Image: The Super Mario Bros. Movie | Official Teaser Trailer – YouTube 2026年4月4日閲覧 ゲームでおなじみの甲高い声ではなく、リアルな一人の人間としての「驚き」や「畏敬の念」を表現したクリス・プラット版の『マンマ・ミーア!』。彼の真摯な役作りへのアプローチは、ネット上で大きな議論を呼んだ。
2021年9月に配信された情報番組「Nintendo Direct」で、任天堂の宮本茂氏から『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の主要キャストが発表された瞬間を覚えているだろうか。主人公・マリオの声優に『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』などで知られるハリウッド俳優のクリス・プラットが起用されると明かされた際、ネット上では議論が巻き起こった。
その最大の理由は、長年マリオの声を務めてきたレジェンド声優の不在。1991年のゲーム見本市からマリオの声を担当し、世界中のプレイヤーが慣れ親しんできたチャールズ・マーティネーの甲高く陽気な声ではなく、なぜ映画ではあえて別の俳優が起用されたのか。キャラクターの声をプロの専業声優ではなく知名度のあるハリウッドスターに任せるという、近年のアニメーション映画にありがちな手法自体への反発もあった。
「It’s-a me, Mario!(イッツ・ア・ミー、マーリオ!)」というおなじみのセリフと共に、誰もが知る絶対的なイメージが定着しているマリオ。そんな彼に「新しい声と喋り方」を与えることは、映画版に課せられた極めて高いハードルだった。
しかし、この賛否両論を呼んだキャスティングの裏には、決して「単なるスターの起用による話題作り」などではなく、ゲームではなく「映画」というフォーマットだからこそ必要とされた、制作陣の明確な理由と緻密なキャラクター解釈が隠されていた。
原点回帰と「ブルーカラーのヒーロー」:制作陣がプラットを選んだ理由
Image: Super Mario Bros. Plumbing Commercial – YouTube 2026年4月4日閲覧 映画版の制作陣が目指したのは、マリオを記号的なアバターではなく、ニューヨーク・ブルックリンで働く等身大の若者(ブルーカラー)として描くことだった。
『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』(2023)のキャストが発表された当初、長年親しまれてきたゲーム版のマリオの声が変わることに対して、一部のファンからは疑問や反発の声が上がっていた。
監督陣が描きたかった「平凡な配管工」のオリジンストーリー
しかし、監督を務めたアーロン・ホーバスとマイケル・ジェレニックには、クリス・プラットを起用しなければならない明確な理由があった。それは、本作を単なるゲームの映像化ではなく、一人の平凡な配管工がスーパーヒーローへと成長するまでの「オリジン(起源)ストーリー」として描くという強いこだわりがあったからだ。
これは一種のオリジンストーリーです。マリオがスーパーマリオになるまでの物語です。物語の冒頭、マリオと弟のルイージはブルックリンで配管工として働く、イタリア移民の家庭出身のブルーカラーの男たちです。(中略)私たちにとって、プラットのキャスティングはまさに理にかなっていました。彼は、情熱にあふれたブルーカラーのヒーローを演じるのが本当に上手です。私たちの映画におけるマリオのキャラクター像には、彼がぴったりです。
‘Super Mario Bros Movie’ Directors Explain Why Chris Pratt Was Castより引用 2026年4月4日
この発言が示すのは、映画版の制作陣がマリオを「記号化されたゲームのアバター」から「一人の人間」へと引き戻そうとしていたという事実。
宮本茂が当初から思い描いていたマリオの「原点」との一致
そもそも生みの親である宮本茂氏も、マリオというキャラクターを「ブルックリンに住むイタリア系移民のブルーカラー」として生み出していた。つまり本作は、長きにわたるゲームの歴史の中で薄れていったマリオの「原点」に再び立ち返る試みでもあったと言える。
