Image: 映画『我々は宇宙人』主題歌版予告 / YouTube 2026年9月28日閲覧 公式主題歌版予告より、ノスタルジックな風景と音楽が重なる夕暮れのシーン(©NOTHING NEW, MIYU PRODUCTIONS)
映画『我々は宇宙人』は、平成の田舎町で出会った内気な少年・翼と特別な存在である暁太郎の30年にわたる友情を描いた長編アニメーション作品。作中では劇伴音楽と主題歌の一貫した制作体制、そして緻密な音響設計が組み合わさっている。音楽と音が作品の核にある「過去の記憶と解消しきれない痛み」をどのように引き立てているのか、制作の裏側から紐解く。
全29曲の劇伴と主題歌「ささくれ」が彩る作品世界
Yaffleによる劇伴空間とadieu(上白石萌歌)主題歌の基本構造
オリジナル・サウンドトラック『We Are Aliens (Original Motion Picture Soundtrack)』が、Milan Recordsなどのレーベルを通じて配信された。収録楽曲の数は全29曲。本作では、劇伴音楽と主題歌「ささくれ」の作詞・作曲・編曲のすべてを音楽家のYaffleが単独で手掛けた。
劇伴と主題歌を同一人物が一貫して制作する体制は、音楽プロデューサーの北原京子の引き合わせによって実現した。主題歌「ささくれ」の歌唱を担当したアーティストはadieu(上白石萌歌)だ。同楽曲は映画公開日と同日の9月25日に配信リリースされた。劇中の劇伴からエンドロールの主題歌までを同一の音楽家が担う構造が、作風にシームレスな一体感を与えている。
「ささくれ」のタイトルが象徴する言語化できない記憶の痛み
Image: 映画『我々は宇宙人』主題歌版予告 / YouTube 2026年9月28日閲覧 主題歌「ささくれ」に乗せて映し出される、言葉にできない記憶を象徴するカット(©NOTHING NEW, MIYU PRODUCTIONS)
主題歌の「ささくれ」というタイトルは、日常で意識しない指先の小さな傷を意味する。触れるたびに痛み、ふとした瞬間に存在を思い出させる「消えない後悔や記憶」が重ね合わされている。大きなトラウマではなく、小さなかすり傷のような記憶に光を当てる姿勢が楽曲の核だ。
企画・脚本・監督を務めた門脇康平は、Little Birdのインタビューで、自身の作品であることを抜きにしても感動したと述べ、映画のラストを後押しする完璧な曲であると評価している。レコーディング前の顔合わせでは、上白石萌歌が平成レトロのシール帳やプロフィール帳を持参していた。同インタビューで門脇監督は、初対面でシール交換を行ったエピソードを明かし、その懐かしいやり取りが作品テーマと合致していたことに驚いたと振り返る。
引き算の音響制作とアカペラで始まるエンドロールの演出
具体的な楽器指定を行わない「情緒の共有」とタイトな音響同期
音楽制作の初期段階において、Yaffleはアニメスタジオを直接訪問した。門脇監督とYaffleは、互いの青春時代や個人的な思い出について対話を重ねた。制作にあたり、監督から特定の楽器を指定する要求は出されていない。論理的な記号ではなく、作品が抱く感情や演出意図を伝えて楽曲制作が委ねられた。
あがってきた楽曲と映像の統合について、門脇監督はLittle Birdの同インタビューで、上がってきた音楽と映像を細かく同期させる調整について密にコミュニケーションを取り、ダビングの最後まで細かく相談を重ねたと語っている。
暗闇のエンドロールを計算したアカペラからのボーカル表現
主題歌「ささくれ」は、伴奏を排したアカペラに近い音響空間で静かに歌い出される。アーティストのadieuは公式YouTubeチャンネルのメッセージ動画で、本編直後の暗闇のエンドロールで自らの声が流れ始める瞬間を意識したと述べている。主人公二人の感情を組み込みながら、何度もレコーディングの試みが重ねられた。
空間の空気感を作り出す音響設計も緻密だ。音楽プロデューサーの北原京子やサウンドFxスーパーバイザーの石坂紘行らは、公式サイト制作ノートでTOHO STUDIOSの協力のもと環境音や足音の構築工程を公開している。登場人物の立ち位置や距離感に合わせて音量や音の籠もり具合が微調整された。極限まで削ぎ落とされたボーカルの始動と生々しい空間音響が、観客の没入感を支える。
観客自身が胸の奥に秘める「消えない傷」との静かな和解
Yaffleは公式プレスリリースにおいて、本作を「隠している胸の奥を槍で突かれるような映画」と表現し、醜さを含めた人間の美しさを音楽に詰めたと言及している。鑑賞後に放心状態となったadieuは同リリースで感動を語り、前出の制作ノートによると自ら宣伝部の一員を申し出るほどの衝動を受けた。劇的な和解や安易な救済を描かない結末は、スクリーンを越えて観客自身の現実へと問いを投げかける。

誰もが抱える過去のすれ違いや消し去りたい後悔は、時間が経っても完全に消滅することはない。映画と一体化した音楽は、そうした消えない痛みを無理に癒やすのではなく、抱えたまま生きていく人間の姿を静かに肯定する。劇場を出て現実の空気を吸ったとき、観客は自らの足元にある日常の美しさと向き合い、微かな光を胸に歩み出すことになる。門脇康平という新鋭の演出と音楽表現の融合は、今後のアニメーション映画界に新たな足跡を刻んだ。







