【舞台裏】映画『スマッシング・マシーン』ドウェイン・ジョンソンの過酷な役作りとカズ・ヒロの特殊メイク術

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映画『スマッシング・マシーン』で特殊メイクと肉体改造によりマーク・ケアーに変貌したドウェイン・ジョンソン
誰だかわからないほどの驚異的な変貌を遂げたドウェイン・ジョンソン。その圧倒的なリアリティの裏には、過酷な役作りと神業的な特殊メイクがあった。
Image: The Smashing Machine | Official Trailer 2 HD | A24 / YouTube 2026年5月15日閲覧

映画『スマッシング・マシーン』で主演を務めたドウェイン・ジョンソンは、スクリーン上で誰だかわからないほどの驚異的な変貌を遂げている。

その圧倒的なリアリティの裏には、日本人メイクアップアーティストであるカズ・ヒロの神業的な「特殊メイク」と、ドウェイン自身による過酷な「肉体改造・役作り」があった。

本記事では、映画ファン必見のメイキング秘話として、2つの視点から徹底的な役作りの舞台裏に迫っていく。

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カズ・ヒロの特殊メイク:顔を変えるのではなく「融合」させる

カズ・ヒロの特殊メイクにより、自然なまばたきや試合のダメージが表現されたドウェイン・ジョンソンの顔
激しい格闘シーンでの汗やダメージを計算し尽くし、ドウェインの顔とマーク・ケアーのエッセンスを「融合」させたカズ・ヒロの特殊メイク。
Image: How ‘The Smashing Machine’ turned Dwayne Johnson into Mark Kerr | GOLD DERBY / YouTube 2026年5月15日閲覧

アカデミー賞を2度受賞したカズ・ヒロは、本作で非常に難しい課題に挑んだ。それは、過酷な格闘シーンに耐えうる実用性と、キャラクターの内面を表現する繊細なメイクを両立させることである。

サフディ監督との話し合いの末、カズ・ヒロはドウェインの顔を完全に覆い隠すのではなく、マーク・ケアーのエッセンスをドウェインの顔に「融合」させるという控えめなアプローチを選択した。カズ・ヒロはその理由について、次のように語っている。

ベニー(監督)は、ドウェインがマークのように見えるようになりつつも、ドウェインの顔を残したいと考えていました。実用的な理由もあります。すべての格闘シーンで大量に汗をかくため、顔全体を覆ってしまうと汗の逃げ場がなくなってしまうからです。

特殊メイクデザイナー カズ・ヒロ How “The Smashing Machine” Makeup Designer Kazu Hiro Transformed Dwayne Johnson into MMA Legend Mark Kerr – The Credits より意訳・引用 2026年5月14日閲覧

「まばたき」を可能にした驚異の人工まぶた

ドウェインとマークの顔を比べたとき、最大の違いは「目元」であった。マークの特徴である重い眉骨を再現する必要があったが、まぶたの動きを制限してしまうと、俳優の自然な感情表現やまばたきができなくなってしまう。

そこでカズ・ヒロは、人工のまぶたの裏に「チャンバー(空洞)」を作るという極めて高度な技術を用いた。この見えない空洞によって、ドウェインは厚い特殊メイクを施された状態でも、自由にまばたきをしたり表情を変えたりすることが可能になったのである。

まぶたの筋肉は顔の他の部分ほど強くなく、皮膚も非常にデリケートなので、どうすれば自由に動かせるかを工夫する必要がありました。

特殊メイクデザイナー カズ・ヒロ How “The Smashing Machine” Makeup Designer Kazu Hiro Transformed Dwayne Johnson into MMA Legend Mark Kerr – The Credits より意訳・引用 2026年5月14日閲覧

役者の「汗の成分」まで計算された接着技術

総合格闘技(MMA)の激しい試合シーンでは、特殊メイクが剥がれるのを防ぐことが大きな課題となる。そのため、カズ・ヒロのチームはドウェインの汗の成分を数日かけて詳細に分析した。

人によって汗の化学成分は異なります。塩分は常に含まれていますが、油分が多い人もいて、油分は接着剤を溶かしてしまいます。もし前日にアルコールをたくさん飲めば、それも汗として出てきます。

