1993年に公開された映画『ジュラシック・パーク』。その映像技術は映画史に革命をもたらしたが、作品の価値を不朽のものとしているもう一つの要素が、その音楽である。メインテーマが流れると、多くの人が広大な自然とそこに息づく恐竜たちの姿を即座に思い浮かべる。（関連記事：「『ジュラシック・パーク』の恐竜はなぜリアルだったのか？製作を支えたVFX技術を深堀り」）
この楽曲は、単なる映画音楽という枠を超え、一つの文化的アイコンとして機能している。発表から数十年を経た現在でも、テレビ番組、スポーツイベント、コンサートなど様々な場面で耳にする機会は多い。それは、この曲が持つ普遍的な魅力が、世代や文化を超えて人々の感情に直接訴えかける力を持つからに他ならない。本記事では、このテーマ曲がなぜこれほどまでに愛され続けるのか、その構造や背景を多角的に分析していく。
音楽の魔法：ジョン・ウィリアムズが込めた想い
本作の音楽を手掛けたのは、映画音楽の巨匠、ジョン・ウィリアムズである。『スター・ウォーズ』、『E.T.』、『インディ・ジョーンズ』シリーズなど、彼の作品リストはそのまま映画の歴史と重なる。
『ジュラシック・パーク』のテーマにおける彼の作曲アプローチは、極めて巧みだ。楽曲は大きく二つの主要な動機（モチーフ）から構成されている。一つは、ホルンによる勇壮なファンファーレであり、これは未知の島への冒険、そしてこれから始まる出来事への期待感を象徴する。もう一つは、ストリングスが奏でる壮麗で美しいメロディであり、人類が初めて目にする恐竜という生命の雄大さ、そしてそれに対する畏敬の念を表現している。
ウィリアムズは、スティーヴン・スピルバーグ監督から「畏敬の念と、バレエのような優雅さ」を求められたという。彼はその抽象的な要求に対し、高揚感と荘厳さを見事に両立させたこの楽曲で応えた。恐怖やスリルだけでなく、生命の神秘に対する感動を音楽で表現したことこそ、彼が「魔法」と評される理由だ。
感動が蘇る！音楽が最高潮に達する映画の名シーン
映像と音楽の完璧な融合は、映画におけるカタルシスを生む。『ジュラシック・パーク』には、その好例となるシーンがいくつも存在する。
代表的なのは、主人公たちがヘリコプターでイスラ・ヌブラル島へ初めて上陸する場面だ。眼下に広がる紺碧の海と緑深い島。ここで静かに流れ始めるテーマ曲のファンファーレは、観客を登場人物たちと同じ冒険の当事者へと変える。
そして、最も象徴的なのが、アラン・グラント博士が初めてブラキオサウルスの姿を目の当たりにするシーンである。驚愕と感動で言葉を失う彼の表情に重なるように、あの壮大なメインテーマが全開で鳴り響く。ここでは音楽が単なる背景ではなく、登場人物の内心の感動そのものを代弁する役割を果たしている。この映像と音楽の相乗効果が、観客に忘れがたい映画体験を刻み込んでいるのである。
【体験談】USJやコンサートで味わう生の迫力
『ジュラシック・パーク』のテーマ曲の魅力は、スクリーンの中だけに留まらない。ユニバーサル・スタジオ・ジャパン（USJ）の人気アトラクション「ジュラシック・パーク・ザ・ライド」では、クライマックスに向けてこのテーマ曲が効果的に使用され、ゲストの興奮を最大限に高める演出がなされている。
出典：John Williams & Vienna Philharmonic – Williams: Theme from “Jurassic Park” – YouTube 2025年9月30日閲覧
また、世界各地で開催される映画音楽コンサートでも、本曲は定番の演目である。オーケストラによる生演奏は、録音された音源とは比較にならないほどの情報量と音圧を持つ。金管楽器の輝かしい響き、弦楽器の豊かなうねり、打楽器がもたらす地響きのような重低音。それらが一体となって空間を満たす時、聴衆はあたかも自分がイスラ・ヌブラル島に立っているかのような錯覚を覚える。これらは、音楽を通じて映画の世界を「追体験」する特別な機会と言える。
