なぜ任天堂は「アベンジャーズ方式」を避けるのか? 任天堂シネマティック・ユニバース構想と「マスターハンド」の必要性を徹底考察

映画『ザ・スーパーマリオ・ギャラクシー・ムービー』に登場するマリオとピーチ姫
アベンジャーズのサノスに代わる存在? NCU(任天堂シネマティックユニバース)集結の鍵を握る「マスターハンド」
Image: 【日本語版】 『ザ・スーパーマリオギャラクシー・ムービー』 最終トレーラー – YouTube 2026年4月7日閲覧

2023年に公開され、世界興行収入13億6000万ドルを超える歴史的な大ヒットを記録した『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』。この大成功を皮切りに、任天堂の映画ビジネスは今、本格的なユニバース化へと舵を切っている。

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拡大する「任天堂シネマティック・ユニバース(NCU)」の現在地

『マリオ』の大ヒットから『ゼルダ』実写化へ続くビジネス戦略

2026年4月1日には宇宙を舞台にした待望の続編『ザ・スーパーマリオギャラクシー・ムービー』が北米などで公開され、すでに世界興行収入は3億7000万ドルを超えている。さらに2027年5月にはソニー・ピクチャーズとの共同出資による実写版『ゼルダの伝説』の公開も決定している。

任天堂は投資家向けのプレゼンテーションでも「継続的な映画リリース体制の枠組みを構築している」と明言しており、まさに「任天堂シネマティック・ユニバース(NCU)」と呼ぶべき壮大なプロジェクトが動き出している。

映画ファンの最大の疑問「全キャラ集結のクロスオーバーは実現するのか?」

こうした中、世界中の映画ファンや任天堂ファンの間で最大の関心事となっている「ひとつの疑問」がある。それは、「マーベルにおける『アベンジャーズ』のように、全キャラクターが集結する『大乱闘スマッシュブラザーズ』の映画は作られるのか?」というもの。(関連記事:「『ザ・スーパーマリオギャラクシー・ムービー』にピクミンやフォックス登場!『スマブラ』への布石と立ちはだかる「権利の壁」とは?」)

すでに新作『ギャラクシー・ムービー』では、『スターフォックス』のフォックス・マクラウドやピクミン、R.O.B.(ファミコンロボット)といった他作品のキャラクターがカメオ出演することが判明しており、ファンの間ではクロスオーバーへの期待が最高潮に達している。

しかし、任天堂が『スマブラ』映画を本当に実現させるためには、アベンジャーズとは全く異なる「ある特別な条件」をクリアしなければならない。

徹底された「任天堂の哲学」:なぜアベンジャーズ方式を採用しないのか?

アベンジャーズ方式とは異なり、明るさと「その場の楽しさ」を重視する任天堂の映画作り
「10年先を見据えた計画」よりも、「このシーンにこのキャラ(ピクミンなど)がいたら楽しいか?」という偶発的な遊び心が優先される。
Image: 【日本語版】 『ザ・スーパーマリオギャラクシー・ムービー』 最終トレーラー – YouTube 2026年4月7日閲覧

『スマブラ』映画への期待が高まる一方で、製作陣のトップである二人は、メディアのインタビュー等で現在のスタンスについて非常に興味深い発言をしている。

イルミネーションCEOが語る「戦略よりも偶発的な楽しさ」

イルミネーションのクリス・メレダンドリCEOは、近年のハリウッドで主流となっている映画の“ユニバース化”について、次のように語っている。

ユニバースという言葉を聞くと、壁にチャートを貼った部屋に集まった非常に頭の良い人たちが、今後10年間、すべてのキャラクターが映画の中でどのように出入りするかを計画している、というイメージが思い浮かびます。しかし、私たちの制作プロセスは実際にはそれとは全く異なります。映画の特定のシーンで何が楽しいかという会話に重点を置いています。「ピクミンがここに現れたら楽しいんじゃないか? 面白いと思わないか?」といった会話からアイデアが生まれます。そして、その会話でそれが楽しいアイデアだと同意したら、宮本さんにそれが適切かどうか判断してもらいますが、それは戦略的なものではなく、むしろ偶発的なものです。

