【ネタバレあり】人類の方が進んでる!?映画『プロジェクト・ヘイル・メアリー』エリディアンの科学設定

Image: Project Hail Mary | Final Trailer – YouTube

※この記事は『プロジェクト・ヘイル・メアリー』のネタバレを含みます。

エリディアンの生物学的・技術的な設定は、「人類と同じ環境を共有できるエイリアン」というSFの定型を完全に排し、実在の天体物理学的条件から論理的に逆算されている。

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実在の系外惑星に基づく極限の環境設定

少しずつ、惑星が進化してきた環境を整理していきました。それが分かれば、種族を分類し始めることができました。

アンディ・ウィアーBook Club Edition: Andy Weir and Project Hail Mary – Planetary Radio – YouTubeより引用

ロッキーの母星「エリド」は、実在する太陽系外惑星「エリダヌス座40番星A b」をモデルにしている。エリドは質量が地球の約8倍、重力が約2Gのスーパーアースだ。

タウ・セチからのパンスペルミアにより人類と共通祖先を持つロッキーたちエリディアンは、DNAやミトコンドリアを持ち、生存に「液体の水」を不可欠とする。(関連記事:「救世主はスーパーフード?映画『プロジェクト・ヘイル・メアリー』のタウメーバ」)

恒星に極めて近い軌道を持つため地表温度は摂氏210度に達する。水を沸騰させず液体に保つために、29気圧という超高圧のアンモニア大気が設定された。さらに、この分厚い大気を恒星風から守る強大な磁場を発生させるため、自転周期はわずか6時間とされている。

環境圧から逆算された特異な生物学

エリドは分厚い大気に阻まれて地表に光が届かない。ロッキーたちエリディアンは視覚が進化しなかった。代わりに、音の反響(エコロケーション/パッシブソナー)で周囲を三次元的に認識する。仲間とのコミュニケーションは、和音(コード)のような音色で行う。

彼らの筋肉の働き方は、奇妙な方法で蒸気動力になっているんです。

アンディ・ウィアーTalking Project Hail Mary With Andy Weir | Conversations With Joe Ep. 1 – YouTubeより引用

体内には「沸点以上の高温の循環系」と「低温の循環系」が独立して存在し、熱伝導率の高い「水銀の血液」を用いて筋肉内の水を沸騰(膨張)や凝縮(収縮)させることで動力を得る。彼らの筋肉は蒸気機関のピストンのように駆動する。

睡眠時には細胞メンテナンスのために高温の循環系を冷却するため、身体が完全に麻痺して動けなくなる。この無防備な状態を補うため「捕食者から身を守るために必ず誰かに見張られながら眠る」という強固な社会的習性を獲得した。

独自の技術進化ツリー

エイリアンがいつも先進的なのはうんざりだし、今回は主人公が、自分たちが先進的なエイリアンだと知ってがっかりする。

アンディ・ウィアーTalking Project Hail Mary With Andy Weir | Conversations With Joe Ep. 1 – YouTubeより引用

彼らの脳は固体結晶(solid state crystals)として機能し、暗算で極めて高度な計算が可能なため、計算機(コンピューター)を発明する必要性がなかった。また、視覚を持たないためガラスのような光学技術を発展させる動機がなく、相対性理論や放射線などの物理学の理解では人類に遅れをとっている。

その一方で、極限環境を生き抜く必要性から材料工学においては人類を圧倒している。「キセノナイト」のような驚異的な超素材を生み出した。(関連記事:「映画『プロジェクト・ヘイル・メアリー』の超素材「キセノナイト」」)

エリダヌス座40番星A bの最新研究

Image: File:40 Eridani.png – Wikimedia Commons

ハードSFとしての緻密な科学的裏付けとは裏腹に、ウィアーが設定の土台としたこの実在の惑星「エリダヌス座40番星A b(『スタートレック』のバルカン星としても知られる)」は、2024年の最新の観測データを用いた研究により、惑星の引力ではなく恒星自身の活動(脈動や震え)がもたらした「錯覚」であったことが証明され、現実の宇宙からは存在しない惑星となってしまった。

だが『プロジェクト・ヘイル・メアリー』を読んだいまなら「オーケー、次の可能性を検討しよう」という気持ちになる。

映画『プロジェクト・ヘイル・メアリー』は2026年3月20日に日米同時公開。