現実世界で仕事に悩み、家族の期待に応えようと奮闘する等身大の若者。そんな彼が異世界に迷い込み、ユーモアを交えながらも決して諦めずに困難に立ち向かう姿に説得力を持たせるためには、コメディとヒロイズムを自然に両立させられるクリス・プラットの表現力がどうしても必要だった。
試行錯誤の役作り:ボツになった「トニー・ソプラノ風」アクセント
クリス・プラットが演じたマリオの声は、最初から映画本編で聞かれるような自然なトーンに行き着いたわけではない。世界中が知るアイコンに「一人の人間」としての声を与えるにあたり、プラット自身も収録の初期段階では大きな試行錯誤を重ねていた。特に「ブルックリン出身のイタリア系」というキャラクターの背景を意識するあまり、演技が極端な方向へ振れてしまうこともあった。
実際の役作りの裏側について、プラットが初期の収録で試みたアクセントは、マフィアドラマ『ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア』の主人公トニー・ソプラノに似すぎているとして制作陣から却下されたことが明らかになっている。プラットの当時の演技に対し、監督たちは次のように指摘してそのアプローチをボツにした。
ちょっとトニー・ソプラノっぽいね、ちょっとニュージャージーっぽいね、トニー・ソプラノみたいなことをやってるね
Chris Pratt’s first Super Mario Bros. Movie accent was rejected over ‘Tony Soprano’ similarities | Daily Mail Onlineより引用 2026年4月4日
この「ニュージャージーっぽすぎる(=マフィアのように聞こえてしまう)」という監督たちからの的確なダメ出しは、制作陣が本作のマリオに何を求めていたかを端的に表している。彼らが描きたかったのは、誇張されたステレオタイプなキャラクターではなく、あくまで観客が親しみを持てる「等身大で心優しい配管工」だった。
プラットはこの初期の失敗と監督たちとの軌道修正のプロセスを経たからこそ、極端な訛りというキャラっぽさを脱ぎ捨てることができた。結果としてそれが、後述する「マンマ・ミーア!」の繊細なアレンジや、純粋な驚きや喜びを自然に表現できる、血の通った「人間・マリオ」の声を確立することへと繋がっていった。
賛否両論の的:「マンマ・ミーア!」変更に込められたリアリティへの追求
Image: The Super Mario Bros. Movie | Official Trailer – YouTube 2026年4月4日閲覧 ゲームの甲高い声ではなく、リアルな一人の人間としての驚きや畏敬の念を表現するためにテンポを落としてアレンジされた「マンマ・ミーア」は、ネット上で賛否両論を呼んだ。
クリス・プラットが等身大の「人間・マリオ像」を構築するうえで、最大の壁となったのがマリオの代名詞とも言えるキャッチフレーズ「マンマ・ミーア!」の表現だった。
「マンマ・ミーア」連呼に対するクリス・プラットの違和感
ゲームでお馴染みの甲高く陽気なトーンを、映画のキャラクター設定にどう落とし込むべきかについて、彼はインタビューで次のような苦悩を明かしている。
オリジナルのキャラクターのセリフを聞くと、イタリア語で、甲高い声で『マンマ・ミーア』と言っているんです。ブルックリン出身で、そのアクセントがない男が、なぜそんなにそのセリフを使うのか理解できません。だからいつも大変でした。『「マンマ・ミーア」と書いてある』と言われるのですが、敬意や『わあ、マンマ・ミーア』という気持ちを表現しているつもりなんです。
マリオ役 クリス・プラットChris Pratt Explains Why There’s a Big Change With Mario’s “Mamma Mia” Catchphraseより引用 2026年4月4日閲覧
このプラットの発言は、彼がいかにキャラクターのリアリティを重視していたかを示している。イタリア訛りのないブルックリンの青年が、ゲームのようにアニメ的な甲高い声で連呼するのは不自然だと考えたのだ。このセリフを単なる「お決まりの挨拶(ステレオタイプ)」ではなく、純粋な驚きや畏敬の念を表現する自然な言葉として再解釈しようと試みた。
正しい発音を見つけるのは本当に難しいんです。たぶん、だからこそテンポを落として、あの独特の雰囲気を和らげたのかもしれません。「マーンマァァ・ミーアァァ」という風にね
