Image: 映画『口に関するアンケート』本予告|7月3日(金)公開 / YouTube 2026年7月3日閲覧 背筋による「口に関するアンケート」が映画版ならではの不穏な視覚的トーンに構築されている(©2026映画「口に関するアンケート」製作委員会)
大ヒットホラー小説『口に関するアンケート』が実写映画化されるにあたり、原作と映画版ではいくつかの重要な違いが存在する。若者たちの証言のみで構成された極端に短い原作に対し、映画版では新たな要素が加えられ、長編作品としての骨格が作られた。本記事では、原作から映画への変更点、特にオリジナルキャラクターの追加や、書籍化の前に存在した「幻のB案」がもたらす意味について考察していく。
60ページの短編から89分の長編へ!映画版最大の変更点はオリジナルキャラクターの追加
映画化にあたって最も注目されるのは、原作と映画のボリュームの差と、物語の構造を支える新しい登場人物の存在である。
たった60ページの原作が89分の長編映画として成立した理由
原作小説はページ数が約60ページと非常に短く構成されている。主演を務める板垣李光人も、映画公式サイトの舞台挨拶レポートによると、原作を読んだ際に30分程度で読み終えることができるサイズ感だと感じたという。
一方で、映画版の上映時間は89分となっている。この極めて短い原作を映画サイズの長編へと拡張するためには、物語に奥行きを出す工夫が必要であった。原作は主に大学生たちの証言のみで進行するが、映画版では彼らの外側にいる人物の視点を導入することで、90分弱の映像作品として成立する物語構造が作られている。
事件を外側から追う新キャラクター、刑事・草壁と記者・西の設定
映画版における最大の違いは、原作には存在しない2人の大人のキャラクターが追加されている点だ。一人は、肝試しの後に失踪した女子大生の行方を捜査する刑事の草壁であり、中村獅童が演じている。もう一人は、事件の真相を探る週刊誌記者の西で、こちらは柄本時生が配役されている。
柄本は、映画公式サイトのコメントにおいて、自身の演じる西という役柄について、自分の利益になるかどうかで行動を決める典型的な週刊誌の編集者であると語っている。
彼ら2人は、当事者である学生たちの証言を外側から聞き出す役割を担う。事件を客観的に追及する大人の視点が加わることで、観客も彼らと一緒に事件の真相を暴いていくような構成になっている。
オリジナルキャラクターの追加理由は「観客の視点を定めるナビゲーター」の配置
「映像化すると醍醐味が損なわれる」清水崇監督が抱いた懸念
映画『口に関するアンケート』の公式サイトによると、メガホンをとった清水崇監督は企画当初、この作品を映像化することに対して強い不安を抱いていたという。原作小説は、登場人物たちの心情をあえて詳しく説明せず、断片的な証言や記録を積み重ねていくという独特な構成をとっている。監督はSCREEN ONLINEのインタビューにおいて、それが読み物だからこそ成立する面白さと怖さであると分析しており、具体的に映像として見せてしまうと原作の醍醐味が損なわれ、作品が台無しになってしまうのではないかと懸念していた。
語り部となる大人を巻き込み、物語の構造を分かりやすくする狙い
学生たちの証言を中心に展開する物語を映像作品として成立させるため、制作陣は観客の視点を導く「ナビゲーター」を配置する手法をとった。公式サイトによると、清水監督は、学生たちの軽い肝試しから日常が崩壊していく過程に「語り部となる大人も巻き込みたかった」と、物語を構造的に引っ張るオリジナルキャラクターを追加した狙いを明かしている。
また、主演の板垣李光人は、MOVIE WALKER PRESSのインタビューに対し、刑事などの大人のキャラクターが登場することで観客の視点が定まると自身の分析を語っている。観客は彼ら大人のキャラクターと同じ立場、同じ気持ちになって事件の真相を暴いていくことができるため、映像作品として分かりやすい構成になっていると評価している。
第三者が狂気に巻き込まれる恐怖と、原作者の「幻のB案」による新たな展開
客観的な立場の大人すら惑わされる、映画特有の恐ろしさ
映画版に追加されたオリジナルキャラクターたちは、若者たちの失踪事件を外側から冷静に追及する立場だ。しかし、当事者である学生たちの証言を集め、真相を探っていくうちに、彼ら大人たち自身も徐々に怪異の渦中へと引きずり込まれていく。
刑事の草壁を演じた中村獅童は、映画公式サイトのコメントにおいて、物語を追う立場でありながら自身も惑わされてしまっていたのかと振り返っている。事件と無関係で客観的な視点を持っていたはずの第三者が狂気に巻き込まれ、客観性が崩壊していく過程が描かれることで、映画特有の恐怖演出がより深まっている。
単なる脚色ではない!書籍化前に存在した「幻のB案」の融合
オリジナルキャラクターや新たな展開の追加は、長編映画にするための単なる脚色ではない。清水監督は前出のSCREEN ONLINEのインタビューで、原作者の背筋氏が書籍化する前に迷い、世に出なかった「B案」が存在したことを明かしている。監督はその発想を映画に取り入れたいと背筋氏に提案し、脚本に組み込んだという。同インタビューによると、この「幻のB案」の融合こそが、映画版における大きなポイントとなっている。
また、主演の板垣李光人は、MOVIE WALKER PRESSの同インタビューに対し、脚本は原作の濃度を100%保ったまま映画のボリュームに仕上げられていたと語っている。映画版は、ただ原作を再現するだけでなく、書籍化されなかったアイデアを融合させることで、原作ファンにも新たな視点を与え、物語の世界を拡張する見事な構造となっている。
「余白」で想像させる小説と、「同じ像」を共有する映画の違いを楽しむ
Image: 映画『口に関するアンケート』本予告|7月3日(金)公開 / YouTube 2026年7月3日閲覧 観客に「同じ像」を強制的に結ばせる、映画ならではの証言シーン(©2026映画「口に関するアンケート」製作委員会)
原作小説と映画版は、それぞれ異なるアプローチで恐怖を生み出している。
SCREEN ONLINEのインタビューによると、原作者の背筋氏は、文字によってあえて「余白」を残し、読み手の想像力によって恐怖を増幅させるのが小説の魅力であると分析している。一方で映画という媒体については、視覚や音響を用いることで、観客全員に「同じ像」を強制的に結ばせることができるとその強みを語る。強い映像を提示し、全員を一様に怖がらせる「共同性」を生み出せるのが映画ならではの特徴だという。
実際に映画版では、映像と音響を駆使した独自の恐怖体験が構築されている。主演の板垣李光人は、映画公式サイトの舞台挨拶レポートにおいて、閉ざされた映画館という空間だからこそ、映像によってじわじわと追い詰められるような感覚が味わえるとコメントしている。また、MOVIE WALKER PRESSのインタビューでは、臨場感のあるサウンドが恐怖をさらに増幅させていると、同作における映画ならではの表現を語っている。
読者の頭の中で想像を膨らませる小説と、逃げ場のない空間で同じ恐怖を共有する映画。異なる表現方法を持つ両者を交互に体験し、物語の世界を深く考察することが、この作品の最適な楽しみ方だ。







