Image: Project Hail Mary – Official Trailer – YouTube
※この記事には映画『プロジェクト・ヘイル・メアリー』のネタバレを含みます。
『プロジェクト・ヘイル・メアリー』には地球外微生物「アストロファージ」が登場する。ギリシャ語で「星」を意味する“astro-”と「食べるもの」を意味する“-phage”を組み合わせたもの。著者であるアンディ・ウィアーによる造語だ。
アンディ・ウィアーはアストロファージを「地球を滅亡の危機に陥れる『絶対的な脅威』であると同時に、星間飛行を可能にする『奇跡の燃料』でもある」と表現し、極めて緻密に計算された地球外微生物として描いている。
恒星のエネルギーを喰いつくす生態
『プロジェクト・ヘイル・メアリー』での脅威をアンディ・ウィアーはShelf Unboundでのインタビューで「太陽の放射量が幾何級数的な割合で減少していることがわかり、この現象を止められなければ、地球は凍結してしまうこと」と説明する。アストロファージは星の表面に感染する。感染した太陽のエネルギーを吸収し分裂して増殖する。
分裂による繁殖に必要な炭素や酸素などの元素を求めて、近くの惑星(太陽系の場合は金星)へと宇宙空間を移動し、再び恒星に戻るという特異な生態サイクルを持っている。この生物が太陽で指数関数的に増殖することで、太陽の光量は奪われ、地球に致命的な氷河期と大量絶滅をもたらす原因となる。
ニュートリノを利用した「ハードSF」的なメカニズム
アンディ・ウィアーはコンピュータプログラミングのキャリアもあり、ストーリーには科学的な正確さをもたせる。
ニュートリノによるエネルギー貯蔵
アストロファージは太陽から熱エネルギーをどんどん奪う。細胞内の温度が約96℃に達するまでエネルギーを奪うと、そのエネルギーを「ニュートリノ」に変換する。アストロファージは莫大なエネルギーをもつことになる。
現実の世界でもニュートリノは太陽光に変わる電力源として注目されている。昼夜問わず宇宙の四方八方から降り注ぐニュートリノは、太陽光発電の弱点を克服する可能性がある。
超断面積性
しかしニュートリノはあらゆる物質を通り抜ける量子トンネル効果をもつ。地球さえも。いま私たちの体にも一兆個のニュートリノが通り抜けている。そこでウィアーはアストロファージに「超断面積性(super cross-sectionality)」という架空の特性をもたせた。
この特性のおかげでアストロファージは、ニュートリノを細胞内に完全に閉じ込めることができる。
光で進む
アストロファージは細胞内のニュートリノを光エネルギーに変換し、それを推進力として宇宙空間を移動する。この推進時に波長25.984ミクロンの赤外線が放出され、これが作中で「ペトロヴァ・ライン」として観測される。
問題の元凶にして、解決のための「完璧な宇宙船燃料」
ウィアーは、星間移動するアストロファージの光推進メカニズムは、ニュートリノが反物質であることに着目した。反物質は核融合の250倍以上のエネルギーを生み出す極めて効率的なエネルギー貯蔵・推進システムである可能性をもつ。
人類はこれを利用し、危機を脱するためにタウ・セチへと向かう宇宙船「ヘイル・メアリー号」のロケット燃料としてアストロファージを培養・搭載する。さらに、アストロファージはあらゆる粒子を通さない性質を持つため、光速に近い速度で飛ぶ宇宙船の乗組員を放射線から守るバリアとしても利用されている。
主人公の科学者ライランド・グレースが、このアストロファージの科学的性質を実験や計算を通して一つ一つ解き明かしていく姿は本作の最大のみどころとなっている。




