【ネタバレあり】映画「メメント」のあらすじを監督の仕掛けから簡単に解説

クリストファー・ノーラン監督「メメント」(2000年製作)日本公開 2001年11月3日のあらすじ
Image:Rotten Tomatoes Classic Trailers/YouTube

男は、10分しかもたない記憶と自らの身体に刻んだメモを頼りに、愛する妻を殺した犯人に迫っていく。

そんなシンプルな復讐劇のストーリーなはずなのにネットの「難解」「意味不明」といった前評判どおり私もさっぱりわかりませんでした。なにが分からなかったかというと、主人公レナードは復讐を果たせたのか、今後のレナードの人生はどうなるのか、クリストファー・ノーラン監督はこの映画で何を描こうとしたのか。

ノーラン監督らしさ全開の大好きな意味不明さなんですけど。

20年以上前の映画といえどネットを検索すれば意外と「メメント」に関する監督へのインタビュー記事があるもので、それらを読み漁っていくと少し監督の意図が見えてきました。

※ストーリー全体や結末が分かるようなネタバレはありませんが、記事の性質上多少のネタバレを含みます。

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簡単なはずのあらすじ

レナードはある日、愛する妻を押し込み強盗に殺されてしまう。犯人への復讐を誓うレナードだが、彼自身も頭にけがを負ってしまい新しいことは10分しか覚えられなくなってしまう。彼に残されたのは元保険外交員としての知識、愛する妻と過ごした日々の記憶、そして妻を失った喪失感のみ。

主人公の記憶が10分しかもたない、これがこの映画を難解なものにする監督の仕掛けの1つ目です。

難解な映像はレナードがみる世界そのもの

写真を撮るレナード
Image:Rotten Tomatoes Classic Trailers/YouTube

So the whole dynamic of the script is aimed at taking a really very simple story and putting the audience through the perceptual distortion that Leonard suffers, thereby making this simple story seem incredibly complex and challenging, the way it would be for someone with this condition.

だから、脚本全体のダイナミズムは、実にシンプルなストーリーを、レナードが苦しんでいる知覚のゆがみを観客に体験させることで、このシンプルなストーリーを、この症状を持つ人にとってそうであるように、とてつもなく複雑で困難なものに見せることを目的としている。(DeepL翻訳使用)

Remembering Where it All Began: Christopher Nolan on Memento/Creative Screenwritingより引用

10分しか記憶がもたないレナード視点の映像を描くための、最大の演出ポイントがつぎはぎのようなシーンの連続です。逆再生から始まり、カラー映像かと思えばモノクロの映像に切り替わり時系列もぶつ切り。これらは観客に映画的な面白さを感じてもらうためだけの演出ではありません。

この映像に対する違和感、不満こそ監督がレナードの世界を描こうとしたものとなっています。

テディとナタリーによりさらに深まる謎、そしてラストのセリフ

「メメント」ナタリー
Image:Rotten Tomatoes Classic Trailers/YouTube

難解な映像を理解するために助けになるのが他の登場人物との関わりです。しかしこの登場人物もまたノーラン監督による仕掛けとなっています。

主なキャラクターはテディとナタリーです。テディは常にレナードのことを気にかけ、記憶のないレナードが騙されないように助言をします。ナタリーは犯人につながる重要な手掛かりを教えてくれます。しかし彼らが純粋にレナードを助けるためだけではないことは明らかです。確実に彼ら自身のための他の狙いがあるようですが、それははっきりとは描かれません。

この観客に見せる部分と見せない部分のバランスがすごいです。理解できそうで理解できない。そんな演出でどんどん「メメント」の世界に入り込んでいくことになります。

「メメント」テディ
Image:Rotten Tomatoes Classic Trailers/YouTube

テディを演じているのがジョー・パントリアーノであることもおまけの演出です。ジョー・パントリアーノは「マトリックス」にて裏切り者のキャラクターを演じており、彼がテディを演じることでより怪しさを増しています。そしてその信用していいのかどうか分からなくなったテディが最後にすべてを打ち明けるかのように話すセリフ。ノーラン監督はこのすべての答えとも思えるセリフを完全には信用できないテディにあえて話させることで観客をより混乱させています。

本当に信じられないのは実は主人公のレナード

「メメント」レナード
Image:Rotten Tomatoes Classic Trailers/YouTube

レナードが最も信頼しているのが自分で書き留めているメモです。特に重要なものは刺青によって身体に刻んでいるほどです。しかしそのメモを作ったのは10分前のいわば今のレナードとは別人のレナードです。しかしそのメモを作ったのは10分前かもしれないし、1年前かもしれません。連続した記憶がないレナードに果たしてメモの意味を正確に理解できるのでしょうか。

本作においてこれが最も巧妙な仕掛けです。それまで妻を殺され記憶も失い可哀想な男として見ていたレナードに対する感情がまったく別のものへと私は変わりました。

永遠に答えの出ないレナードの人生

10分しか記憶がもたない主人公がどうやって犯人に復讐をするのか。映画を観る前はその復讐する過程にハラハラドキドキするクライムサスペンスだと思っていました。映画を観たいま、その答えを得られたような気もしますし、永遠に答えの出ないレナードの人生をぐるぐる考えている自分もいます。

映画「メメント」はそんなレナードの人生を追体験するような映画でした。