『ブゴニア』が映し出す現代の狂気――20年前のカルト作が今、リメイクされる理由

Image: BUGONIA – Official Trailer [HD] – Only in Theaters October 24 – YouTube

2003年、韓国映画界が『殺人の追憶』や『オールド・ボーイ』といった傑作を送り出し、世界的な躍進を遂げた年。その潮流の中で、ひときわ異彩を放ちながらも興行的に惨敗した作品があった。チャン・ジュナン監督による『地球を守れ!(原題: Save the Green Planet!)』だ。

本作は、地球を宇宙人の侵略から守ろうとする男の狂気を描いたSFスリラーであり、そのあまりに過激な暴力描写とブラックユーモアゆえに、当時は一部の熱狂的なファンを持つカルト映画に留まった。

しかし2025年、この「早すぎたカルト作」は、ヨルゴス・ランティモス監督の手により『ブゴニア』として現代に召喚されることとなった。

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韓国映画の成功と「失われたIP」の再発見

Variety誌の分析によれば、本作のリメイクが実現した背景には、近年の韓国コンテンツの爆発的な普及がある。『パラサイト 半地下の家族』(2019)や『イカゲーム』(2021)の成功は、欧米の観客が持つ「韓国特有のジャンルを横断する物語」への心理的障壁を完全に取り払った。

韓国のエンターテインメント企業CJ ENMは、自社の膨大なIP(知的財産)ライブラリの中から、現代の分断された社会に最も合致する物語として本作を選び出した。20年前には「理解不能」と切り捨てられた狂気が、今やハリウッドが最も必要とする商業的・批評的価値を持つに至った。

「正しさをめぐる対話」の不可能性

リメイク版『ブゴニア』の核心は、製薬会社のCEO(エマ・ストーン)を宇宙人と信じ込み、拉致・監禁する青年テディ(ジェシー・プレモンス)の葛藤にある。脚本を担当したウィル・トレイシーは、本作が現代社会における「対話の不全」を象徴していると指摘する

劇中、CEOはテディに対し、理性的かつ合理的な対話を試みる。しかし、インターネットの暗部で育まれた陰謀論を信奉するテディにとって、その言葉はすべて「宇宙人の欺瞞」として処理される。

ランティモス監督はこの構図を、「互いに自分の世界観を納得させようとする人々についての映画」と定義した。ここには、エコーチェンバー現象の中で自らの正義を研ぎ澄ませ、他者の言葉を一切拒絶する現代人の精神構造が冷徹に投影されている。

「悪い人間性」の肯定と救済の欠如

作品タイトルである「ブゴニア」は、牛の死骸から蜂が生まれるというギリシャの伝承に由来する。しかし、脚本のトレイシーによれば、それは実際には蜂ではなく「ミツバチのようにみえたアブ」であるという。この「真実と虚偽の取り違え」こそが、本作が観客に突きつける最大の不快感の正体である。

ランティモスは、本作を通じて「人間性の広大さ」を描こうとしたと語る。それは、利他的な善性だけではなく、人間の内側に潜む「失われてしまった悪いもの(汚らわしい衝動や残酷なまでの執着)」をも包含することを意味する。

テディが抱く救世主願望は、社会への憤りと個人的な欠乏感から生じた「悪い人間性」の発露だが、監督はその醜悪さを美化することも、安易に断罪することもしない。

鏡としての『ブゴニア』

観客は、スクリーンの中で暴走するテディの中に、SNSで「隠された真実」を暴こうとする自分自身の姿を重ねることになる。

『ブゴニア』は、20年前の韓国に埋もれていた狂信の物語を借りて、現代社会が抱える「正義への依存」という病理を浮き彫りにする。ランティモスとエマ・ストーンが提示するのは、救いのあるファンタジーではなく、我々が直視を避けてきた「腐敗した死骸(現実)」そのものである。