
映画『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』で、観客の前に鮮烈な印象を残した新キャラクター、グレース。
彼女はいったい何者なのか?
敵か、味方か?
その目的は?
そして、多くの長年のファンが心を揺さぶられたであろう問い──彼女は、イルサ・ファウストの「代わり」なのだろうか?
彼女の登場は世界中で大きな話題を呼び、そのチャーミングな魅力が高く評価される一方で、物語の展開と相まって一部では厳しい意見も聞かれる。
この記事では、そんなグレースの正体や目的といった基本情報から、ファン最大の関心事であるイルサとの関係、そして彼女だけが持つ唯一無二の魅力、さらには続編『ファイナル・レコニング』での役割まで、制作者のインタビューなども交えながら徹底的に解説していく。
この記事を読めば、あなたがグレースに抱く全ての疑問、そしてモヤモヤが解消され、続編への期待が確信に変わるはずだ。
まずは基本情報から:新ヒロイン「グレース」の正体と目的

『デッドレコニング PART ONE』の物語が、全編を通して追いかける2つに割れた「鍵」。その鍵を巡る争奪戦の中心に、突如現れたのがグレースだ。
彼女の正体は、特定の国家や組織に属さず、己の利益のためにのみ動く腕利きの泥棒である。タイミングが命と自負するスリの能力は、プロのスパイであるイーサン・ハントすら欺くほどだ。
物語における彼女の当初の目的は、極めてシンプル。「アブダビの空港でバイヤーから鍵の片方を盗み出し、依頼人(買い手)に渡し、莫大な報酬を得ること」。彼女にとって、その鍵が持つ真の意味や、その先にいる全人類の脅威「自己学習型AIエンティティ」の存在など知る由もなかった。
そのため、物語の序盤で彼女はイーサンと敵対する。しかし、鍵を追う中で世界の命運を懸けた戦いに否応なく巻き込まれ、その立場は「敵」から、イーサンにとって最も予測不能な「協力者」へと変化していく。彼女の旅は、ここから始まったのだ。
グレースを演じるのは誰?女優ヘイリー・アトウェルと日本語声優を紹介
観客を惹きつけてやまないグレースを演じたのは、イギリス出身の俳優、ヘイリー・アトウェルだ。
彼女の名前を聞いてピンと来た映画ファンも多いだろう。それもそのはず、彼女はマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)において、キャプテン・アメリカの恋人であり、諜報組織S.H.I.E.L.D.の創設者の一人でもある「ペギー・カーター」役で絶大な人気を博している。
冷静沈着で高潔なエージェントであるペギーとは対照的に、本作ではスリリングな状況下でコミカルな表情を絶やさない、人間味あふれるキャラクターを見事に演じきった。彼女の表現力豊かな演技が、グレースというキャラクターに深みと愛嬌を与えているのは間違いない。
そして、日本語吹き替え版でグレースに生命を吹き込んだのは、声優の園崎未恵(そのざき みえ)である。MCUでのペギー・カーターの吹き替えもしており、ヘイリー・アトウェルをはじめ、アン・ハサウェイ、エミリー・ブラントなどの作品を多く担当。洋画の吹き替えやアニメ、ゲームなど幅広く活躍しており、その確かな演技力で、グレースの持つキュートさと必死さ、そして内に秘めた強さを見事に表現している。
なぜ彼女は物議を醸すのか?最大の論点「イルサとの関係」

グレースというキャラクターの評価を語る上で、避けては通れないのが、前作まで絶大な人気を誇ったキャラクター、イルサ・ファウストの存在だ。
イルサは、イーサンと対等に渡り合う戦闘能力と知性を持ち、彼の窮地を幾度となく救ってきた、まさに「もう一人の主人公」とも言える存在だった。本作での彼女の退場劇は多くのファンに衝撃を与え、その物語の矢面に立たされたのが、他ならぬグレースだったのである。(関連記事:「【ネタバレ】『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』でのイルサの死の真相|ファンの反応から監督の意図、俳優の降板理由まで完全網羅」)
「グレースのせいでイルサが死んだ」は本当か?ファンの批判的な声
ヴェネツィアの橋の上、イルサはグレースを救うために現れ、宿敵ガブリエルの刃に倒れた。この展開に「グレースの未熟な行動が招いた悲劇だ」「彼女さえいなければイルサは死なずに済んだ」と感じたファンは少なくない。
長年イルサというキャラクターを愛し、イーサンとの共闘を心待ちにしていたファンにとって、その喪失感と、悲劇の引き金となったように見えるグレースの存在に複雑な感情を抱くのは、ある意味で当然のことだろう。この「モヤモヤ」こそが、グレースが物議を醸す最大の要因なのだ。
グレースはイルサの「代わり」ではない。2人の役割の決定的な違い
しかし、制作者の視点に立つと、この出来事は全く異なる意味合いを帯びてくる。
監督であるクリストファー・マッカリーは、海外メディア『Empire』のインタビューで、イルサの死という展開についてこう語っている。
hugely important, and again arose organically from the story. It’s not about revenge – it becomes a test of character.
