Image: 映画『夏目アラタの結婚』本予告 2024年9月6日(金)公開 – YouTube ステレオタイプなサイコパス殺人鬼と思いきや、黒島結菜演じる純粋に愛を求める少女の姿がある。
映画『夏目アラタの結婚』で、観客に強烈な印象を与えた黒島結菜の演技。彼女が演じた死刑囚・品川真珠(通称:品川ピエロ)は、これまでの黒島のイメージを覆すものであり、多くのメディアや観客から「怪演」「新境地」と絶賛されている。
一見すると、彼女のキャリアにおける「はまり役」のようにも見える。しかし、その強烈なキャラクター造形の裏には、そのひとことでは片付けられない、壮絶な役作りと役への没入があった。
「はまり役」の裏側:品川真珠はいかに作られたか
品川真珠という役は、黒島結菜にとって単なる「はまり役」ではなく、文字通りすべてを懸けて挑んだ挑戦であったことがインタビューから伺える。
1. 「記憶が飛ぶ」ほどの集中と消耗
黒島は撮影当時を振り返り、「自分のことでいっぱいいっぱい。集中しすぎて記憶をなくすぐらいだった」と語っている[1]。撮影後は毎日ヘロヘロで、どっと疲れていたという。
共演した丸山礼は、撮影から半年ほど経って道で黒島に声をかけた際、「『あー、えっと……焼肉屋さんで会いましたよね?』って言われ」たと明かしている。丸山が「『違います! 映画で共演してます、私たち』って(笑)。寂しかった」と語るほど、黒島は役に没入し、周囲のことが意識から飛ぶほどの極限の集中状態にあった。
2. 掴めない役への葛藤と「ミリ単位」の演出
黒島は当初、原作を読んだ時点で「これは難しい役だなと実は迷った」という[2]。脚本を読んでも「本性が全く見えない、何を考えているか全く分からないキャラクターだった」ため、真珠を理解するのは非常に困難だった。
この掴みどころのない難役を演じる上で助けとなったのが、堤幸彦監督による緻密な演出だった。黒島は「監督が、目線はここ、顎を引いて、手はここで、このセリフの時に寄って行ってとか、かなり細かく動きの演出をつけてくださった」と明かす[2]。このミリ単位の演出によって、「動きがあることで真珠の考えていること、気持ちの流れがすごく分かりやすくなった」という。
「はまり役」という印象は、才能だけで生まれたものではなく、監督との緻密な計算と、役へ歩み寄るための懸命なプロセスによって構築されたものであることがわかる。
3. 役へのアプローチ:「邪悪な殺人犯」ではなく「純粋さ」
役を理解する中で、黒島は真珠を「ただの邪悪な殺人犯という印象は最初から持たなかった」という[2]。
彼女は、真珠の言動の根源を「純粋さ」に見出した。「すべては純粋さから来ていたのかなと思います」「本当に素直に人と向き合っていた結果の言動かもしれない」と分析している。この「純粋さ」という解釈こそが、常人には理解しがたい真珠の言動に、底知れない不気味さと奇妙な説得力を与える核となった。
共演者・柳楽優弥を引き込んだ「目の演技」の正体
Image: 映画『夏目アラタの結婚』本予告 2024年9月6日(金)公開 – YouTube 連続殺人犯として捕まっているとは思えない純粋さをもつ品川真珠。
本作の大きな見どころである、夏目アラタ(柳楽優弥)と品川真珠(黒島結菜)のアクリル板越しの面会シーン。この「演技バトル」において、黒島の「目の演技」が極めて重要な役割を果たしたことを、対峙した柳楽優弥が証言している。
1. 柳楽優弥が感じた「真実か、嘘か」の揺らぎ
柳楽は、黒島の演技について「黒島さんのイメージにはない役柄だと思いますが、ものすごくステキでしたね」と称賛している[3]。
特に印象的だった点として「目の表情」を挙げる。完成した映画を観て「真珠の目の表情を見て『ここまで目が動くと、伝わるものはこう変わってくるんだな』といろいろなことを感じて。改めて、目の表情って大事なんだなと思いました」と語る。柳楽は、黒島が演じる真珠の「話していることが『真実なのか、嘘なのかという』ことが、漂ったり、漂わなかったりする」姿に、強く引き込まれた。
2. 「吸引力」と「エネルギーの応酬」
柳楽は、撮影中の黒島について「真珠が伏し目がちになったりすると、こちらも一気にグッと引き込まれて」「ちょっと色気を感じるくらいの雰囲気があってとても魅了されました」と振り返る。
一方、黒島も柳楽の「目力」について「アクリル越しにグッと顔を近づけることが多かったので、近づけば近づくほど目を逸せなくなるような、吸引力のようなものがありました」と語る。
黒島は、柳楽演じるアラタの「ものすごいエネルギー」に対し、「真珠が持って行かれてしまいそうになる瞬間もあって」「アラタのエネルギーに引き込まれないようにしようと意識していました」と明かしている。あの面会室のシーンは、二人の実力派俳優による、凄まじいエネルギーの応酬の場であったことがわかる。
結論:黒島結菜は「品川真珠」として生きていた
品川真珠が観客の記憶に残る「はまり役」となったのは、黒島結菜が元々持つ才能だけが理由ではない。
それは、彼女が「本性が全く見えない」難役に対し、堤監督の緻密な演出を拠り所に、「記憶が飛ぶ」ほどの集中力で、撮影期間中は「品川真珠として懸命に生きようとした」努力の結晶だ。
共演者を圧倒した「目の演技」も、キャラクターの「純粋さ」という本質を信じて没入したからこそ生まれた、計算を超えた「本物」の輝きだった。
参考資料:
- 「夏目アラタの結婚」黒島結菜、撮影に集中しすぎて記憶飛ぶ 丸山礼「寂しかった」 – ぴあ映画 2025年11月11日閲覧
- 【インタビュー】黒島結菜が明かす、難役への挑戦を可能にした「現場への信頼」 | cinemacafe.net 2025年11月11日閲覧
- 柳楽優弥&黒島結菜、10年ぶりの再会がもたらしたもの 2人が考える“究極の愛”とは?【「夏目アラタの結婚」インタビュー】 : 映画ニュース – 映画.com 2025年11月11日閲覧





