映画『プロジェクト・ヘイル・メアリー』の超素材「キセノナイト」

物理的に限界の引張強度をもつ
Image: Project Hail Mary – Official Trailer – YouTube

※この記事は『プロジェクト・ヘイル・メアリー』のネタバレを含みます。

映画『プロジェクト・ヘイル・メアリー』には、人類の材料工学をはるかに凌駕する驚異的な引張強度を持つスーパーマテリアル「キセノナイト(Xenonite)」が登場する。

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圧倒的な気圧差を解決するためのマクガフィン

ロッキーの大気は地球の29倍もある

著者アンディ・ウィアーBook Club Edition: Andy Weir and Project Hail Mary – Planetary Radio – YouTubeより引用

原作者のアンディ・ウィアーは、キセノナイトを物語の都合上生み出された「手品のような(hand-wavy)」素材、あるいは「マクガフィン」であると認めている。

主人公グレースとロッキーがお互いの姿を見て直接コミュニケーションを取るためには、透明な隔壁が必要だった。

しかし、ロッキーの居住環境は地球の29倍もの超高気圧であり、通常のガラスでこれに耐えるには1メートル以上の厚さが必要になってしまうため、薄くて透明なこの超素材が設定された。

物理学的な限界ギリギリの引張強度

これよりも高い引張強度を持つ物質を作ることは物理的に不可能です。

著者アンディ・ウィアーAndy Weir’s ‘Project Hail Mary’ – A conversation with science-fiction author, Andy Weir – YouTubeより引用

ウィアー自身はその分子構造がどのようなものか、あるいはなぜ名前に「キセノン」が入っているのかは作中で一切説明していない。

しかし、この素材の引張強度は物理学的に「実現可能の限界内」に収まるよう緻密に計算されている。

物理法則上「これ以上高い引張強度は不可能である」という理論上の最大値が存在しており、キセノナイトの強度はその値よりわずかに低く設定されているため、決して荒唐無稽な魔法の素材ではない。

異なる環境下における技術進化の象徴

材料技術に関しては彼らに圧倒されています。それがキセノナイトです。

著者アンディ・ウィアーBook Club Edition: Andy Weir and Project Hail Mary – Planetary Radio – YouTubeより引用

キセノナイトは、人類とエリディアンの技術的な進化の方向性の違いを象徴している。

視覚を持たず、高い気圧と温度の中で生きるエリディアンは、コンピューターや相対性理論の理解においては人類に劣るものの、材料工学という分野においては人類を完全に圧倒している。その高度な技術の結晶がキセノナイト。

ストーリーの核心に関わる重要な役割

ロッキーの宇宙船「ブリップA(Blip-A)」の船体はほぼ完全にキセノナイトで作られており、作中のミッションではこの素材を使って10キロメートルにも及ぶ鎖を構築する場面も登場する。

また、物語の終盤では、アストロファージの天敵である微生物「タウメーバ(Taumoeba)」が偶然の交配によって突然変異を起こし、絶対に貫通できないはずのキセノナイト製容器をすり抜ける能力を獲得してしまう。

この予期せぬ科学的トラブルが、ロッキーの宇宙船の燃料(アストロファージ)を枯渇の危機に晒し、主人公に究極の選択を迫るという重要なプロットの引き金となる。