クリス・メレダンドリMario creator Shigeru Miyamoto on the Nintendo Cinematic Universe’s futureより引用 2026年4月7日閲覧

つまり任天堂とイルミネーションは、マーベル・スタジオが『アベンジャーズ』に向けて緻密なロードマップを敷いたような「戦略的なユニバース展開」は、現時点では行っていない。あくまで「そのシーンが面白くなるか、直感的に正しいか」という、ゲーム制作にも通じる“遊び心”の延長線上でクロスオーバーを行っている。

宮本茂氏が明言「すべてのキャラクターが一堂に会する状況は考えていない」

さらに、マリオの生みの親である宮本茂も、次のように明言している。

まず最初に言っておきたいのは、『大乱闘スマッシュブラザーズ』のような作品とは違って、任天堂のキャラクターが全員参戦するような状況にはならないと思うということです。

宮本茂Mario creator Shigeru Miyamoto on the Nintendo Cinematic Universe’s futureより引用 2026年4月7日閲覧

任天堂には「IP(世界観)を安易に混ぜ合わせない」という暗黙のルールがある。例外的にピクミンだけは「どの世界に登場してもいい」という特別なルールがあるそうだが、基本的にはそれぞれのキャラクターが持つ独自の世界観を非常に大切に守っている。

これらの発言から読み取れるのは、「ただ人気キャラクターを集めてお祭り騒ぎをするだけの映画」を作る気は任天堂には一切ない、という確固たる哲学だ。

しかし、慎重な姿勢を崩さない製作陣とは裏腹に、実際にキャラクターに命を吹き込むハリウッドスター(声優陣)たちの間では、すでに「大乱闘」に向けた熱狂が抑えきれない状態になっている。

ハリウッド俳優たちとのギャップ? キャスト陣が熱望する「夢の共演」

慎重な姿勢を崩さない製作陣とは対照的に、キャラクターに命を吹き込むハリウッドスター(声優陣)たちは、「他の任天堂キャラとの共演」というアイデアに超ノリノリだ。彼らのプロモーションでの発言からは、すでに「大乱闘」に向けた熱狂が抑えきれない状態であることが伝わってくる。

アニャ(ピーチ姫役)が提案する「ゼルダ姫とのガールズ・スピンオフ」

ピーチ姫を演じるアニャ・テイラー=ジョイは、インタビューで「誰と戦いたいか?」と聞かれた際、

戦うよりも、ゼルダとチームを組んで戦う姿を見てみたいです

アニャ・テイラー=ジョイJack Black & Anya Taylor-Joy REVEAL Super Mario Secrets?! – YouTubeより引用 2026年4月7日閲覧

と回答した。任天堂のクロスオーバーによって「女の子たちが世界を救うのを見たい!」と、プリンセスたちが主役のガールズ・スピンオフを語っている。

ジャック・ブラック(クッパ役)による「リンク」への宣戦布告

一方、クッパ役のジャック・ブラックは血の気が多く、

リンクだ。あいつをボコボコにしてやる(I’ll kick you in the clink)

ジャック・ブラックSuper Mario Galaxy Movie: 10 Things We Learned From The Press Tourより引用 2026年4月7日閲覧

と、『ゼルダの伝説』の主人公に対してまさかの宣戦布告をしている。

さらにヨッシー役のドナルド・グローヴァーは、

『ダックハント』のあの犬と戦いたい

ドナルド・グローヴァーSuper Mario Galaxy Movie: 10 Things We Learned From The Press Tourより引用 2026年4月7日閲覧

と、コアなゲームファンならではのマニアックな回答で場を沸かせている。(ちなみに彼は別のインタビューで、もし映画化されるなら自身がその“笑う犬”の役を演じてプレイヤーを笑ってやりたいとも語っている。)

