
1993年に公開され、映画史に革命を起こした『ジュラシック・パーク』。精巧に作られたアニマトロニクスとCGによりリアルに再現された恐竜たちの姿に世界中が熱狂した。その恐竜たちから逃げ惑うキャラクターたちもまた、記憶に深く刻まれている。
中でも、パークの創設者ジョン・ハモンドの孫、アレクシス・マーフィー、愛称「レックス」を演じたアリアナ・リチャーズの存在は忘れられない。しっかり者で大人顔負けのコンピュータースキルを駆使して窮地を脱する姿は、多くの観客に強い印象を残した。
この記事では、公開から30年以上の時を経た今、レックス役を演じたアリアナ・リチャーズのキャリアを振り返り、彼女が作品に寄せ続ける熱い想いを紹介する。(関連記事:「『ジュラシック・パーク』は「もうSFの世界じゃない」エリー・サトラー博士演じるローラ・ダーンEMA継続的コミットメント賞を受賞」)
運命を決めた「叫び声」- 異例のオーディション秘話
アリアナ・リチャーズがレックス役を掴んだオーディションは、非常に珍しいものだった。当時12歳だった彼女は、セリフを読むことを求められず、ただひたすらに「叫ぶ」ことだけを要求された。
「『ジュラシック・パーク』の公開前から数年間俳優として活動していたので、オーディションのプロセスには慣れていましたが、今回は極秘だったため、異例のものでした。すべてが極秘にされていたため、台本は渡されず…ただオーディションに呼ばれ、叫んでいるところを録音されただけでした。」
出典:Jurassic Park at 30: Lex star Ariana Richards breaks down iconic scenes | Radio Times 2025年9月7日閲覧
キャスティング担当者は彼女にこう指示したと言う。「恐竜に襲われているみたいに演技してください。実際にそうなっているところを想像して、思いっきり叫んでください」。これがオーディションの全てであり、リチャーズ本人も「人生で一番奇妙なオーディションでした!」と振り返っている。
しかし、この「叫び声」こそが、スティーヴン・スピルバーグ監督の心を掴む決め手となった。数週間後、彼女は見事レックス役を射止め、ローラ・ダーンやサム・ニールといった豪華キャスト陣と共に、恐竜だらけのセットに立つことになった。
知性で道を切り開くハッカー少女「レックス」
映画に登場するレックスは、原作小説とはキャラクター設定が一部変更されている。弟のティムが恐竜マニアである一方、姉のレックスはコンピューターに詳しいハッカーとして描かれ、そのスキルでパークのシステムを復旧させ、一行の危機を救う重要な役割を担う。
リチャーズ自身、この役柄が持つ意味の大きさを感じていた。
「当時、若い女性女優がこれほどの規模の映画でそのような役を与えられ、知性やテクノロジー、コンピューターの知識を披露する機会を得ることは、あまり一般的ではなかったと思います。実際にハッカーとなり、自分のスキルを駆使し、勇気を示し、窮地を救うことができるのですから」
出典:Jurassic Park at 30: Lex star Ariana Richards breaks down iconic scenes | Radio Times 2025年9月7日閲覧
彼女が演じたレックスは、単に恐竜から逃げるだけの少女ではなく、自らの知恵と勇気で運命を切り開く、新しい時代のヒロイン像を提示した。
撮影の舞台裏:記憶に残る名シーンの数々
劇中には数々の象徴的なシーンがあるが、その撮影の裏側には様々なエピソードが隠されていた。
T-Rexとの遭遇シーン
T-Rexに追われ、崖から車ごと落ちそうになるシーンでは、サム・ニール(アラン・グラント博士役)の背中に飛び乗る場面がある 。リハーサルとは違う形で勢いよく飛び乗ってしまった結果、二人は崖のセットから下のマットレスに落ちてしまい、「あの瞬間、私はサム・ニールを殺しかけたんだ!」とユーモアを交えて語っている。
ラプトルとの厨房での攻防
映画史に残る緊迫したシーンである、厨房でのラプトルとの攻防。この撮影はユニバーサル・スタジオで数日間にわたって行われた 。特殊効果アーティストのジョン・ローゼングラントがラプトルのスーツを着て演じることもあれば、何も無い場所を想像して演技することもあったそう 。特に、弟がラプトルに襲われそうになるシーンで、スピルバーグ監督から「次のテイクでは君に完全に解き放たれてもらいたいんだ。文字通り正気を失って、狂乱する姿を見たい。私たちを怖がらせてほしいんだ」という指示を受け、女優として新たな深みに到達できたとリチャーズは語っている。
また、撮影中に本物のハリケーンに遭遇した際には、キャスト全員でホテルの宴会場に避難し、スピルバーグ監督が語る幽霊話に耳を傾けたという、今となっては忘れられない思い出も明かしている。
30年を経ても変わらぬ作品への愛
リチャーズは続編である『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』(1997)にもカメオ出演したが、その後レックス役を再演することはなかった 。しかし、彼女の作品への愛は少しも色褪せていない。
公開から30年が経ったことについて、「本当にショックです。今でも信じられません」と驚きを語りつつ、「振り返ってみると、『わあ、私はこんなに特別な作品の一部だったんだ』と、ただただ感激しています」と、この作品に参加できたことへの誇りを口にしている。
再びレックス役を演じることについて聞かれると、彼女は迷いなくこう答えている。
「ええ、もちろんです。『ジュラシック・パーク』は参加するのがとても楽しい作品の一つなので、レックスとして参加できることをずっと楽しみにしていました。…もし彼らがレックスとティムを物語の一部にできると信じ、私たちを招待してくれるなら、私はいつでもまた出演したいと思っています。」
出典:Jurassic Park at 30: Lex star Ariana Richards breaks down iconic scenes | Radio Times 2025年9月7日閲覧
アリアナ・リチャーズは現在、画家をメインとして活動している。『ジュラシック・パーク』という金字塔への出演は、彼女の人生にとってかけがえのない宝物であり、今もなおその輝きを失っていない。