
※この記事には映画『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』、続編『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』の一部ネタバレを含みます。
まずは一目でわかる!登場人物キャスト一覧&キャラクター相関図
映画『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』からの続編『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』は、その複雑なプロットと多彩なキャラクターが魅力だ。物語の全体像を把握するため、まずは主要な登場人物とキャスト、そして彼らの関係性を一覧で確認しよう。

役名 | 俳優名 | 日本語吹替声優 | 勢力/立場 |
イーサン・ハント | トム・クルーズ | 森川智之 | IMF |
グレース | ヘイリー・アトウェル | 園崎未恵 | 泥棒 → IMF協力者 |
ルーサー・スティッケル | ヴィング・レイムス | 手塚秀彰 | IMF |
ベンジー・ダン | サイモン・ペッグ | 根本泰彦 | IMF |
ガブリエル | イーサイ・モラレス | 津田健次郎 | エンティティの代理人 |
パリス | ポム・クレメンティエフ | 高梁りつ | ガブリエルの部下 → イーサン協力者 |
ユージーン・キトリッジ | ヘンリー・ツェニー | 江原正士 | 元IMF長官 / CIA長官 |
ニーリー提督 | ハンナ・ワディンガム | 藤本喜久子 | アメリカ海軍提督 |
エリカ・スローン | アンジェラ・バセット | 高島雅羅 | アメリカ合衆国大統領 |
ジャスパー・ブリッグス | シェー・ウィガム | 石住昭彦 | CIAエージェント |
ドガ | グレッグ・ターザン・デイヴィス | 杉村憲司 | CIAエージェント / ジャスパーの相棒 |
ウィリアム・ダンロー | ロルフ・サクソン | 牛山茂 | 元CIA分析官 |
タピーサ | ルーシー・トゥルガグユク | ウィリアム・ダンローの妻 |
序論:『ファイナル・レコニング』は”究極の選択”の物語
『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』の真の敵は、自己増殖するAI「エンティティ」ではない。本当の敵、それはエンティティが人類に突きつける「信頼を捨てさせる誘惑」そのものである。
全知全能の力を独占すれば、唯一の勝者になれる──。その甘い囁きは、国家間の、そして人間同士の信頼関係を汚染し、内側から世界を崩壊させようと目論む。
この記事は、単なるキャスト紹介ではない。この映画が、AIが提示する『計算と不信の道』と、イーサン・ハントたちが選ぶ『非合理的な信頼の道』の、どちらを人類が選ぶのかを問う物語であることを解き明かすものである。各キャラクターは、この究極の選択を迫られる存在として描かれているのだ。
第一章:エンティティの囁き -「計算と不信」に囚われた者たち
物語の対立軸は、エンティティの論理、すなわち「不信」を前提に動く者たちによって形成される。彼らは合理的判断を下しているように見えて、実はAIの術中にはまっている。
ガブリエル(イーサイ・モラレス)
AI「エンティティ」という究極の計算に仕える、不信の預言者。彼こそ、イーサン・ハントという「信頼」の象徴と対をなす存在だ。イーサイ・モラレスがもたらす冷静かつ不気味なカリスマ性は、ガブリエルが単なる悪役でなく、一つの哲学を持つ恐ろしい敵であることを示している。
興味深いことに、彼のキャラクターは当初「テクノロジーに反対する人物」として構想されていたという。その変遷は、彼が人間的な価値を捨て、非人間的なロジックに仕えるに至った皮肉な背景を物語っているのかもしれない。
ユージーン・キトリッジ(ヘンリー・ツェニー)
IMF長官にして、計算と信頼の狭間で揺れるリアリスト。第1作から29年、彼の行動原理は常に国家の安全保障という「計算」に基づいている。しかし、その目的を達成するためには、グレースやイーサンといった不確定要素、すなわち「信頼」せざるを得ない人間を使わざるを得ないというジレンマを抱えている。彼の存在が、物語に冷徹な現実主義の視点を与えている。
第二章:「不信」から「信頼」へ – 成長する魂たち
