
「トム・クルーズの最新作、アクションがすごいって聞くけど、まさか本当に飛行機で飛んでるの?」
映画『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』を観た、あるいはこれから観ようとしている多くの人が、そんな疑問を抱くかもしれない。
答えは、YES。しかも、私たちの想像を遥かに超える形で、彼は“ガチ”で飛んでいた。今回は、映画史に残るといっても過言ではない、驚愕の複葉機スタントの裏側に迫る。
常識破りのアクションシーン:翼の上の死闘
本作の最も激しいアクション・シーケンスの一つ。南アフリカのドラケンスバーグ山脈などの壮大な渓谷を舞台に、黄色と赤、2機のヴィンテージ複葉機(ボーイング・ステアマン)が空を舞う。敵であるガブリエルとその手下が乗り込むその飛行機。(関連記事:「『ファイナル・レコニング』の極限のロケ地」)
まんまと逃げおおせたと笑みを浮かべる敵の複葉機の翼の下からにょきっと現れ、拳をお見舞いするイーサン・ハント。まるでアニメーションのような動きに思わず笑ってしまう。しかし、これはアニメーションでも、CGでもない。すべて、トム・クルーズ本人が演じた現実のスタントだ。
「恐ろしい体験」- スタントの舞台裏
自身もトムと同じスタントを体験したクリストファー・マッカリー監督は、このスタントの恐ろしさを次のように語っている。
恐ろしい体験です。呼吸はしているのに、実際には酸素を吸収できず、時速140マイルの風に吹き付けられているのです。
出典:Q&A with Christopher McQuarrie – National Board of Review 2025年7月18日閲覧
(It’s horrific. You are breathing, but you’re not really getting oxygen and you’re being pounded by winds at 140 miles an hour.)
飛んでいる複葉機の翼の上を動き回るトム・クルーズには、時速140マイル(時速225㎞)の風が吹き付け、呼吸をしても実際にはほとんど酸素を吸えていないような状況。そのためトム・クルーズが翼の上にいられるのは約12分だったという。
さらにはロール、ループ、ハンマーヘッドのアクロバット飛行に合わせたイーサンの振り付けも行われている。その中でトム・クルーズは片手で翼にぶら下がるシーンも撮影したそうだが、編集のエディ・ハミルトンが冗長だと判断したためカットされたことを(「まったく冷酷な野郎」)と冗談めかしてマッカリーは明かしている。
チームで挑んだ不可能(ミッション)
過酷な訓練をこなすのはトム・クルーズだけではない。シーンを同じくするガブリエル役のイーサイ・モラレスも撮影に向けて訓練をしている。
「ええ、スカイダイビングとパラシュートの訓練もしました。それから、万が一何かあった場合に備えて飛行機の訓練もしました。何が起こるか分からないからね」
出典:“Este podía haber sido mi final”: Esai Morales cuenta su experiencia en ‘Mission: Impossible: Sentencia Final’ – ENTREVISTA 2025年7月18日閲覧
(“Bueno, entrenamos haciendo skydiving. Paracaidismo. Y también entrené en aviones, por si acaso algo pasa. Uno nunca sabe,”)
モラレスもトムがリスクを極力減らすことに神経をとがらせているのを承知している。それでも自らの命を守るために万全の準備で臨んだプロフェッショナルの覚悟が伝わってくる。
まとめ:なぜトム・クルーズは飛び続けるのか
なぜ彼は、ここまで自分を追い込むのだろうか。なぜCGに頼らず、「本物」にこだわり続けるのか。
その答えは、おそらくスクリーンの中にある。風圧で顔を歪ませ、酸素が薄い中で必死に翼にしがみつく彼の姿は、観客に「本物のスリルと興奮」を届けるという、彼の映画作りへの純粋で狂気的な情熱そのもの。
『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』の複葉機シーンは、単なるアクションを超えた、トム・クルーズという俳優の生き様の結晶と言える。(関連記事:「トム・クルーズ、死と隣り合わせ。『ファイナル・レコニング』パラシュート降下の謎と、前代未聞のスタントの裏側」)
よくある質問(FAQ)
- Qこの複葉機のスタントは本当にCGじゃないの?
- A
はい、CGではありません。時速225kmの風が吹き付ける複葉機の翼の上で、実際にトム・クルーズがスタントを行っています。
- Qこのシーンの撮影場所はどこ?
- A
南アフリカのドラケンスバーグ山脈上空で撮影されました。壮大な渓谷が、アクションのスケール感を一層高めています。