出典:10 More Spoiler Facts We Learned About Mission: Impossible – Dead Reckoning Part One From Christopher McQuarrie 2025年6月19日閲覧
[非常に重要で、これもまた物語から自然に浮かび上がってきた。これは復讐ではなく、人格の試練なのです。]
つまり、イルサの死はグレースを登場させるための安易なプロットではなく、主人公イーサン・ハントを「個人的な復讐心」という呪縛から解放し、より大きな目的のために戦う覚悟を固めさせるための、物語上の極めて重要な試練として設計されているのだ。
この視点に立つと、グレースとイルサの役割の違いも明確になる。イルサがイーサンと対等、あるいはそれ以上の能力を持つ「プロのスパイ」だったのに対し、グレースはあくまで「一般社会の人間」。彼女は、この異常なスパイの世界に巻き込まれた、観客に近い視点を持つ存在だ。
2人は代替可能なキャラクターではなく、物語において全く異なる機能を持っているのである。
それでも目が離せない!グレースが放つ唯一無二の魅力

イルサを巡るシリアスな議論がある一方で、グレースというキャラクターが、それを補って余りあるほどの新たな魅力をシリーズにもたらしたこともまた事実だ。
そして、彼女の魅力の根源は、その「完璧ではない」点にある。
魅力①:完璧じゃないからこそ応援したくなる「人間味」
超人的なスキルを持つIMFエージェントたちの中で、グレースは異質な存在だ。そのキャラクター設計について、クリストファー・マッカリー監督は、こう明言している。
She could not have spy skills…It was vital she had skills all her own, that were uniquely hers, and were sharpened…she can fight, and she’s willing to fight. You want to see all the raw material. You want to see the potential.
出典:10 More Spoiler Facts We Learned About Mission: Impossible – Dead Reckoning Part One From Christopher McQuarrie 2025年6月19日閲覧
[彼女にはスパイのスキルがあってはいけない…グレース独自の、彼女独自の、そして磨かれたスキルがあることが不可欠だった…彼女は戦う力があり、戦う意志もある。彼女の素質、潜在能力を見たいのだ。]
この言葉通り、グレースはスーパーヒーローではない。彼女は、己の「スリのスキル」だけを頼りに、死と隣り合わせの世界を必死に生き抜こうとする。だからこそ、我々観客は彼女の焦りや恐怖に共感し、その一挙手一投足から目が離せなくなるのだ。
特にローマ市街でのカーチェイスシーンは、彼女の人間味あふれる魅力が爆発した名場面だろう。パニックになりながらも必死にハンドルを握る姿は、これまでのシリーズにはなかった新鮮なスリルとユーモアを観客に提供した。(関連記事:「『デッドレコニング PART ONE』ローマカーチェイスの熱狂を振り返る」)
魅力②:イーサンと育む新たな「師弟のような」関係性
グレースの存在は、主人公イーサン・ハントの新たな一面も引き出した。
イーサンはこれまで、イルサをはじめとするプロの同業者と、緊張感のある対等な関係を築いてきた。しかし、グレースに対しては、まるで師匠が弟子を導くかのように、あるいは扱いの難しい相棒に振り回されるかのように、これまでにない「保護者的」な顔を見せる。
この予測不能な二人の化学反応は、物語にコミカルな緩急を生み出し、常に絶体絶命の状況に置かれるイーサンの人間的な側面をより豊かに描き出している。この新しい関係性が『ファイナル・レコニング』でどう深化していくのかも大きな見どころの一つだ。
【ネタバレ考察】グレースの決断と『ファイナル・レコニング』での役割

ここからは、物語の結末に大きく触れる。まだ映画を鑑賞していない方は、十分注意して読み進めてほしい。
利己的な泥棒として登場したグレースだが、『デッドレコニング PART ONE』の物語は、彼女の劇的な変革の物語でもあった。
ラストシーンで下した「決断」が意味するもの
絶体絶命のオリエント急行で、グレースはついに「鍵」を手放し、イーサンと世界を救う道を選ぶ。そしてラストシーン、彼女はIMFの一員となることを自ら申し出るのだ。(関連記事:「【ネタバレ徹底解説】『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』の結末を考察!『ファイナル・レコニング』への伏線も解説」)
この決断の重みについて、グレースを演じたヘイリー・アトウェルは、海外メディア『Variety』のインタビューで、象徴的なシーンを引き合いに出し、こう語っている。
I’m taking off the old identity of who Grace was from the first half of the movie, when she realizes, ‘If I had taken the money, it would have been more than the key I was giving away.’
