『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』の敵コバルトとは何者か?

『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』ミカエル・ニクヴィスト(〈コバルト〉カート・ヘンドリクス)
Image:Mission Impossible/YouTube

『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』に登場する敵、カート・ヘンドリクス(通称:コバルト)は、シリーズの中でも際立って異質な存在だ。(関連記事:「映画『ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル』のあらすじと見どころ|アニメーターでもある監督の演出力」

私たちが通常イメージする悪役とは一線を画し、彼にはどこかカリスマ性すら漂っている。その理由はどこにあるのか。演じたミカエル・ニクヴィストの言葉とともに、彼の本質に迫っていく。

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敵でありながら「預言者」としてのカリスマ性

『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』ミカエル・ニクヴィスト(〈コバルト〉カート・ヘンドリクス)
Image:Mission Impossible/YouTube

コバルトはかつてスウェーデン特殊部隊に所属し、ストックホルム大学の元物理学教授。「核戦争こそが人類の進化を促す」と信じている。これは単なるテロリストの思想ではなく、人類史に対する哲学的アプローチだ。

金銭や権力といった私利私欲ではなく、あくまで思想によって突き動かされている。その純粋さが、逆に恐ろしい。

さらに、彼の組織にいるのは事実上ウィストロム(演:サムリ・エデルマン)一人だけ。無駄な殺しをせず、必要最低限の犠牲しか生まないという行動からも、ある種の冷静さが感じられる。

ニクヴィストの解釈:「彼は悪役ではない」

演じたミカエル・ニクヴィスト本人は、コバルトという役を「悪役として演じていない」と明言している。

“For me if I take my part Hendricks. It’s not a villain… he sees himself as a prophet.”
[僕にとってヘンドリクスの役は、悪役ではない。彼は自分を預言者だと思っている。]

Mission: Impossible – Protocollo Fantsma – Intervista a Michael Nyqvist (sottotitoli in italiano) – YouTubeより引用

また別のインタビューでも、彼はこう語っている。

“Whatever role you have, you have to defend your own… it’s just to bring the life in the role.”
[どんな役でも、自分の役は自分で守らなければならない。良い悪いではなく、命を吹き込むことだけを考える。]

Swedish Star Is New ‘Mission Impossible’ Villain – YouTubeより引用

こうしたアプローチが、彼の演じるコバルトを「単なる敵役」ではなく「信念の体現者」に変えている。

『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』ミカエル・ニクヴィスト(〈コバルト〉カート・ヘンドリクス)
Image:Mission Impossible/YouTube

ちなみに、立体駐車場でのトム・クルーズとの激しい格闘シーンは撮影序盤に行われたもので、この時ニクヴィストはろっ骨を3本骨折。以後3週間以上、吐き気を催すような痛みに耐えながら撮影を続けたという。まさに「役に命を吹き込む」という言葉を体現した演技だった。

見た目や雰囲気が語る「思想家としての異質さ」

見た目はごく普通の中年男性。過激な風貌や大げさな演出もなく、静かな存在感で登場する。

その抑制された怖さがむしろ不気味で、行動の根底にある思想の異常性を際立たせている。誇張された悪役像ではなく、あくまで人間としてそこにいる存在という演技が光る。

ミカエル・ニクヴィストが世界的に知られるきっかけとなった『ミレニアム』シリーズとのギャップが本作では逆に魅力になっている。

『ミッション:インポッシブル』シリーズ全体における異質な敵

『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』ミカエル・ニクヴィスト(〈コバルト〉カート・ヘンドリクス)
Image:Mission Impossible/YouTube

『ゴースト・プロトコル』以前の敵たちは金や復讐、陰謀など分かりやすい動機に突き動かされていた。

しかし、コバルトは違う。彼は明確な理想を持ち、なおかつその実現のために冷静に行動する。

「人類の進化」を信じる思想家

コバルト=カート・ヘンドリクスは、単なる悪役ではない。彼は「人類の進化」を信じる思想家であり、自らを預言者だと信じている。

ミカエル・ニクヴィストの抑制された演技と、悪役という枠を超えたアプローチが、彼を記憶に残る敵へと昇華させた。

『ゴースト・プロトコル』という作品を語る上で、彼の存在は欠かせない。