映画『ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル』のあらすじと見どころ|アニメーターでもある監督の演出力

『ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル』イーサンハント
Image:Mission Impossible/YouTube

『ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル』(2011)は、ただのアクション映画ではない。

国家から見放されたスパイたちが、孤立無援で核戦争を起こそうとする狂信者に挑む物語。圧巻のビルクライミング・スタント、観たことのないスパイガジェット、そして息詰まる頭脳戦。

シリーズは基本的に7月の夏に合わせて公開されてきましたが、本作は12月の冬公開。それでも興行収入は世界で6億9,400万ドルを突破し、当時シリーズ最高のヒットを記録し、多くの観客を熱狂させた一本です。

本記事では、まだ観ていない方のために、ネタバレを避けたあらすじとともに、見どころとなるアクション、ガジェット、演出面の魅力を深掘りしてご紹介します。

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ネタバレなし!あらすじ:ゴースト・プロトコルによりイーサンたちは孤立無援に

IMF(Impossible Mission Force)は、ロシア・クレムリンでの爆破事件により、関与を疑われ解体の危機に直面。大統領からは組織との関係を否定する〈ゴースト・プロトコル〉が発動され支援を受けられない中、イーサン・ハント(トム・クルーズ)は、核戦争を起こして人類を進化させようとする通称コバルト、過激思想の持ち主であるカート・ヘンドリクス(ミカエル・ニクヴィスト)を追うことになる。

国家間の緊張が高まる中、おなじみのベンジー・ダン(サイモン・ペッグ)、そして新たにチームとなった分析官ウィリアム・ブラント(ジェレミー・レナー)とジェーン・カーター(ポーラ・パットン)とともに立ち向かうゴースト・プロトコルのミッションが始まる。

トム・クルーズが本気で挑んだ、驚異のアクション

I’ve been thinking about this shot for 15 years!
[15年間このショットについて考えていた]

Mission Impossible 4: How Tom Cruise Did The Burj Khalifa Stuntより引用

トム・クルーズは、ブルジュ・ハリファでの命がけのスタントをそう語った。

ドバイにある世界一高い超高層ビル「ブルジュ・ハリファ」(828m)を素手でよじ登るシーンは、命綱こそあるもののCGではなく本人による実演。手に汗握るシークエンスが、まさに映画でしか味わえない体験を生み出している。登るときだけでなく降りるときにロープの長さが足りず空中をダイブするシーンは、もはや美しさすら感じる映像となっている。

ブルジュ・ハリファのガラス壁を疾走するイーサン・ハント
Image:Mission Impossible/YouTube

サイレント映画の時代から続く伝統的なスタントの精神を重んじ、ハロルド・ロイドらにリスペクトを持つクルーズのスタント哲学が反映されている。

この無謀なスタントを実現するためにトム・クルーズは保険会社を替える選択をした。パラマウント・ピクチャーズとともに本作の製作に参加したスカイダンス・プロダクションズのCEOであるデビッド・エリソンはColliderに次のように明かした。

On Ghost Protocol, we wanted to hang Tom off the side of a building and we actually couldn’t get insurance, and Tom wanted to fire the insurance company [laughs]. And we did and we got somebody to insure the movie.
[『ゴースト・プロトコル』では、トムをビルの壁から吊るすつもりだったんですが、実は保険が入らず、トムは保険会社を解雇したがったんです(笑)。それで保険をかけてくれる会社を見つけたんです。]

Tom Cruise Fired Insurance Company to Do Stunt Himselfより引用

もちろんトム・クルーズは撮影に入る前に入念な訓練を実施している。ブルジュ・ハリファの窓ガラス壁を再現したそう。

The training for the Burj Khalifa stunt was also extremely thorough and calculated. The crew built a wall of glass to simulate the exterior of the real building and had Cruise climb up and down several times to get him familiarized with the discomfort of the harness and the physical toll of the climb. They went so far as to heat up the wall with artificial lights to simulate the temperature of the windows of the Burj Khalifa.
[ブルジュ・ハリファでのスタント訓練も非常に綿密で計画されたものだった。スタッフは本物のビルの外壁を模したガラスの壁を作り、クルーズに何度も登ったり降りたりしてもらい、ハーネスの不快感やクライミングの肉体的負担に慣れてもらった。彼らはブルジュ・ハリファの窓の温度をシミュレートするために、人工照明で壁を温めることまでやった。]

Mission Impossible 4: How Tom Cruise Did The Burj Khalifa Stuntより引用

撮影本番ではこのシーンを撮影するために30枚以上の窓を外し壁や床に穴を空けあらゆるところにハーネスを固定させた。映像はヘリコプターとMAXカメラによりあらゆるアングルから撮影されている。

