見えたこの物語は、ここで衝撃的な一点へと収束する。
衝撃の暴露:オーガスト・ウォーカーこそがジョン・ラークだった
そう、多くの観客が息を呑み、あるいは薄々感づいていたかもしれない疑惑の答え――謎のテロリスト「ジョン・ラーク」の正体は、CIAエージェント、オーガスト・ウォーカーだった。
イーサン・ハントの監視役として同行し、時には共闘すら見せた男が、実は世界規模のテロ計画を立案し、アポストルを裏で操っていた張本人であったという事実は、まさに観客の予想を裏切る巧妙なひねりだ。この暴露は、物語の様相を一変させ、ウォーカーというキャラクターの全ての言動に新たな、そして戦慄すべき意味を与える。
仕掛けられた巧妙な罠:伏線とミスリードの数々
この衝撃の事実に思い至れば、劇中に散りばめられた数々の伏線と、巧みなミスリードに気づかされる。
ジョン・ラークの手がかりの消去: ウォーカーがジョン・ラークに繋がる可能性のあったアポストルのメンバーを次々と殺害していたのは、自らの正体を隠蔽し、捜査を妨害するためだった。
スローン長官への偽の報告: イーサン・ハントこそがジョン・ラークである可能性をスローン長官に熱心に報告していたウォーカー。これは、自らへの疑いを逸らし、イーサンを窮地に陥れるための狡猾な策略だった。
ホワイト・ウィドウとの接触: パリでのホワイト・ウィドウとの取引の場に現れたジョン・ラーク(とされる人物)の正体を巡る混乱も、ウォーカーの計画の一部だった。彼自身がラークであるため、本物のラークの身代わりを立てる必要があった。
イーサンへの敵意と執着: ウォーカーがイーサンに対して見せていた過度な不信感や敵意は、単なる監視役としての立場を超え、自らの計画を阻む最大の障害としてのイーサンへの警戒心と、彼を排除しようとする強い意志の表れだった。
これらの要素は、観客を巧みに欺き、ウォーカー=ジョン・ラークという真相が明らかになった時の衝撃を増幅させる効果的な仕掛けとなっていた。
ウォーカー(ジョン・ラーク)の真の目的と歪んだ「大義」
では、なぜオーガスト・ウォーカーはジョン・ラークとして、世界を破滅に導こうとしたのか?彼の動機は、単なる金銭欲や権力欲といった単純なものではない。
彼の根底にあるのは、セクション3で考察したジョン・ラークの思想――「大いなる苦しみなくして、大いなる平和は訪れない」という歪んだ信念だ。ウォーカーは、CIAエージェントとして世界の汚い部分や、国家間の欺瞞、そして終わりのない紛争を目の当たりにする中で、既存の秩序や平和がいかに脆く、偽善に満ちたものであるかを痛感したのかもしれない。
彼は、自らの手で一度世界を「浄化」し、その絶望的な苦しみの中から真の平和が生まれると本気で信じていた。そのために、彼は自らが「大いなる苦しみ」の引き金を引くことを選び、ジョン・ラークというペルソナを創り上げたのだ。彼にとって、CIAエージェントという立場は、その壮大な計画を遂行するための隠れ蓑であり、情報を得るための手段に過ぎなかった。彼がスローン長官に語った「大義」という言葉は、皮肉にも彼自身の歪んだ「大義」を指していたのである。
もはやウォーカーは単なる監視役ではない。彼は、イーサンのやり方を熟知し、その能力を正確に把握し、そしてイーサンの信念とは真逆の思想を持つ、まさにイーサン・ハントにとって最悪かつ最強の敵として立ちはだかる。プルトニウムを巡る攻防は、二人の男の信念と生き残りを賭けた死闘へと発展していく。この裏切りが明らかになることで、セクション2で描かれたウォーカーとイーサンの対立構造は、より根深く、そして絶望的な思想の対立であったことが鮮明になる。
オーガスト・ウォーカー=ジョン・ラークという衝撃の事実は、『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』という作品を、単なるアクション大作から、人間の信念や正義とは何かを問いかける重厚なドラマへと昇華させる重要な要素となっている。
フォールアウトが問いかける「信念」と「選択」
『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』は、オーガスト・ウォーカー=ジョン・ラークという強烈な悪役を通じ、単なるアクション超大作に留まらない深いテーマを提示した。彼の存在は物語に複雑な奥行きを与え、シリーズ屈指の傑作へと押し上げた要因の一つだ。
本作の核心は、イーサン・ハントとウォーカーの対照的な「信念」の衝突にある。イーサンが仲間と無辜の命を重んじる一方、ウォーカーは「大いなる苦しみ」による世界の浄化という歪んだ信念を抱いた。この異なる信念が彼らの「選択」を左右し、破滅的な「フォールアウト(副次的影響)」を生む。それは私たち自身の人生における「選択」の重みを問いかける。