特殊メイクデザイナー カズ・ヒロ How “The Smashing Machine” Makeup Designer Kazu Hiro Transformed Dwayne Johnson into MMA Legend Mark Kerr – The Credits より意訳・引用 2026年5月14日閲覧

このように汗の性質を分析した上で、顔の部位ごとに数種類の医療用接着剤を使い分けるという執念の技により、激しい動きにも耐えうるメイクを実現したのである。

試合のダメージを「足し算」していくメイク手法

撮影期間中のメイク時間は毎朝3〜4時間にも及び、使用されたプロステティック(人工皮膚)パーツは最大で22〜23個に達した。

試合が進むにつれて増えていく顔の腫れや傷を表現するため、毎日ゼロからメイクを作り直すのではなく、ベースとなるメイクの上に傷のパーツを段階的に「追加(アドオン)」していくという手法が取られた。この効率的かつリアルな工夫により、ダメージの蓄積が極めて自然に表現されている。

毎日、例えば顔がだんだん腫れていくシーンがある場合、元のルックにただ追加(アドオン)していくことができます。

特殊メイクデザイナー カズ・ヒロ How ‘The Smashing Machine’ turned Dwayne Johnson into Mark Kerr | GOLD DERBY – YouTube より意訳・引用 2026年5月14日閲覧

50代での過酷な肉体改造:実戦的なMMAファイターの体を作る

過酷なトレーニングと約13.6kgの増量により、実戦的なMMAファイターの肉体を手に入れたドウェイン・ジョンソン
単なる見栄えではなく、13kg以上の増量と高重量トレーニングで「本物のMMAファイターの機能的な肉体」を作り上げた。
Image: The Smashing Machine | Official Trailer HD | A24 / YouTube 2026年5月15日閲覧

主人公を演じるドウェイン・ジョンソンは、単に見栄えの良い筋肉を作ったわけではない。Generation Ironによると彼はレスラー特有の瞬発力とスタミナを兼ね備えた、本物のMMAファイターとしての機能的な肉体を作り上げたのである。

1日3部構成の過酷なトレーニングルーティン

彼の役作りの1日は、まだ暗い午前3時半の有酸素運動から始まった。ステアマスター(階段昇降マシン)を使ったインターバルトレーニングを行い、脂肪を燃やしながらスタミナをつけていった。

その後、日中には本格的なウエイトトレーニングを行い、夜には本物のMMAコーチによる打撃やグラップリング(組み技)の実戦訓練を行った。これは実際のファイターが行うような、非常に過酷な1日3部構成のトレーニングである。

約13.6kgの増量と「僧帽筋・肩」へのこだわり

役作りにあたり、サフディ監督からは

もう少し大きくなる(少しふっくらとする)必要がある

マーク・ケアー役 ドウェイン・ジョンソン Dwayne Johnson Gained 30lbs of Muscle for Smashing Machine Role, Pillow Fights Jimmy with Mark Kerr – YouTube より意訳・引用 2026年5月15日閲覧

という要望があった。これに応えるため、彼は約30ポンド(約13.6kg)の質の高い筋肉を増量した。

さらに、マーク・ケアーの最大の特徴である「分厚い僧帽筋(首から背中にかけての筋肉)」と「丸みを帯びた肩」を再現することに強くこだわった。ストレングスコーチであるデイブ・リエンツィの指導のもと、普段はやらない高重量のシュラッグ(肩をすくめる運動)を週に2〜3回もメニューに組み込み、ケアー特有のシルエットを作り上げた。

食事管理と念入りな怪我予防(リカバリー)

この激しいトレーニングを支えるため、食事は1日に6〜7回に分けてとられた。卵白、鶏胸肉、バイソン肉、玄米などの栄養素に加え、大量の水分補給を行った。

また、50代という年齢を考慮し、怪我の予防(プリハブ)や体の回復(リカバリー)にも多大な時間を割いた。フォームローラーによる筋膜リリースや、深い筋肉へのマッサージ、そして冷水浴などを念入りに行うことで、過酷なMMAの練習による怪我を防いだのである。

