【ジュラシックパーク】トイレの弁護士はなぜ死んだ?原作との違いやトラウマ級の演出を徹底解説

【ジュラシックパーク】トイレの弁護士はなぜ死んだ?原作との違いやトラウマ級の演出を徹底解説
本物の恐竜はふわふわしたぬいぐるみでもなくイラストのキャラクターでもなく、脳裏に焼き付く巨大な捕食者であることを認識させられる。
Image:Jurassic Park Official Trailer #1 – Steven Spielberg Movie (1993) HD – YouTube

1993年に公開され、世界中を興奮と恐怖の渦に巻き込んだ映画『ジュラシック・パーク』。数々の名シーンの中でも、脳裏に焼き付いて離れないのが、弁護士ドナルド・ジェナーロがトイレでティラノサウルス・レックスに捕食される、あの衝撃的な場面。

本記事では、この映画史に残る「トイレのシーン」について、ジェナーロのキャラクター像、原作小説との驚くべき違い、そして多くの子供たちにトラウマを植え付けたスピルバーグ監督の巧みな演出術を、公式情報やインタビューを交えて徹底的に解説する。

スポンサーリンク

惨めな最期を遂げた弁護士、ドナルド・ジェナーロとは?

パークを「金の成る木」と見なした守銭奴

ドナルド・ジェナーロは、パークの建設に出資した投資家たちを代表するインジェン社の顧問弁護士。当初はパークの安全管理に懐疑的な姿勢を見せていたが、本物の恐竜を目の当たりにすると「こいつは大儲けできるぞ…!」と態度を一変させ、パークを巨大な利益を生むビジネスとしてしか見なくなる。

T-REXから逃げた末の皮肉な結末

物語中盤、T-REXが脱走するパニックの中、ジェナーロはグラント博士の制止を振り切り、幼い子供たちを見捨てて一人だけトイレに逃げ込む。しかし、その脆い避難場所はT-REXによって無残に破壊され、彼は便座に座ったままの姿で発見され、捕食されてしまうという、映画史に残る皮肉で惨めな最期を迎えた。

この役を演じた俳優マーティン・フェレロも、街中で「『ジュラシック・パーク』でトイレで食べられた人ですよね?」と声をかけられると認めており、このシーンがいかに強烈なインパクトを残したかがうかがえる[1]

【原作比較】小説では英雄だった?映画と全く違うジェナーロ像

映画では「臆病な守銭奴」として描かれたジェナーロですが、マイケル・クライトンの原作小説では全く異なる、驚くべき人物として描かれている。

勇敢に行動し、生還する小説版

小説版のジェナーロは、30代半ばの筋肉質な人物として登場する。グラント博士からは「卑怯者」扱いされる一面もありつつも、マルドゥーンと共にグラント博士らの救助に向かったり、ラプトルが徘徊する中で率先して行動したりと、窮地において勇敢さを発揮するヒーロー的なキャラクターだ。その活躍もあり、彼は小説では最後まで生き残ることに成功している[2]

俳優も知っていた原作との違い

実は、ジェナーロを演じたマーティン・フェレロ自身も、原作でのジェナーロの活躍を知っていた。彼はスピルバーグ監督に対し、「原作では生き残るうえに子供たちを救う立場にあるんだから死なせない方がいいんじゃないの?」と提案したといいます。しかし、スピルバーグ監督の答えは揺るがなかった。

「(スピルバーグ監督は)『いや、彼はトイレで死ぬんだ。ティラノサウルス・レックスに食べられてしまう』と答えたんです」

出典:‘Jurassic Park’: Meet ‘the guy who died on the toilet’ 2025年10月10日閲覧

この決定により、映画史に残る名シーンが誕生した。

続編小説での意外な結末

ちなみに、原作で生き残ったジェナーロだが、続編小説『ロスト・ワールド』では、前作から4年後に「とある出張先で赤痢を患い亡くなった」と語られており、ここでも映画とは異なる運命を辿っている[2]

なぜトラウマに?スピルバーグが仕掛けた「恐怖の演出」

このシーンが、特に当時の子供たちにトラウマ級の恐怖を与えたのには、明確な理由がある。それは、スピルバーグ監督が仕掛けた巧みな演出に他ならない。

「かわいい恐竜」のイメージを覆したリアリズム

『ジュラシック・パーク』公開以前、多くの子供向けコンテンツにおいて、恐竜は親しみやすいキャラクターとして描かれていた。当時アメリカで大人気だったテレビキャラクター、紫色のティラノサウルス「バーニー」のように、柔らかくて抱きしめたくなるような存在として認識されていた[3]

しかし、本作に登場する恐竜たちは、徹底的に「特別写実的に」描かれた。この、それまで持っていたイメージとの圧倒的なギャップが、観客の心に強烈な恐怖を植え付けた。(関連記事:「『ジュラシック・パーク』の恐竜はなぜリアルだったのか?製作を支えたVFX技術を深堀り」)

観客を当事者にするカメラワーク

撮影監督のディーン・カンディは、スピルバーグ監督の狙いを「観客がまるで同じ自動車に乗っているようだ」と語っている。連続的なカメラの動きや、登場人物の視点に立ったようなカメラアングルは、観客に極度の緊張感と感情移入をもたらしたという[3]

この演出により、観客は安全な客席からではなく、まるでT-REXの目の前にいるかのような当事者としての恐怖を体験させられた。

まとめ:映画史に刻まれた名(迷)シーン

『ジュラシック・パーク』のトイレのシーンは、単なるショッキングな場面というだけでなく、キャラクター設定、原作との対比、そして計算され尽くした演出術が融合して生まれた、映画史に残る名シーンだ。

ちなみに、続編『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』の未公開シーンでは、ジェナーロの遺族がインジェン社に請求した慰謝料が3650万ドルであったことが語られている[1]

恐怖とブラックユーモアが見事に両立したこのシーンは、これからも多くの映画ファンに語り継がれていくことだろう。

参考資料:

  1. ‘Jurassic Park’: Meet ‘the guy who died on the toilet’ 2025年10月10日閲覧
  2. ドナルド・ジェナーロ | ジュラシック・パーク Wiki | Fandom 2025年10月10日閲覧
  3. 『映画テレビ技術』(494) P.30-31,日本映画テレビ技術協会,1993-10. 国立国会図書館デジタルコレクション 2025年10月10日閲覧