
『ジュラシック・パーク』シリーズは、恐竜映画の金字塔として1993年に産声を上げて以来、30年以上にわたり多くの観客を魅了し続けてきた。しかし、シリーズ全体を通してみると、評価は必ずしも一貫して高いわけではない。
では、なぜ第1作目と『ジュラシック・ワールド』は高く評価され、その他の中間作はやや不評なのか? この記事では、”ロマンと脅威”という二軸をもとにシリーズ全体を再評価していく。
結論:面白いかどうかは「ロマンと脅威」のバランスで決まる
- 第1作『ジュラシック・パーク』と第4作『ジュラシック・ワールド』は、「ロマン」と「脅威」が完璧なバランスで共存しているため、圧倒的に面白い。
- その他の中間作は、このバランスが崩れ、「脅威(パニック)」に偏重したり、「ロマン」の方向性が迷走したりしたため、評価が伸び悩んだ。
つまり、このシリーズは単なる恐竜パニック映画ではなく、「科学への夢と憧れ(ロマン)」と「それによって生じる制御不能な恐怖(脅威)」の振れ幅こそが、面白さの源泉だといえる。
シリーズ評価の変遷(Rotten Tomatoesより)
まずは客観的なデータとして、海外の大手レビューサイト「Rotten Tomatoes」の評価を見てみよう。批評家と観客のスコアに注目すると、評価の傾向がより鮮明になる。
作品タイトル | 公開年 | 批評家スコア | 観客スコア |
ジュラシック・パーク | 1993 | 91% | 91% |
ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク | 1997 | 56% | 52% |
ジュラシック・パークIII | 2001 | 49% | 37% |
ジュラシック・ワールド | 2015 | 72% | 78% |
ジュラシック・ワールド/炎の王国 | 2018 | 47% | 48% |
ジュラシック・ワールド/新たなる支配者 | 2022 | 29% | 77% |
ジュラシック・ワールド/復活の大地 | 2025 | 51%(速報) | 71%(速報) |
(注:スコアは2025年7月時点のもの)
表が示す通り、批評家・観客ともに第1作と第4作(『ワールド』)の評価が突出している。では、その理由を「ロマンと脅威」の視点から探っていく。(関連記事:「『ジュラシック・パーク』歴代監督を徹底解説:演出の違いと脚本家とのタッグが生んだ進化の系譜」)
【考察】成功の鍵は「ロマン」と「脅威」の共存
成功例①:『ジュラシック・パーク』(1993) – 完璧なバランス
この作品が名作たる所以は、2つの要素の調和にあります。
- ロマン: 琥珀の中のDNAから恐竜を現代に蘇らせるという、誰もが胸を躍らせる科学の夢。ジープのオープンカーに乗ったグラント博士たちの目の前に広がる、本物の恐竜たちが闊歩する島の光景は、まさにロマンの結晶。
- 脅威: 数学者イアン・マルコム博士の「生命は道を見つける」という言葉に象徴されるように、自然の摂理を無視した人間の傲慢が生み出す、制御不能の恐怖。嵐の夜、静寂を破って現れるT-レックスの姿は、ロマンが悪夢に変わる瞬間を見事に描き出した。
科学の可能性という輝かしい「ロマン」と、その代償としての「脅威」。この両輪が完璧に噛み合ったからこそ、私たちはただ恐怖するだけでなく、作品世界に深く没入し、感動することができた。(関連記事:「ジュラシック・パークシリーズを見る順番と時系列!シリーズテーマも解説」)
成功例②:『ジュラシック・ワールド』(2015) – ロマンの再構築
シリーズ復活の狼煙を上げた本作も、巧みにこの成功法則を再構築している。
- ロマン: 1作目では叶わなかった夢のテーマパークが、ついに現実のものとして運営されている世界。子供たちがトリケラトプスに触れ、モササウルスの水中ショーに歓声を上げる光景は、新たな世代のロマンそのもの。
- 脅威: 「もっと大きく、もっと刺激的に」という商業主義が生み出した、遺伝子操作によるハイブリッド恐竜「インドミナス・レックス」。これは、単なる恐竜ではなく、人間の行き過ぎた欲望が具現化した、新しい形の脅威だった。
1作目へのオマージュを捧げつつ、「テーマパークの実現」というロマンを更新し、現代社会の課題を反映した脅威を描いたことで、シリーズは再び輝きを取り戻した。
評価が伸び悩んだ中間作 – なぜバランスが崩れたのか
- 『ロスト・ワールド』『ジュラシック・パークIII』: これらの作品では、舞台が「管理されたパーク」から「野生の島(サイトB)」へ移行。これにより、「科学の夢」というロマンの側面が大きく後退し、物語は単に「脅威(野生恐竜)からいかに逃げるか」というサバイバルアクションに偏重してしまった。観客が体験したのは驚きやワクワク感よりも、ひたすら続く緊張感であり、それが単調な印象を与えた一因だ。
- 『炎の王国』『新たなる支配者』: 新シリーズの後半では、テーマが「恐竜の兵器利用」「密売」「人類との共存」といった、より複雑で社会的な問題へと広がった。これにより、初期の純粋な「恐竜に会いたい」というロマンが希薄になり、「警告」や「倫理」の側面が強くなった。観客がシリーズに求める冒険活劇の要素と、作り手が描きたいテーマとの間にズレが生じ、物語が迷走していると感じさせた可能性がある。
最新作『ジュラシック・ワールド/復活の大地』はどうか?
批評家スコア51%、観客スコア71%(速報値):肯定と否定が拮抗する中評価。
- ロマンの再構築:人類を救う新薬を開発するため、陸・海・空の3大恐竜のDNAを採取。
- 脅威の更新:テクノロジーだけでなく、社会や人間関係を巡る葛藤に視野を広げた点が注目。
まとめ:ロマンを忘れた恐竜映画は生き残れない
『ジュラシック・パーク』シリーズが映画史に残る存在である理由は、単なる恐竜パニックではなく、「科学への夢(ロマン)」と「自然からのしっぺ返し(脅威)」の共存によって観客の想像力を刺激したからだ。
最新作『ジュラシック・ワールド/復活の大地』がその原点に立ち返ろうとしているのなら、もう一度私たちはこのシリーズに期待をかけてよいのかもしれない。ただそれでもこのシリーズが作り続けられること自体にロマンを感じざるを得ない。