クリス・プラットChris Pratt Explains Why There’s a Big Change With Mario’s “Mamma Mia” Catchphraseより引用 2026年4月4日閲覧
こうして生まれたのが、あえてテンポを引き延ばし、リアルな感情を乗せた新しい「マンマ・ミーア」だった。しかし、この真摯な役作りへのアプローチが報じられると、ネット上のファンの意見は真っ二つに割れることになる。
「単なるスキル不足」?ネット上で噴出した批判の声
一部の熱心なファンからは、次のような手厳しい批判が上がった。
フランス語版の吹き替えではこの問題はないようだ…私には単なるスキル不足(skill issue)に思える
“Seems like a skill issue”: Netizens divided after Chris Pratt explains why he doesn’t say “Mamma Mia!” in Italian accent in ‘The Super Mario Bros.’より引用 2026年4月4日閲覧
さらに、「マリオは喋る恐竜に乗って亀の化け物からお姫様を救うアニメの配管工なのに、なぜそこだけリアリティを求めるのか?」という痛烈なツッコミも寄せられた。彼らにとって「マンマ・ミーア」は理屈抜きの楽しさの一部であり、プラットは考えすぎだという指摘だ。
キャラクターに現実味を持たせる「ステレオタイプの回避」
しかし一方で、誇張を避けたこの現実的なアプローチを支持する声も多く寄せられた。
クリス・プラットは単にセリフを避けていたわけではなく、マリオをより地に足のついた、ステレオタイプではない存在にしようとしていたのだ
“Seems like a skill issue”: Netizens divided after Chris Pratt explains why he doesn’t say “Mamma Mia!” in Italian accent in ‘The Super Mario Bros.’より引用 2026年4月4日閲覧
これらの意見の対立が示しているのは、象徴的で世界中から愛されるアイコンを「映画のキャラクター」としていかに自然に成立させるかという、実写化や映画化における永遠の課題だ。ファンが求めるアイコニックな「お約束」と、俳優が追求する「人間としての説得力」。その絶妙なバランスを探る果敢な挑戦であったからこそ、このセリフ変更は大きな賛否両論の的となったと考察できる。
オリジナルへの最大のリスペクト:劇中のメタ・ジョークとカメオ出演
Image: ‘It’s-a Me, Mario!’ – YouTube 2026年4月4日閲覧 1991年から30年以上にわたりマリオに命を吹き込んできたレジェンド声優、チャールズ・マーティネー。本作ではピザ屋の客「ジュゼッペ」やマリオの父としてカメオ出演し、ゲームと同じ声で新たなマリオに「完璧だ!」と最大級の賛辞を贈っている。
映画版の新しいマリオ像が構築される一方で、制作陣は長年のファンとオリジナル声優であるチャールズ・マーティネーに対する最大のリスペクトを忘れていない。彼らは単に声優を交代させるのではなく、劇中に見事なメタ・ジョークとカメオ出演を仕込むことで、ゲームと映画マリオの融合を図った。
初代マリオ声優チャールズ・マーティネーによる「完璧だ!」のお墨付き
映画の序盤、マリオとルイージは自身の配管工ビジネスのCM内で、「ゲーム版の誇張されたイタリア訛り」をビジネスのための作り声として披露する。その後、マリオがそのわざとらしいアクセントについて「やりすぎだったかな?」と気にする場面で、後ろにいた「ジュゼッペ」というキャラクターが次のように大絶賛する。
『Too much-a? It’s-a perfect! Wahoo!(やりすぎだって? 完璧だよ! ワッフー!)』
劇中セリフ
このジュゼッペの声を担当しているのは、他ならぬオリジナル声優のチャールズ・マーティネー本人。彼はこのシーンで、世界中のファンが長年慣れ親しんできた「あのマリオの声」を見事に響かせている。
パンチアウトやジャンプマンなど、散りばめられたイースターエッグ(小ネタ)
