『ジュラシック・パーク』シリーズには人間の手によって復活した多くの恐竜が登場し、毎回人間の手によってシステムが崩壊し恐竜が暴れだしてしまうというお決まりの流れがある。これはシリーズを通して描かれているテーマの根底にカオス理論があるからだ。（関連記事：「ジュラシック・パークシリーズを見る順番と時系列！シリーズテーマも解説」）
ジェフ・ゴールドブラム演じるイアン・マルコム博士は、そのカオス理論の代弁者として登場する。しかし当初の企画会議の段階では、脚本から消される可能性があったとゴールドブラム自身が明かしている。
カオスは創造的な入り口
「スピルバーグに初めて会った時、脚本の書き直しがあると言われたんだ。イアンなくなると告げられた一一ムダだとは思ったが何とかしようと必死で彼に食い下がったよ。」
出典：12月5日(水)ブルーレイ&リリース『ジュラシック・ワールド/炎の王国』特典映像一部公開 – YouTube 2025年8月21日閲覧
1作目でのキャスティングからゴールドブラムにとってはカオスだったことがわかる。いまではイアン・マルコム博士はジュラシック・パークシリーズには欠かせないキャラクターへと成長した。
ゴールドブラムは、ジョシュ・ホロウィッツ（Josh Horowitz）のYouTubeチャンネルでの2024年の対談で自分自身がカオスだと表現し「カオスは創造的な入り口だ」とも言っている。
現実のカオス理論とジュラシック・パーク
京都産業大学 理学部 数理科学科の細野雄三教授はカオス理論を次のように説明する。
「最初の状態がほんの少し違うだけで、将来非常に大きな違いを生む」というものです。わずかな誤差がやがて想像もつかないような大きな差になってしまい、混沌とした状態が生まれる。ここから「カオス」という名前がつきました。
出典：決定されているのに予測できない未来—世界観を覆した数学理論— | サイエンス＆テクノロジー | 研究・社会連携 | 京都産業大学 2025年8月21日閲覧
本来予測できるはずのものが、最初のちょっとした違いだけで誰も予想できないような状態になってしまう。それがカオス理論。
もともと恐竜の復活という誰も予測のできないジュラシック・パークにカオス理論を当てはめることはエンタメとしての誇張がされているが、規定通りに動かない人間によりシステムが破綻してしまうことはカオスな状態だといえるかもしれない。
そして予想外の繁殖を防ぐためにメスのみに選別をしていた恐竜たちは、パークの外で自分たちで繁殖をはじめてしまう。これは恐竜を復活させるときに不足していたDNA情報を、カエルのDNAで補ったことにより起きたカオスな状態だ。
結論：マルコムの黄昏、ゴールドブラムの夜明け
イアン・マルコムは6作品にわたり、物語の根幹をなすテーマ「生命は、道を見つける」を訴える預言者だった。しかし、その役割には一つの区切りが訪れたのかもしれない。ゴールドブラムは、Total Filmのインタビューでその終わりを示唆している。
「イアン・マルコムは夕日に向かって去ってしまったかもしれない。もしかしたらね」
出典：Jeff Goldblum on the fate of his Jurassic World character and whether Dominion deserved all the hate: “It’s tough to make a good movie” | GamesRadar+ 2025年8月21日閲覧
(“I think Ian Malcolm may have ridden off into the sunset. Maybe,”)
映画の中で「カオスの危険性」を警告し続けた博士は、その役目を終え、観客の前から姿を消す。
しかし、それは物語の終わりではない。なぜなら、彼を演じた俳優自身が、カオスのもう一つの側面を体現し続けているからだ。ゴールドブラムは「カオスは創造的な入り口だ」と語る。
その言葉を証明するかのように、彼はジャズピアニストとして即興性に満ちた音楽を奏で、『ウィキッド ふたりの魔女』（2024）ではオズの魔法使いという全く新しい顔を見せる。一つ所に留まらず、予測不能なキャリアを歩み続けるその姿は、まさに「創造的なカオス」の実践者そのものだ。
イアン・マルコム博士は、私たちにカオスの恐ろしさを教えてくれた。そして今、ジェフ・ゴールドブラムは、自身の生き方を通して、カオスの素晴らしさを教えてくれている。
『ウィキッド 永遠の約束』は本国アメリカでは11月に、日本でも2026年3月に公開予定。
