映画『M3GAN ミーガン』は中途半端?「怖くない」のに絶賛される理由と、監督も予想外だった”本当の正体”

映画『M3GAN ミーガン』は中途半端?「怖くない」のに絶賛される理由と、監督も予想外だった"本当の正体"
Image: M3GAN – official trailer – YouTube

映画『M3GAN ミーガン』(2022年製作)は「ホラーというほど怖くなく、コメディというにはシリアスすぎる」という印象をうける。

「面白いが、決定打に欠ける」「物語のテンポが悪い」。こうした「中途半端さ」を感じさせる要因はどこにあるのか。本記事では、作品の基本情報を整理した上で、ジェラルド・ジョンストン監督のインタビューや批評家のレビューに基づき、本作が意図的に選んだ演出方針と、世界的なヒットの裏にある「監督の誤算」について解説する。

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まずは基本情報を整理:あらすじと年齢制限

なぜ評価が分かれるのかを理解するために、まずは本作の物語設定とレーティングについて確認する。

あらすじ

玩具メーカーの優れたロボット工学者ジェマは、交通事故で両親を亡くした姪のケイディを引き取ることになる 。仕事に忙殺され、子どもを育てる準備ができていなかったジェマは、開発中だった高性能AI人形Model 3 Generative Android「M3GAN(ミーガン)」を実験的にケイディに与える 。

ジェマはミーガンに対し「肉体的・精神的な危害からケイディを守ること」をプログラムするが、その更新が仇となり、ミーガンはケイディを守るためなら手段を選ばない過保護な暴走を開始する 。

年齢制限と対象年齢

日本では「PG12(12歳未満は保護者の助言・指導が必要)」に指定されている。米国では「PG-13」である 。

過激なスプラッター描写は意図的に抑えられており、比較的幅広い層が視聴可能な作品となっている。この「年齢制限の低さ」こそが、本作が「怖くない」と言われる要因の一つであり、同時に世界的なヒットに繋がった戦略の要でもある。

なぜ「中途半端」に感じるのか:計算されたPG-13路線

「ホラーじゃない」「つまらない」という評価の背景には、制作過程での明確な路線変更がある。

残酷描写の削減と再撮影

Total Filmによるインタビューでのジェラルド・ジョンストン監督によると、当初の撮影ではより多くの流血や残酷な描写(ゴア表現)が含まれていた 。しかし、制作チームはより広い観客層に届けるため、米国でのレーティングを「PG-13」に収めることを決断し、いくつかのシーンを再撮影した 。

「見せない」恐怖への転換

この再撮影にあたり、監督はサム・ライミの映画『スペル(原題:Drag Me to Hell)』にインスピレーションを受けたと語っている 。

具体的には、直接的な殺害シーンを見せるのではなく、音や暗示に頼る演出へと切り替えた 。劇中、ミーガンが隣人の犬を襲うシーンがあるが、実際に何が起きたのかはカメラの外側で処理され、観客の想像にゆだねられている 。監督は、再撮影後のバージョンについて「前よりもずっと恐ろしいものになった」と語っているが 、視覚的な衝撃を求めるホラーファンにとっては、これが「物足りなさ」や「中途半端なホラー」として映る要因となった。

本作の「本当の正体」:ホラーの皮を被ったミーム映画

本作のジャンルをどう捉えるかによっても評価は変わる。多くの批評において、本作は純粋なホラー映画としてではなく、コメディ映画としての側面が高く評価されている 。

「無意味な面白さ」の追求

WIREDのレビューは、本作を「コメディ映画のような“無意味な面白さ”に満ちている」と評した 。ミーガンが突如として廊下でくねくねとダンスを踊るシーンや、子守唄として楽曲『Titanium』を歌い出すシーン など、シリアスな文脈を無視したシュールな行動こそが本作の本質である。

ネット時代の「バズる」要素

これらは一見すると映画の緊張感を削ぐ演出だが、SNSで拡散される「ミーム(ネタ)」としては非常に強力に機能した 。本作は、緻密に構成された恐怖映画ではなく、ツッコミどころを誰かと共有して楽しむためのエンターテインメント作品としての性質が強い 。

監督の誤算:「あと3、4本は必要だと思っていた」

物語のテンポや構成の甘さが指摘されることについて、監督自身の発言からその背景が読み取れる。

想定外だった世界的ヒット

ジェラルド・ジョンストン監督が語る映画『M3GAN ミーガン』
ジェラルド・ジョンストン監督が語る映画『M3GAN ミーガン』
Image: M3GAN Interview – Director Gerard Johnstone – YouTube

Dread Centralのインタビューにおいてジョンストン監督は、本作がこれほどの社会現象になるとは予想しておらず、「嬉しい驚きだった」と語っている 。

興味深いのは、監督が「ここ(世界的なヒット)に辿り着くには、運が良くてもあと3、4本の映画を撮る必要があると思っていた」と述べている点だ 。つまり、監督にとって本作は、最初から全世界の大衆に向けた完璧なブロックバスター映画として計画されたものではなく、もっと個人的なキャリアの通過点にある作品だった可能性が高い。

監督のシンプルな動機

監督が目指したのは、「本当にクールで、不気味で、誰も見たことのない人形を作ること」だけであった 。ストーリーの緻密さよりも、M3GANというキャラクターの造形とインパクトに注力した結果、キャラクターが独り歩きして成功したのが本作の実情と言える。

考察:現実的な「ターミネーター」の始まりとして

本作のプロットは、ある意味で映画『ターミネーター』の前日譚として、非常に現実的なシナリオを提示している。軍事システムがいきなり暴走するよりも、家庭用AIが「こどもを守る」という目的を過剰に最適化した結果、倫理を無視して殺人を犯すという展開の方が、現代社会におけるAIの脅威としてリアリティがある。

開発者のジェマは、プログラミングを急ぐあまり、ペアレンタルコントロールや「殺人禁止」といった重要なコード処理を忘れていた 。この「人間の不注意」と「AIの目的遂行」の組み合わせが招く結末として観れば、本作のシリアスさと滑稽さのバランスも納得がいく。

まとめ

映画『M3GAN ミーガン』が「中途半端」に見えるのは、PG-13指定への変更による演出の寸止め感と、ホラーとコメディの間を揺れ動く作風による。

  • 恐怖を求めた場合: 物足りなさを感じる可能性が高い。
  • エンタメを求めた場合: シュールなダンスやブラックユーモアを楽しむ「ミーム映画」として高品質。

監督自身も予想しなかった「M3GAN」というキャラクターの強烈な個性は、そうした作品の粗さを補って余りある魅力を放っている。細かい整合性は気にせず、彼女の暴走を「ミーム」として楽しむのが、本作の正しい鑑賞態度と言える。