こうしたキャスト陣の無邪気な熱狂は、ただのジョークではなく、まさに「我々ファンがスクリーンで一番見たいもの(夢)」を代弁してくれていると言える。しかし、前述の通り任天堂の製作陣は「ただキャラを集めるだけ」の安易なお祭り映画を作る気はない。

では、「それぞれの世界観を大切にしたい製作陣の揺るぎない哲学」と、「クロスオーバーを求めるファン&キャストの夢」を両立させるには、一体どうすれば良いのだろうか?マーベル映画のように「世界を滅ぼす強大な敵」を用意する王道の手法は、任天堂の明るい世界には似合わない。

考察:もしNCUで全キャラが集結するなら「共通の目的」は何になるか?

スマブラ映画化で集結が期待される任天堂のキャラクターたち
アベンジャーズの「サノス」のような悲壮な世界の危機ではなく、任天堂らしい「明るく楽しい」理由での大集結が求められている。
Image: 大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL 紹介映像 – YouTube 2026年4月7日閲覧

複数の単独作品が一つの映画に集結する巨大クロスオーバーにおいて、ハリウッドにはある種の「王道パターン」が存在する。

それは、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)におけるサノスのような、「全宇宙を滅ぼすほどの強大な敵」を用意すること。絶望的な危機が迫るからこそ、普段はそれぞれの世界で活躍するヒーローたちが手を取り合う「必然性」が生まれる。

マリオの世界観に「世界を滅ぼす強大な敵(サノス)」は似合わない

しかし、この「アベンジャーズ方式」を任天堂のキャラクターたちに当てはめようとすると、根本的な矛盾が生じる。任天堂の世界観、とりわけマリオの最も大事な部分は「根っから明るい」ことだからだ。

マリオの生みの親である宮本茂は、映画でもゲームでも

マリオは「ああ楽しかった」って思える時間にしたいんです。

宮本茂マリオ映画公開記念!宮本茂さんインタビュー 制作の始まりから驚きの設定まで – ページ 4 – Nintendo DREAM WEBより引用 2026年4月7日閲覧

と語っており、キャラクターの内面的な葛藤やダークな影の部分をあえて描く必要はないという独自の哲学を持っている。

結論:NCU集結の鍵を握る「マスターハンド」という存在

大乱闘スマッシュブラザーズXに登場する「マスターハンド」の任天堂公式ゲーム画像
命を懸けた戦いではなく、「おもちゃ箱の中で遊ぶ子供の想像力」という平和的な舞台設定こそが、任天堂らしいクロスオーバーを実現させる唯一の鍵かもしれない。
Image: スマブラ拳!! 2026年4月7日閲覧

これまでの宮本茂氏やメレダンドリCEOの発言をまとめると、現時点ではアベンジャーズのような『スマブラ』映画がすぐに作られる可能性は低そうだ。

マリオをベースに少しずつキャラクターが合流していく可能性

しかし、決して悲観することはない。新作『ザ・スーパーマリオギャラクシー・ムービー』に『スターフォックス』のフォックス・マクラウドやピクミンたちが登場することからも分かるように、任天堂は「まずはスーパーマリオの世界をベースとして、そこに少しずつ他作品のキャラクターを自然な形で登場(合流)させていく」という、堅実かつワクワクするアプローチを取る可能性が高いからだ。

シリアスさを排除し、平和的に集結するためのたった一つの条件

もし将来、任天堂のスーパーマリオ・ムービーシリーズがさらに拡大し、全キャラクターがどうしても集結しなければならない「任天堂らしい、平和的で遊び心のある共通の目的」が生まれたとき——その時こそ、真の「任天堂シネマティック・ユニバース映画(スマブラ映画)」が誕生する瞬間となるだろう。

そして、悲劇的なサノスに代わって彼らを一つの場所に集める「共通の存在」がいるとすれば、それは他でもない、ゲームファンにはおなじみの「マスターハンド」なのかもしれない。