このスタントは派手なだけでなく、ストーリーの重要な場面でもあり、緊張感と説得力を高めています。シリーズの中でも屈指の名シーンといえる。

スパイガジェットのリアリティと面白さ

『ゴースト・プロトコル』では、現実と地続きな近未来的ガジェットも魅力のひとつ。

視界をスキャンして顔認識・情報共有する未来型アイテムのカメラ内蔵コンタクトレンズ。背景をリアルタイム表示して存在を隠すユニークなトリックを実現する光学迷彩スクリーン。

どのガジェットも「現実にも近いかも」と思わせるリアリティがあり、スパイアクションのわくわくやドキドキを盛り上げている。また、時には不具合でトラブルを生む描写もあり、イーサン自身の能力の高さ、信頼感も演出されている。

『ミッション:インポッシブル』に登場するカメラ内蔵コンタクトレンズはSFの世界のものですが、現実世界でもスマートコンタクトレンズの研究開発は着実に進んでいる。特に医療分野での応用が先行しており、涙液を利用した血糖値や眼圧のモニタリングなどが研究されている。NTUシンガポールでは、塩水で発電する超薄型で柔軟なバッテリーが開発され、スマートコンタクトレンズの電源としての可能性を示している。(参考資料:「An ultra-thin battery powered by saline for smart contact lenses | NTU Singapore」)

アニメ出身監督による、スタイリッシュな演出

ブルジュ・ハリファでのスタント撮影を指揮するブラッド・バード監督
Image:Rotten Tomatoes Trailers/YouTube

監督を務めたのは、ピクサーの『Mr.インクレディブル』(2004)や『レミーのおいしいレストラン』(2007)を手掛けたブラッド・バード。

アニメーションで培った「動きの演出力」や「視線誘導のセンス」がそのまま実写に応用され、アクションが見やすく、スピード感のある映像に仕上がっています。

バード監督は実写での撮影はアニメとは違い、別パターンの撮影をその場でできる即興性があると次のように語っている。

So there are some things like that, but I loved the spontaneity of live action filmmaking. That’s something that’s very hard to get into animation and I think live action films kind of subsist on it.
[そういう部分もありますが、実写映画の即興性は大好きでした。アニメーションではなかなか実現できないもので、実写映画はそういう要素に支えられているような気がします。]

/Film Talks To Brad Bird About ‘Mission: Impossible Ghost Protocol,’ ‘1906,’ IMAX And Moreより引用

アニメ制作では何もないところにいきなり完成したものが現れるイメージだが、実写では多くの素材を編集で試しながらでき、そこが実写の即興性につながっていると語っている。

テンポの良さ、ユーモアのバランス、そしてキャラクターの感情に裏打ちされた動き――実写ながらどこかアニメ的な快感がある演出は、シリーズの中でも特にユニークなものとなっている。

初見でも楽しめる?

本作はシリーズ第4作ですが、過去作を観ていなくても十分に楽しめる。

1作目から観ている方がシリーズ全体での雰囲気という点で楽しめるのはもちろんだが、本作の物語は新たなチーム編成で始まり、前作までの情報がなくても、主人公たちと同じ目線でミッションを追体験できる構成になっている。

ただし、時間があれば前作『M:i:III』だけでも観ておくと、イーサンの人物像や妻ジュリアとの関係性がより深く理解でき、よりエモーショナルな視点で本作を楽しみたい人にはおすすめだ。(関連記事:「シリーズを形作った「M:i:III ミッション:インポッシブル3」のあらすじ」)

迷っているなら“観て損なし”のエンタメ超大作

『ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル』はスパイ映画の枠を超えた圧倒的なアクション体験と、アニメ的な緻密さを持つ映像演出が融合した、まさに異色の傑作。

トム・クルーズが実際に命を懸けて挑んだブルジュ・ハリファでのスタント、未来を先取りするスパイガジェット、そして映画全体に流れるスピード感とテンポの良さ。どれをとってもシリーズ最高との呼び声が高いのも納得の出来です。

しかも、過去作を観ていなくてもストーリーはしっかり楽しめる構成。気になる方は前作『M:i:III』をチェックすれば、イーサン・ハントの人物像にも深く迫ることができる。

迷っているなら、ぜひ一度観てみてください。きっと、観終わったあと「これは映画館で観たかった!」と思うはず。そしてその瞬間、きっとあなたも“次の作戦”を観たくなっている――。