2023年の映画では、マリオの原点が随所に描かれている。中でも特に印象的なのは、パンチアウト・ピザ屋でのシーンだ。この店には、マリオの元の名前にちなんで「ジャンプマン」と名付けられた、ドンキーコング風のアーケードゲームが設置されている。
10 Deep Cut Super Mario Bros. Movie Easter Eggs Only Die Hard Fans Noticedより引用 2026年4月4日
さらに、ジュゼッペはアーケードゲーム「ジャンプマン(マリオのデビュー作のオマージュ)」をプレイしており、マリオと同じ配色の服を着ているという徹底ぶり。
この短いセリフと配役が意味するものは非常に重要だ。長年マリオに命を吹き込んできたマーティネー本人が、クリス・プラット演じる新しいマリオの(ゲームに寄せた)演技に対して直接『完璧だ』とお墨付きを与え、背中を押す構図になっているからだ。
ハリウッドスターを起用してより人間味のある等身大のキャラクターへとシフトさせるにあたり、これまでのステレオタイプなマリオ像を「古いもの」として切り捨てるのではなく、むしろ劇中で「完璧なもの」として肯定してみせる。オリジナル声優への最大のリスペクトを払いながら、新たなマリオ像へのスムーズな移行を成功させたこの粋な仕掛けは、制作陣の深い作品愛の証と言える。
まとめ:アバターから「人間」へと進化したマリオ
公開前の逆風や「マンマ・ミーア!」の変更に対する賛否両論を乗り越え、クリス・プラットが演じたマリオは最終的に世界中のファンから受け入れられ、映画は13億ドルを超える歴史的な大ヒットを記録。プラット自身は、誰もが知るキャラクターに声を与えるというミッションにおいて、どのような役作りを目指したのかを次のように語っている。
ある意味、『スーパーマリオブラザーズ』シリーズの主人公は、コントローラーを握っている人です。マリオはただのブロックを壊すアバターに過ぎません。(中略)ですから、魅力的で共感できる物語を作り上げるためには、ゲームで描かれている以上のキャラクター像を深く掘り下げ、発見する必要がありました。彼の不安、野心、そして粘り強さを。
クリス・プラットThe Making of ‘The Super Mario Bros. Movie’より引用 2026年4月4日
このプラットの発言は、彼がなぜマリオのセリフや声色にリアリティを求めたのかという理由を明確に裏付けている。プレイヤーが操作する「空っぽのアバター」を映画の主人公として成立させるためには、マリオ自身の内面にある弱さ(不安)や強さ(粘り強さ)を掘り下げ、血の通った一人の青年として再構築する必要があった。
生みの親・宮本茂の最大の賛辞「マリオが人間になりました」
Image: ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー Direct 2022.10.07 (第1弾トレーラー) – YouTube 2026年4月4日閲覧 「マリオが人間になりました!」と最高の賛辞を送った生みの親・宮本茂氏。クリス・プラットの真摯な役作りとリアルな声は、マリオというキャラクターに「人間」としての新たな命を吹き込んだ。
そして、この俳優と制作陣の熱意は、マリオの生みの親である宮本茂の心にも強く響いた。宮本は映画完成後、パリのアニメーション制作スタジオに向けて最大の賛辞となるビデオメッセージを送っている。
おかげさまで、マリオが人間になりました!
任天堂 宮本茂マリオ映画公開記念!宮本茂さんインタビュー 制作の始まりから驚きの設定まで – Nintendo DREAM WEBより引用 2026年4月4日
長年、プレイヤーの分身(アバター)として活躍してきたマリオが、確かな意志を持ち、諦めずに困難に立ち向かう一人の「人間」としてスクリーンに降り立った瞬間だ。プラットのキャスティングに対して起きた当初の議論は、彼がマリオに「人間としてのリアリティを与える」という困難な挑戦に挑んだからこそ生じた、いわば成長痛のようなもの。結果的に彼のリアルで親しみやすい演技は、マリオをただのキャラクターから「人間」へと進化させ、世界的な大ヒットを力強く牽引する素晴らしい仕事となった。
見事に人間としてのマリオを演じきったクリス・プラットは、2026年4月公開の続編『ザ・スーパーマリオギャラクシー・ムービー』でも引き続き主人公を務めます。









