Image: Project Hail Mary | Final Trailer – YouTube 2026年3月12日参照
ライアン・ゴズリング(主演)が、広大な宇宙でたった一人の生存者として目覚める実写映画『プロジェクト・ヘイル・メアリー』。本作の最大の注目点は、科学的なリアリズムだけでなく、相棒となるエイリアン「ロッキー」がいかにしてスクリーンに描き出されるか、という点にある。
顔もなくごつごつとした岩のような見た目から主人公が「ロッキー」と名付けた。何度教えてもサムズアップを下に向けてしまう、憎めないなんともいいやつな感じが原作では容易に想像できる人気のキャラクターだ。
Image: Project Hail Mary | Final Trailer – YouTube 2026年3月12日参照
顔のないキャラクターに命を吹き込むアニマトロニクス
これはみんなを驚かせます。私はあまり視覚的な想像力がありません。
原作者アンディ・ウィアーAndy Weir on Balancing Science and Story | PROJECT HAIL MARY – YouTubeより引用 2026年3月12日閲覧
原作者のアンディ・ウィアーは概念的な想像には長けているが、ヴィジュアル面での想像は得意ではないという。
本作で映像化されたロッキーは想像よりもずっと丸っこくて、コロコロしていて、本当に生きている。ウィアーはいまではそれがロッキーの姿としか考えられないという。
先行上映を見た批評家やファンからは、「ページを読んで頭に思い描いていたものよりもさらに素晴らしい」と、そのビジュアル化がファンの期待を完璧に満たすものであると評価されている。
本作でのロッキーのパペットを作ったのはニール・スキャンラン。
Image: 映画『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』ドロイドBB 8特別映像 – YouTube 2026年3月12日参照 『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』で登場したドロイド「BB-8」もニール・スキャンランの工房の仕事
彼は『スター・ウォーズ』シリーズで、最新のアニマトロニクス(生物の動きを再現するロボット技術)と伝統的な造形を融合させてきた第一人者。BB-8に命を吹き込んだ彼の工房が、本作でも「触れることのできるリアリティ」をロッキーに与えた。
動きは演劇界出身のジェームズ・オルティス率いる5人のパペティア(人形操演者)によって行われた。
Image: 彼こそが人類が初めて出会う異星人ロッキーだ!映画『プロジェクト・ヘイル・メアリー』3月20日(金・祝)日米同時公開 – YouTube 2026年3月12日参照 ロッキーの操演は5人のパペティア(人形操演者)によって行われた
固定された顔だけど感情移入
オルティスはあえて表情が動かない「固定された顔」を作るという高度な演劇的哲学をもつ。
『オズの魔法使い』で最後にはブリキの木こりとなってしまうニック・チョッパーの物語に着目した『The Woodsman』のブリキの木こりのデザイン、操演どちらも行った。2014年、2015年とオフ・ブロードウェイで公演を重ね、2016年にはオフ・ブロードウェイにおける最高の栄誉であるオビー賞を受賞した。
ブロードウェイ・リバイバル版『Into the Woods』(2022年)ではの牛の「ミルキー・ホワイト」をデザイン。批評家から「作品の真のスター」と絶賛されただけでなく、自作するファンまで現れた。現在はロードウェイ博物館に展示されるほどの文化的アイコンとして扱われている。
Image: Broadway’s ‘Into The Woods’ Revival: My Best Time In The Theatre In Ages — Showriz 2026年3月12日参照 ブロードウェイ・リバイバル版『Into the Woods』(2022年)で使用された「ミルキー・ホワイト」のパペット
人形に込めた命を感じ取ってこそ、人形は成立するんです。
ジェームズ・オルティスJames Ortiz Interview for Hercules at Public Works NYC Delacorte Theater | TDF Stages | TDF – Theatre Development Fundより引用 2026年3月12日閲覧
オルティスは、彫刻としての造形を正確に行えば、観客自身が能動的にパペットへ感情を投影し、「表情が変化した」と想像できると考えている。
実際にミルキー・ホワイトは、静的な目や動かない顔の作りでありながら、体のひねりや呼吸の表現によって喜びから悲しみまであらゆる感情を痛いほど伝え、「信じられないほど生き生きとしている」と驚きをもって評価された。
ついつい共感してしまうキャラクターの誕生
本作に登場するロッキーは、目も口もなく、「顔」そのものを持たないキャラクター。脚本家のドリュー・ゴダードが「顔のないキャラクターとどうコミュニケーションをとらせるかは、ある意味で脚本家にとって悪夢」と語るように、表情での演技が不可能なキャラクターを描くことは映画において極めて困難だった。(関連記事:「原作にはない名セリフを生み出す脚本家ドリュー・ゴダードが描く映画『プロジェクト・ヘイル・メアリー』」)
しかし、この「顔がない」という難題こそが、本作のテーマである「共感」を際立たせる。主人公のグレースや観客は、表情が読めないロッキーに対して「彼が何を考え、何を見聞きしているのか」を自発的に想像し、他者の視点に立つことを強いられる。
これはまさに、オルティスが『Into the Woods』のミルキー・ホワイトで実践した、「固定された顔に対して、観客自身に感情を補完させる」というパペット操演の魔法と本質的に完全に一致する。
もちろん、現代のSF大作としてVFXによる緻密な調整も行われている。しかし表情を持たない対象に命を宿らせ、人々の心を繋ぐというオルティスの揺るぎない哲学と技術が、顔のないロッキーに豊かな自発性とリアリズムを与えた。