「不信」の世界で生き抜いてきた者たちが、イーサンという絶対的な信頼に出会った時、物語は大きく動き出す。この章では、その変化を体現するキャラクターに焦点を当てる。
グレース(ヘイリー・アトウェル)
自己利益(不信)の世界で生きてきたスリが、イーサンとの出会いを経て”本物”の仲間になるまで──グレースの物語は、今作のもう一つの主軸である。ヘイリー・アトウェルが語るグレースの「掴みどころがなく、ずる賢い」性格は、彼女がどちらの道を選ぶか揺れ動いていることの現れだ。
撮影中、セットから小道具を「盗む」ことが習慣になったという彼女のユーモラスなエピソードは、まさに「まだ誰も信じきれない」グレースの性格を象徴しており、彼女のキャラクター造形がいかに深く練られたものであるかを物語る。
パリス(ポム・クレメンティエフ)
言葉ではなく、行動で”信頼”を選んだ暗殺者。ガブリエルへの忠誠(計算)を誓っていた彼女が、イーサンに命を救われたことで、その忠誠を捨て、恩義(信頼)を選んだ転向は、今作屈指の劇的な瞬間であった。ポム・クレメンティエフのキャラクターは多くを語らないが、身体表現と眼差しで感情を伝えることに重点が置かれている。
第三章:人間の答え -「非合理的な信頼」を選んだ者たち
エンティティのロジックでは絶対に予測・理解できない、人間だけの”バグ”。それこそが「信頼」だ。この記事の核心部分では、計算や論理を超えた信頼の尊さを、具体的なキャラクターたちのエピソードで証明していく。
ウィリアム・ダンロー(ロルフ・サクソン)
29年の時を超えた、究極の”信頼”の証明。初代でイーサンのせいで左遷された彼が、恨みではなく「君のおかげで妻と出会い、幸せな人生を送れた」と感謝を口にする。この奇跡的な再登場に、演じたロルフ・サクソン自身が「最初はジョークだと思った」と語り、最終的にダンローの登場はカメオ出演にとどまらず、役割は拡大していった。
ルーサー・スティッケル(ヴィング・レイムス)
シリーズの良心であり、”信頼”の究極の体現者。イーサンの最も古い盟友である彼が下す「自己犠牲」という決断は、この映画における「信頼」のテーマが到達する一つの極致である。彼の行動は、友情や大義が、個人の安全という「計算」をいかに上回るかを証明する、最も感動的な瞬間であった。
エリカ・スローン(アンジェラ・バセット)
権力者が下した、最も人間的な決断。世界の運命を左右する局面で、彼女はデータや確率ではなく、イーサンという一人の人間への「信頼」に未来を賭けた。演じるアンジェラ・バセットが語るように、スローンは「誠実さ、知性、決意、そして他人への信頼」を併せ持つ。その資質こそが、エンティティの誘惑に打ち勝つ鍵となったのだ。
ジャスパー・ブリッグス(シェー・ウィガム)
個人的な怨恨を超えた、和解という名の信頼。父ジム・フェルプスをイーサンに殺されたという過去に縛られ、彼を追跡するブリッグスは、いわば「不信」からスタートした人物だ。しかし、イーサンの常軌を逸した自己犠牲と、仲間や世界を救おうとする純粋な動機を目の当たりにするうち、彼の内なる正義が揺さぶられる。ラストの握手は、長年の憎しみという個人的な感情を乗り越え、目の前にある「真実」を信頼するという、極めて人間的な選択であった。
ドガ、ニーリー提督、タピーサ
この「信頼」は、連鎖していく。イーサンの行動に心を動かされ、正しい道を選ぼうと自問するドガ。過去の絆を信じ、イーサン・ハントからの直接の依頼に応えたニーリー提督。夫を信じ、チームに貢献したタピーサ。これら一人ひとりの小さな、しかし確かな信頼の選択が、巨大な「不信」の奔流に立ち向かう力となる。
結論:なぜイーサン・ハントは「最強」なのか
数々のキャラクターの選択を見てきた今、我々はイーサン・ハントという男の「本当の強さ」を再定義できる。
彼の最強たる所以は、トム・クルーズ自身の超人的なスタントに象徴される「不可能を可能にする精神」だけではない。どんな絶望的な状況でも、仲間を、そして人間性そのものを「信じ抜く」という、最も困難で非合理的な道を選び続ける、その強靭な「精神性」にあるのだ。
そして、そのイーサンの隣には、常に彼の”非合理的な信頼”を誰よりも理解し、支え続けてきたベンジー・ダンがいる。
トム・クルーズは、観客に「終わり」ではなく「希望」を感じてほしいと願う。それは、作り手から我々観客への「信頼」のメッセージだ。