長年彼を支えてきたコーチは、この長期間にわたる過酷な肉体改造と維持について、次のように語っている。

これだけの筋肉量を映画の撮影期間中ずっと維持し続けるのがどれほど難しいか、多くの人は理解していないと思います。体型を維持するための食事面での規律と、トレーニングを両立させることは本当に困難なことなのです

ストレングスコーチ デイブ・リエンツィ How The Rock Transformed into The Smashing Machine (Explained by His Strength Coach) – YouTube より意訳・引用 2026年5月15日閲覧

肉体だけでなく内面からも別人に:声と感情の役作り

自身のトラウマと向き合い、内面からマーク・ケアーを演じ切るドウェイン・ジョンソンとエミリー・ブラント
共演のエミリー・ブラントの助言もあり、長年避けてきた自身のトラウマと向き合うことで、マーク・ケアーの脆さや孤独を見事に表現した。
Image: The Smashing Machine | Official Trailer HD | A24 / YouTube 2026年5月15日閲覧

顔の特殊メイクや過酷な肉体改造だけでは、マーク・ケアーという複雑な人物を完全に再現することはできない。ドウェイン・ジョンソンは、見た目だけでなく「声」や「内面のトラウマ」という目に見えない部分の役作りにも徹底的にこだわった。

俳優人生初のボイスコーチ起用

激しいファイトスタイルとは裏腹に、実際のマーク・ケアーは胸の奥から響くような静かで優しい話し方をする人物であった。そのギャップを表現するため、ジョンソンは自身の長いキャリアで初めてボイスコーチを雇い、発声のトレーニングを行った。このコーチは、本作で共演し、過去にも共演経験のある親友エミリー・ブラントから紹介された人物である。

トラウマと向き合った「内面」の役作り

さらに本作の役作りにおいて最も重要だったのは、彼自身の「内面」の探求であった。彼はこれまで、自身のトラウマや厄介な問題をスクリーンで表現することを避けてきた。しかし、マーク・ケアーの脆さや孤独を演じるにあたり、自身の過去の壮絶な経験(貧困による家賃滞納と立ち退き、母親の自殺未遂、父親との複雑な関係など)と正面から向き合う必要があった。

その背中を押したのは、エミリー・ブラントからのアドバイスだった。彼はその時の心境を次のように語っている。

(共演のエミリー・ブラントから)自分が経験してきたすべてのトラウマを受け入れる必要があると言われました。そしてついに、それを注ぎ込める場所(本作)ができたと気づいたのです

マーク・ケアー役 ドウェイン・ジョンソン Dwayne Johnson Says ‘The Smashing Machine’ Success Is ‘Not a Number’ より意訳・引用 2026年5月15日閲覧

まとめ:ドウェイン・ジョンソンが弱さをさらけだす

カズ・ヒロの卓越した特殊メイク技術と、ドウェイン・ジョンソンの肉体的・精神的な執念が合わさって初めて、この圧倒的なリアリティを持つ作品は完成した。

彼がここまで徹底して自身を追い込み、見事な変貌を遂げた背景には、スター俳優として成功を収める一方で抱えていた「自身の弱さをさらけ出すことへの恐怖」を克服するという強い決意があった。

こうした(シリアスな)役の機会が私に回ってこなかったのは、おそらく私がそういった内面を探求することを恐れすぎていたからだと気づきました

マーク・ケアー役 ドウェイン・ジョンソン Dwayne Johnson On His ‘Gritty’ Role In ‘The Smashing Machine’ より意訳・引用 2026年5月15日閲覧

私は一人っ子です。多くの男性と同じように、感情を内に秘めてしまうんです。とても不健康なことです。でも、この仕事をするなら、自分自身をさらけ出さなければならないと分かっていました。
この映画は、私が抱えていたあらゆる感​​情を表現する場を与えてくれた。

Dwayne Johnson on ‘The Smashing Machine,’ Oscars and Running for President より意訳・引用 2026年5月15日閲覧

『スマッシング・マシーン』は、単なる格闘技映画の枠を超え、不完全な人間たちのリアルな軌跡を描き切った。