出典:Mission Impossible 7: Vanessa Kirby and Hayley Atwell Talk Mask Scene 2025年6月16日閲覧
[映画の前半で、グレースが『もしお金を受け取っていたら、私が渡そうとしていた鍵以上のものになっていただろう』と気づくシーンで、グレースがかつてどんな人間だったのかという古いアイデンティティを、私は脱ぎ捨てているんです]
彼女の言葉通り、ラストシーンは単に生き残るための選択をしたのではない。それは、金や己の利益だけを追い求めていた「過去の自分」と決別し、より大きな大義のために生きるという、アイデンティティの変革の瞬間なのである。
続編でキーパーソンへ?残された伏線から今後の展開を大予想
このグレースの成長物語が、いかに重要視されているかは、製作の裏話からも垣間見える。
当初の脚本では、グレースはイーサンたちを出し抜いて単独で列車に乗り込み、金を得ようとする展開だったという。しかし、この利己的な行動は試写会の観客に不評であり、最終的に現在の「イーサンと協力し、自らIMFへの参加を申し出る」という展開に変更されたのだ。
この変更は、制作陣がグレースを単なるトラブルメーカーではなく、イーサンの意志を継ぎ、共に戦う重要なパートナーとして描こうとしている何よりの証拠だ。
彼女は『ファイナル・レコニング』で、イーサン、ルーサー、ベンジーに次ぐ新たなチームの一員として、その特異なスキルを駆使することになるだろう。彼女が持つホワイト・ウィドウとの繋がりといった過去の伏線も、物語を大きく動かす可能性がある。
『デッドレコニング PART ONE』で「素質」を見せた彼女が『ファイナル・レコニング』でイーサンやチームとどのような化学反応を起こし、真のIMFエージェントへと成長していくのか。その軌跡こそが、続編の最大の鍵を握っていると言っても過言ではないだろう。
まとめ:グレースは『デッドレコニング』に不可欠な新時代のヒロインだ
新ヒロイン・グレース。彼女は、その登場と共に我々に多くの問いを投げかけた。
イルサの死と結びつけられ、一部では批判的な視線も向けられたことは事実だ。しかし、本記事で考察したように、それは物語の深みを増すための意図的な設計であり、彼女とイルサは全く異なる役割を担っている。
制作者が語る通り、彼女の魅力はスパイとしての「完璧さ」ではなく、困難な状況で足掻き、成長する「人間味」にある。その未熟さがイーサン・ハントの新たな一面を引き出し、シリーズに新鮮な風を吹き込んだのだ。
そして物語の終盤、彼女は自らの意志で過去の自分と決別し、大義のために戦う道を選んだ。
グレースは、単なる新キャラクターではない。彼女は、イーサンの覚悟を試し、チームに新たな化学反応をもたらし、そして自らも成長を遂げる『デッドレコニング』という物語に不可欠な新時代のヒロインなのである。
『ファイナル・レコニング』で彼女がどのような活躍を見せるのか、我々は固唾を飲んで見守るしかないだろう。
よくある質問(FAQ)
Q1: 『ミッション:インポッシブル』のグレース役は誰ですか?
A1: イギリス出身の俳優、ヘイリー・アトウェルです。MCUのペギー・カーター役でも知られています。
Q2: グレースはイルサの代わりですか?
A2: いいえ。監督によるとイルサの死はイーサンの人格的試練であり、グレースは観客に近い視点を持つ全く異なる役割のキャラクターです。