Image:Mission Impossible/YouTube
『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』の冒頭。わずか30秒ほどの映像で観客の記憶に強烈な爪痕を残した暗殺者──サビーヌ・モロー。
演じたのは、後に『グランド・ブダペスト・ホテル』(2013)や『007 スペクター』(2015)でも世界を魅了することになるフランスの俳優、レア・セドゥ。実はこの役、ある理由で急遽キャスト変更された末に彼女に巡ってきたチャンスだった。
しかも、彼女自身のアイデアで生まれたワンシーンが、サビーヌ・モローを”ただの殺し屋”から”悪魔の化身”へと昇華させた──。
この記事ではサビーヌ・モローというキャラクターの凄みと、レア・セドゥが語った撮影裏話、そしてブラッド・バード監督による演技指導スタイルまで徹底的に深掘りする。
サビーヌ・モロー──わずかな登場で観客を虜にした暗殺者
Image:Paramount Pictures UK/YouTube
『ゴースト・プロトコル』の序盤、エージェント・ハナウェイ(ジョシュ・ホロウェイ)が暗殺されるシーンは、作品全体の空気を一変させた。静かに現れる彼女はダイアモンドのみ報酬として受け取る、殺し屋のサビーヌ・モロー。
ハナウェイを射殺した後、彼をそっと腕に抱き寄せながらとどめを刺すシーンは、観客に強烈なインパクトを残した。
Ça, c’était mon idée…Ça rend le personnage encore plus diabolique.
Interview Léa Seydoux Mission Impossible Protocole – YouTubeより引用
[それは私のアイデアでした…それはキャラクターをさらに悪魔的にしています。]
セリフも説明もない。けれど、その一瞬で「この女はただ者ではない」と感じさせる。
なぜレア・セドゥがモロー役に抜擢されたのか?
実は当初、この役には別の若手女優が起用されていた。だが、モローとの格闘シーンを演じるポーラ・パットンと「見た目が似すぎていた」という理由で急遽変更に。
chose assez rare, c’est que je n’ai pas passé de casting…c’est qu’une jeune comédienne avait été retenue, mais elle ressemblait trop à l’actrice principale, Paula Patton.
Léa Seydoux – Interview Mission Impossible – YouTubeより引用
[かなり珍しいことですが、私はキャスティングには行きませんでした…若い女優が選ばれたのですが、彼女が主演のポーラ・パットンにあまりにも似ていたからです。]
この偶然が、レア・セドゥとサビーヌ・モローというキャラクターを引き合わせた。結果的に彼女の存在が、映画の冒頭に絶対的なインパクトを与えることになった。
ブラッド・バード監督は「俳優の直感」に賭けた
本作は『アイアン・ジャイアント』(1999)『Mr.インクレディブル』(2004)などで知られるブラッド・バード監督にとって、初の実写長編作品だった。
アニメーター出身ゆえに「演技を細かくコントロールしたくなる衝動」があったというが、あえて実写では、俳優たち自身の感情の動きに任せることを選んだ。
I don’t want to tell an actor how I want them to do it…I want something to come out of them, something that feels different
Director Brad Bird Mission: Impossible – Ghost Protocol Exclusive Interview – YouTubeより引用
[俳優に対して、こうしてほしいという指示はしたくないんだ…何か彼らから出てきてほしい。]
その姿勢が、レア・セドゥの「抱き寄せる演技」のような印象的な瞬間を生み出した。指示でなく、俳優自身から出た表現がキャラクターを完成させていた。
共演者やトム・クルーズから受けた影響
当時のレア・セドゥはまだアクションの経験がなかった。だが彼女は現場で、トム・クルーズからは演技だけでなく衣装に関するアドバイスまでもらい、姿勢に大きな影響を受けたと語っている。
j’avais envie de me surpasser et euh… j’avais aussi envie de mettre la main à la pâte, de participer vous-même à à ce travail.
Léa Seydoux – Interview Mission Impossible – YouTubeより引用
[自分自身を超えたいという思いもありました。私もこの作品に関わりたい、参加したいと思ったのも事実です。]
必ずしも彼女自身がアクションをする必要はないと言われたそうだが、現場で共演者それぞれから触発され、並々ならぬ思いでアクションに挑戦している。
サビーヌ・モローはなぜここまで記憶に残ったのか
彼女はただ冷酷な暗殺者だったわけではない。その冷たさの中にある異様な優しさ──
ハナウェイを抱きしめる仕草、見下ろす無表情、それら全てがサビーヌ・モローを「一瞬で忘れられない存在」に変えた。
そしてその演出の裏には、レア・セドゥ自身の発想と、俳優を信じて託したブラッド・バード監督の覚悟があった。さらに、トム・クルーズの影響を受けながら、現場で育った一つ一つの瞬間が奇跡的に重なった結果でもある。
サビーヌ・モローというキャラクターは、偶然ではなく、才能と自由と情熱が生んだ必然の奇跡だった。