あなたも演奏できる？ピアノや吹奏楽で挑戦！
このテーマ曲は聴くだけでなく、自ら演奏したいと考える人々も多い。その需要に応え、ピアノ独奏用、吹奏楽、オーケストラ、さらにはリコーダーやギター用など、様々な編成の楽譜が出版・販売されている。
特にピアノや吹奏楽は人気のジャンルであり、インターネット上では数多くの演奏動画が公開されている。演奏のポイントは、ファンファーレ部分の歯切れの良さと、メインテーマの滑らかで壮大なスケール感を表現し分けることにある。技術的には決して容易ではないが、この名曲を自らの手で奏でる達成感は格別なものがあるだろう。
深掘り考察：あの名曲に似てる？続編との違いは？
『ジュラシック・パーク』のテーマ曲は、その独創性にもかかわらず、一部でグスターヴ・ホルストの組曲『惑星』の中の「木星」との類似性が指摘されることがある。これは、壮大なオーケストレーションや、希望を感じさせるメロディの上昇感に共通点が見出せるためと考えられる。しかし、これは盗用という類のものではなく、クラシック音楽の伝統に根差したウィリアムズの作風が表れた結果と解釈するのが妥当であろう。
また、続編である『ジュラシック・ワールド』シリーズの音楽はマイケル・ジアッチーノが担当している。彼がこの大役を任された背景には、単なる実力だけでなく、シリーズとの深い縁が存在する。ジアッチーノがプロの作曲家として初めて大きな仕事を手掛けたのが、奇しくもスティーヴン・スピルバーグが製作総指揮を務めたビデオゲーム『The Lost World: Jurassic Park』（1997年）の音楽だった。
彼自身、後に映画シリーズへ作曲家として復帰したことを
初めての音楽の仕事がスティーブン・スピルバーグ監督のビデオゲーム『ロストワールド』だったから。まるで家に帰ってきたような、あるいは一つのループに収まったような感覚だった。
出典：Michael Giacchino on Jurassic World, Star Trek 3, and More 2025年9月30日閲覧
と語っている。この原点とも言える経験が、ジョン・ウィリアムズへの深いリスペクトとして彼の音楽に反映されているのだ。そのため、彼の楽曲はオリジナルのテーマを効果的に引用しつつ、より現代的でスリリングなアクションシーンに対応した新たなテーマを構築している点に特徴がある。
まとめ：『ジュラシック・パーク』のテーマ曲は、永遠の冒険への招待状
ジョン・ウィリアムズが作曲した『ジュラシック・パーク』のテーマ曲は、映画の成功に不可欠な要素であっただけでなく、それ自体が独立した芸術作品としての価値を持つ。
この楽曲は、聴く者に冒険への憧れ、未知への好奇心、そして生命への畏敬の念を喚起させる。それは、子供の頃に誰もが抱いたであろう純粋なワクワク感の記憶と分かちがたく結びついている。だからこそ、このメロディはこれからも色褪せることなく、新たな世代の心をも掴み、永遠の冒険へと誘い続けるに違いない。
参考資料：
- Jurassic Park – The Legacy of John Williams 2025年9月30日閲覧
- JURASSIC PARK – John Williams | MOVIE MUSIC UK 2025年9月30日閲覧
- シートベルトを締めて#ジュラシックパーク #ショート – YouTube 2025年9月30日閲覧
- John Williams & Vienna Philharmonic – Williams: Theme from “Jurassic Park” – YouTube 2025年9月30日閲覧
- Michael Giacchino on Jurassic World, Star Trek 3, and More 2025年9月30日閲覧
