映画『プロジェクト・ヘイル・メアリー』でエヴァ・ストラットは、誰が片道切符の宇宙旅行に行くかを決める

Image: Project Hail Mary – Official Trailer – YouTube 2026年3月17日閲覧

映画『プロジェクト・ヘイル・メアリー』では、地球が凍結する脅威が迫っている。世界がひとつになり、誰かがリーダーとして指揮をとる必要がある。

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エヴァ・ストラットの役割:冷徹な決断と深い共感のバランス

意外かもしれませんが、私が共感する人物が一人います。それはストラットです。

原作者 アンディ・ウィアーthe-synthesis-interview-with-andy-weir-author-of-the-martianより引用 2026年3月17日閲覧

太陽の減光という人類滅亡の危機を食い止める「ペトロヴァ・タスクフォース(ヘイル・メアリー計画)」の責任者が、エヴァ・ストラット。

太陽は徐々に光を失い冷えて行っている。
Image: Project Hail Mary – Official Trailer – YouTube 2026年3月17日閲覧

ストラットは、歴史上のどの人間よりも強大な権限を与えられ、目標達成のために冷酷な決断を下さなければならない立場にある。彼女は決して、感情を持たないモンスターやロボットではない。

劇中では、ストラットが自身の権力を誇示することなく、ただ黙々と明確な目標に向かって取り組む姿が描かれる。過酷な決断や究極の犠牲に対して判断していくが、心を痛めていないわけではない。自分自身を物事の中心に置かない利他的な性質なのだ。

その人間性と共感が最も明確に表れるのが、劇中でストラットがハリー・スタイルズの「Sign of the Times」を歌うカラオケシーンだ。

エヴァ・ストラットは冷徹にみえるが、それは必ずしも彼女のすべてではない。
Image: Project Hail Mary – Official Trailer – YouTube 2026年3月17日閲覧

永遠の別れを告げるのを楽にしてくれる何かを与えることなのかもしれません。それがこの曲の本質ですから。

エヴァ・ストラット役 ザンドラ・ヒュラーSandra Hüller ‘Project Hail Mary’ INTERVIEW – YouTubeより引用 2026年3月17日閲覧

この歌は、ライランド・グレースに対する負けん気を示すと同時に、地球に永遠の別れを告げる宇宙飛行士たちへの「慰め」と「共感のサイン」として機能している。

エヴァ・ストラットを演じるための役作り:直感と「その瞬間」の重視

物語では、そのプロセスを止めるために命を捧げる人物が登場します。そして、それは私たち全員に当てはまることだと思います。

ザンドラ・ヒュラーSandra Hüller – Project Hail Mary Interview – YouTubeより引用 2026年3月17日閲覧

ザンドラ・ヒュラーはこれまで、ストラットのような強大な権力を持つ人物を演じたことがなかった。

人類の運命を左右する決断を下すリーダーの心理について、彼女は「どのように準備していいか正直わからなかった」と明かしており、特別な準備やリサーチを行うのではなく、脚本の状況に身を任せ、その瞬間の動機付けを信じるという直感的なアプローチをとった。

彼女が下すこの決断は、脚本に書かれている通りなんです。だから、俳優である私は、それをどうにかして観客に伝える方法を見つけなければならない。

ザンドラ・ヒュラーSandra Hüller Interview | Project Hail Mary – YouTubeより引用 2026年3月17日閲覧

ヒュラーは役作りにおいて、「自分個人の意見や、自分ならどうするかは重要ではない」と考え、キャラクターの行動そのものに集中した。その瞬間、ストラットがグレースに対してどう感じていたかは問題ではなく「それもまた彼女のやり方の一つだ」と役柄への理解を語っている。

ストラットがグレースに対してどう感じていたかは問題ではない。「それもまた彼女のやり方の一つだ」。
Image: Project Hail Mary | Official Trailer 2 – YouTube 2026年3月17日閲覧

劇中のカラオケシーンで歌う「Sign of the Times」はヒュラー自身が選んだものであり、過酷な状況にある宇宙飛行士たちへの思いやりを表現するために最適な選曲だと直感したという。

ザンドラ・ヒュラーの演技哲学:「恋に落ちるような」潜在意識への没入と客観性

ヒュラーの演技哲学は、非常に親密で直感的であると同時に、キャラクターに対して客観的な距離を保つという独特のバランスの上に成り立っている。

潜在意識でのキャラクターとの共生

それは内面的な営みであり、極めて個人的なものでもある。そして、恋に落ちるのと同じように、確立された方法論などなく、ただ自然に起こるものなのだ。

ザンドラ・ヒュラーSandra Hüller’s Intimate Approach to Creating Characters | Backstageより引用 2026年3月17日閲覧

彼女は役へのアプローチを「誰かに恋をするようなもの」と表現している。役を引き受けた瞬間から常にキャラクターについて考え、潜在意識レベルで役と時間を共にする。

アプローチに決まったメソッドはなく、インスピレーションを得るために美術館に行ったり、音楽を聴いて感情を引き出す。『落下の解剖学』(2023)ではボン・イヴェールからインスピレーションを得た。非常にプライベートなプロセスを重視している。

映画『落下の解剖学』での車でのシーン。ヒュラーは最終的にアメリカのインディーフォークバンド、ボン・イヴェールの曲からインスピレーションを得た。
Image: ANATOMY OF A FALL – Official Trailer – YouTube 2026年3月17日閲覧

キャラクターへの意図的な「距離」

ヒュラーは「単純な人間など存在しない」と考えており、人生の曖昧さや矛盾を体現する複雑な女性を演じることを好む。

彼女はベルリンのエルンスト・ブッシュ演劇芸術大学で、内面の表現を重視する非自然主義的な演技や規律(「仕事が終わったら衣装をきちんとクローゼットに掛けておくこと。」)を学び、キャラクターと自分を切り離す方法を持っている。

『落下の解剖学』では自身の役が本当に殺人を犯したのかどうかをあえて決めずに演じ、観客自身の道徳基準に判断を委ねた。脚本にも書かれていなかったし、彼女自身そこまで考えるべきではないと判断した。

『関心領域』(2023)でナチス将校の妻を演じた際は、生活習慣から推測できる少し腰をかがめ、足をぎこちなく大きく開いた歩き方をし、キャラクターに一切の共感や人間的な感情を与えないことを意図的に選択した。こうした演技上の選択は、ヒュラーと役との適切な距離を保った。

エヴァ・ストラットは世界の方針を決める権限をもつ。そのなかには冷酷に見える決断もある。しかし彼女も滅亡の危機がすぐそこまで来ている地球に生きるひとりの人間だ。

ザンドラ・ヒュラーは、ストラットをただ優秀で冷静な判断ができる人間としてではなく、仲間である宇宙飛行士に命を犠牲にする選択をさせながらも地球を救うために前に進むしかないキャラクターとして共感している。