Image: Heart of the Beast | Training Your Co-Star Featurette (2026 Movie) – Brad Pitt / YouTube 2026年9月29日閲覧 アラスカに見立てたニュージーランド南島の未開地で敢行されたロケーション撮影(©2026 Paramount Pictures. All Rights Reserved.)
映画『ハート・オブ・ビースト』は、アラスカの過酷な大自然へ不時着した退役軍人と元軍用犬が生還を目指すサバイバル劇だ。本作は圧巻のロケーション映像と重厚な劇伴、そして緻密な音響設計を融合させている。圧倒的な静寂と音楽が織りなす空間は、スクリーン鑑賞の本質的な美しさを提示する。
アカデミー賞受賞カメラマンと気鋭作曲家が集結!大自然をスクリーンに立ち昇らせた技術陣の全貌
オスカー撮影監督マウロ・フィオーレが捉えたニュージーランドの「圧倒的自然美」
撮影監督は『アバター』で第82回アカデミー撮影賞を受賞したマウロ・フィオーレが務めた。撮影地にはアラスカの荒野に見立てたニュージーランド南島が選ばれた。現地ではワカティプ湖やマウント・アスパイアリング国立公園、ミルフォード・サウンドなどでロケが敢行された。現場の過酷さが画面にそのまま刻み込まれている。
制作陣は道路が存在しない未開の岩場や氷河エリアでの撮影を実施した。撮影クルーは15人ほどに絞られた。監督のデヴィッド・エアーは、エンタメメディア『Polygon』の取材に対し、マオリ長老の許可を得てヘリコプターで機材とキャストを搬入したと語っている。厳しい現地環境への適応が必要とされた。
カメラはCGIに頼らず、本物の泥や氷河、激しい雨をそのまま捉えた。撮影監督のマウロ・フィオーレは、雄大な引きのロングショットから登場人物の表情までを過酷な自然と共に映し出した。監督のエアーは、映画情報メディア『The Credits』のインタビューで、厳しい大地そのものが独立した対立軸として立ち昇ったと明かしている。本物の自然が圧倒的な存在感を放つ。
新鋭ジャレッド・マイケル・フライと名門ロンドン・ヴォイシズが創り出した音空間
音楽を担当したのは作曲家のジャレッド・マイケル・フライだ。フライがエアー監督とタッグを組むのは本作で3度目となる。劇伴はLakeshore Recordsからサウンドトラックとしてリリースされた。アルバムには全26曲、収録時間は1時間31分が収録されている。
レコーディングはロンドンの名門AIR Studiosで実施された。演奏には合唱アンサンブルの「ロンドン・ヴォイシズ」とオーケストラのストリングスが参加した。作曲家のフライは、A Cloudy Pictureの取材に対し、重厚な歌声と弦楽器の響きで独自の音響パレットを構築したと説明している。音響空間に深い奥行きが生まれた。
スコアの内部には東南アジアの打楽器ガムランや加工された二胡が組み込まれた。多国籍な楽器の音色が詩的な静響を繰り出す。従来のハリウッドアクション映画のような爆音に頼らない音設計だ。繊細な響きが劇中へ浸透する。
「シャーマンの行進」とアラスカ先住民Pamyuaの歌声――静寂と音楽が織りなす演出のロジック
エアー監督が提示したコンセプト「シャーマンの行進」と「引き算の美学」
制作の初期段階で演出の明確な指針が示された。フライは、前出のA Cloudy Pictureの取材において、音楽の指針を「シャーマンの行進」および「スピリチュアルな旅」と監督のエアーが共有してくれたと語っている。同時に「母親が子に歌う子もり唄のような温かさ」というテーマも与えられた。劇伴は登場人物の精神的な変化に寄り添う。
本作は緊迫感を煽る大音量の音楽を排する姿勢を貫いた。無闇に音を詰め込まず、静寂や空間を残す演出が選択された。セリフの少ないサバイバル劇において、静寂は心理描写を際立たせる。静かな空間が緊張感を研ぎ澄ます。
主人公ジェームズの心理は恐怖から受容へと変化を遂げる。クライマックスを飾る楽曲「The Final Mission」では、広大な引きの映像に合わせてストリングスパターンとベル、合唱が一気に解き放たれる。抑え込まれていた感情が音と共に溢れ出す。見事な音響効果だ。

アラスカ先住民グループ「Pamyua」とのコラボレーションと「Ella」の真意
劇伴にはアラスカ先住民の伝統音楽グループ「Pamyua(パミュア)」が起用された。彼らはアンカレッジを拠点に活動している。作詞を手掛けたのはメンバーのフィリップ・ブランシェットだ。ユピック語による歌唱や伝統の太鼓演奏が楽曲へ組み込まれた。
ヴォーカルにはユピック語の詠唱やチャント、ハミングが採用された。作曲家のフライは、ポッドキャスト番組『The GoSeeTalk Podcast Experience』で、音楽を通してジェームズ・ベルモントの感情に寄り添ったと述べ、先住民の歌声を遠隔録音で楽曲へ融合させたと評された。荒野の精神性が音楽を通じて立ち昇る。大地と人間の結びつきが音で表現された。
重要曲「Ella」の題名はユピック語に由来する。この言葉は単なる天候を指すわけではない。世界や宇宙、自然界、そしてあらゆる存在への意識や気づきを意味している。主人公が大自然と一体化するプロセスを象徴する一曲だ。

「音」と「映像」のダイナミズムが提示する――スクリーン鑑賞という体験の再発見
本作は通常上映に加え、Dolby Cinemaや4DX、MX4Dといった特殊フォーマットで劇場公開された。特殊フォーマット上映は3種類展開されている。座席の振動や風の効果、立体音響のDolby Atmosが上映空間を包み込む。劇場ならではの五感に訴えかける環境が整えられた。
スクリーン上では、吹き荒れる風の音や冷たい水滴の気配、静寂と重低音のメリハリがダイナミックに表現される。セリフによる説明に依存せず、環境音や先住民の詠唱、実写のロケ映像が空間を満たしていく。手元のスマートフォンや動画配信サービスでの視聴になれた現代において、本作の音響設計は映画館という空間の価値を再定義する。
静寂と響きが支配する暗闇の中で大自然の気配を全身で受け止める時間は、観客自身の感性を鮮やかに呼び覚ます。映像を単に消費するのではなく、空間全体のダイナミズムを全身で浴びる体験こそが映画鑑賞の原点だ。スクリーンと対峙し、音と光の調和を味わう喜びがここにある。




