Image: Project Hail Mary | Final Trailer – YouTube パンスペルミア説による生命の起源から、突然変異の恐怖、実在する未来の食料(SCP)としての側面まで。
※この記事は『プロジェクト・ヘイル・メアリー』のネタバレを含みます。
タウ・セチ星系の特異な「免疫」と科学的アプローチ
天文学者たちは、アストロファージの影響を受けているのは太陽だけではないことに気づきました。
アンディ・ウィアーLiterary Hub » Andy Weir on the Problem of Interstellar Travelより引用
物語では、太陽のエネルギーを食べる「アストロファージ」という宇宙の藻(カビ)のようなものが大繁殖し、地球が凍りつく危機に陥る。(関連記事:「映画『プロジェクト・ヘイル・メアリー』アストロファージ」)
太陽を含む近隣のすべての恒星がアストロファージの感染によって減光しているにもかかわらず、約12光年離れた「タウ・セチ」だけが唯一その影響を免れているという観測事実が判明する。
主人公グレースがそこへ向かうと、アストロファージをパクパクと食べる「天敵(自然の捕食者)」が存在していた。これを「タウメーバ」と名付ける。
現実の自然界でも「ある生き物が増えすぎないように、それを食べる別の生き物がいてバランスが保たれている」という生態系のルールがある。タウメーバは、いわば宇宙の「免疫システム」として描かれている。
人類のミッション「プロジェクト・ヘイル・メアリー」の核心は、このタウ・セチの特異性を科学的に解明し、太陽系を救うための解決策を見つけ出して再現することにある。
宇宙の生き物も親戚?(パンスペルミア説)
生命が別々に進化したというにはあまりにも近すぎるということです。
アンディ・ウィアーthe-synthesis-interview-with-andy-weir-author-of-the-martianより引用
タウメーバのような地球外生命体が物語の中で成立する科学的根拠として、原作者のアンディ・ウィアーは「パンスペルミア説」を採用したと語っている。これは、はるか昔に一つの星で生まれた生命の種が、宇宙空間を旅してあちこちの星にばらまかれたという考え方。
アストロファージもタウメーバも地球の生き物も「大昔の祖先は同じ」であり、DNAを持ち、生きていくために「液体の水」を必要とするなど、細胞の基本的な仕組みが共通している。
品種改良の落とし穴(突然変異の怖さ)
主人公たちは、タウメーバを地球などの別の環境でも生きられるように、科学の力で「品種改良(選択的繁殖)」を行う。しかしタウメーバは予想を超えて進化し、絶対にすり抜けられないはずの宇宙船の頑丈な壁(キセノナイト)を通り抜ける能力を偶然身につけてしまう。
実世界でも細菌が一度抗生物質にさらされると、その抗生物質に対して耐性をもつ。完全にはコントロールすることのできない、環境に合わせた生命の劇的な進化がある。
未来のスーパーフード(微生物タンパク質)
物語の中で、タウメーバは最終的に主人公グレースの命をつなぐ「食べ物」としても役立つことになる。 「得体の知れない微生物を食べるの?」と思うかもしれないが、これは現実の最先端科学とリンクしている。
現在、牛や豚などの代わりに、酵母や菌類などの微生物を発酵させて作る「単細胞タンパク質(Single Cell Protein (SCP):微生物タンパク質)」という新しい食料が、環境に優しい未来のスーパーフードとして世界中で開発されている。すでにQuorn社は1990年頃から、菌類からつくられる代替タンパク質を主成分とした代替肉「Quorn(クォーン)」を販売している。
タウメーバは単なる「便利な宇宙の薬」ではなく、生命のたくましさと、科学で自然をいじることの危うさを同時に教えてくれる、非常にリアルな存在だ。宇宙は、人類に解明される可能性を秘めた、美しい設計がなされていると感じさせてくれる。




