Image: Minions & Monsters | Final Trailer / YouTube 2026年8月1日閲覧 1920年代ハリウッドで映画制作に挑むミニオン(© Universal Studios. All Rights Reserved.)
アニメーション映画『ミニオンズ&モンスターズ』は、1920年代のハリウッドを舞台にミニオンたちが映画制作へと乗り出す姿を描いた作品。劇中を彩る音楽は、作品の世界観やストーリーの展開と深く結びついている。本稿では、劇伴を担当した作曲家ジョン・パウエルによるスコアと、作中に登場する実在の古典名曲の役割について紐解いていく。
ジョン・パウエルが手掛けた全31曲の公式サウンドトラックと劇中を彩る名曲の全体像
公式サウンドトラック『Minions & Monsters』全31曲のトラックリストが示すストーリーの軌跡
2026年7月1日にBack Lot Musicからリリースされた公式サウンドトラック『Minions & Monsters (Original Motion Picture Soundtrack)』は、全31曲の収録楽曲すべてを劇伴作家のジョン・パウエルが作曲・プロデュースしている。アルバムに並ぶ楽曲タイトルは、映画自体の物語の展開と緻密に連動している。
序盤の「The Beginnings of the Mooovies」から「Silent Movies」にかけては、ミニオンたちが無声映画の時代に舞い込み、期せずして映画スターへと上り詰める過程が音楽で表現される。続く「Shooting with Sound」では、1920年代後半のトーキー(発声映画)の到来による現場の混乱と不協和音が描かれ、「Hooray for Hollywood」や「Bananaria: What to Eat?」に至る流れの中で、モンスターを巻き込んだハリウッド大騒動のクライマックスへと突き進む。スコア盤のトラックリスト自体が、サイレントからトーキーへ移り変わる映画史と映画本編のタイムラインをそのままなぞる構造となっている。
なお、検索トレンドなどで関心を集めるBLACKPINKの楽曲のような現代のポップソングは、このジョン・パウエルによるオーケストラ・スコア盤には収録されていない。公式サウンドトラックがハリウッド映画史へのオマージュやクラシカルな劇伴としての役割を担う一方で、ポピュラーソングは現代エンターテインメントとしてのポップなキャッチーさを補強する別ラインの音響要素として機能している。
1920年代ハリウッドの黄金期を象徴する『We’re in the Money』や古典名曲の引用
本作の音楽表現はジョン・パウエルのオリジナル・スコアにとどまらず、映画史に刻まれた実在の名曲が効果的に引用されている。作中では、1933年の映画『金掘り33年(Gold Diggers of 1933)』の挿入歌「The Gold Diggers’ Song (We’re in the Money)」や、1937年の映画『Hollywood Hotel』で知られる「Hooray for Hollywood」といったジャズ・ビッグバンド調の古典楽曲が使用されている。
これらの楽曲は、世界恐慌前の1920年代アメリカにおける狂乱と楽観に満ちた空気を再現する重要な要素だ。映画界に足を踏み入れたミニオンたちが、一夜にしてスターとしての華やかな生活を手に入れる場面において、当時のジャズやポピュラー音楽のブラスサウンドが贅沢な雰囲気を際立たせる。古典名曲の配置により、単なるBGMにとどまらず、当時の映画界の狂騒と時代設定の文脈を客観的に補強する演出が施されている。

1920年代ハリウッド演出と劇伴作家ジョン・パウエルによる巨匠オマージュの構造
トーキー(発声映画)革命の混乱と連動する音響デザインの仕掛け
Image: Minions & Monsters | Official Trailer / YouTube 2026年8月1日閲覧 トーキー(発声映画)の到来により「音と台詞」の壁に直面する(© Universal Studios. All Rights Reserved.)
『ミニオンズ&モンスターズ』は、映画史における最大の転換点の一つである1920年代後半のトーキー(発声映画)革命の直中を舞台に設定している。無声映画の時代、身体的なスラップスティックと独自の言語「ミニオン語(Minionese)」を武器にするミニオンたちは、言葉を必要としないスクリーン上でサイレント映画のスターとして全盛期を極める。しかし、映画に「音」と「台詞」が導入された途端、英語を話せずキューカード通りに喋ることができない彼らはハリウッドを追われる身となる。
映画監督のピエール・コフィンは、Polygonのインタビューにおいて、映画界におけるトーキーへの移行という歴史的事実をミニオンたちが引き起こす混乱の仕掛けとして取り入れたと語っている。このストーリー展開と密接に連動しているのが劇中の音響デザインだ。サイレント時代の単純なピアノ伴奏や軽快なニュースレター風BGMから、トーキーの到来とともに重厚なオーケストレーションやフィルム・ノワールの不協和音へと劇伴が変化していく。音が映画を支配していく過程そのものが、劇中の音楽と効果音の緻密なシンクロによって表現されている。
エンニオ・モリコーネからバーナード・ハーマンまで網羅されたハリウッド映画音楽史のパロディ
劇中で展開される多様なジャンル映画のパロディに合わせて、作曲家のジョン・パウエルは映画音楽の歴史を彩った巨匠たちのスタイルを緻密に織り込んでいる。
パウエルがThe Creditsのインタビューで明かしたところによると、西部劇のチェイスシーンではエンニオ・モリコーネ特有のトランペットの音色に、アーロン・コープランドやエルマー・バーンスタインのハリウッド王道スタイルを融合させたスコアが構築されている。また探偵が登場するフィルム・ノワールの場面では、マックス・スタイナーのオーケストレーションを再現するため、あえて通常編成の弦楽セクションから人数を大幅に削減し、当時のアコースティックな音響空間を作り出す演出が施された。
さらに『市民ケーン』をオマージュした場面について、同インタビューにてパウエルはバーナード・ハーマンの技法を意識したと明かしている。バスーンやコントラバス・クラリネットといった極端な低音管楽器に、かすかなチューブラーベルの響きを重ねることで、「死」や重厚な雰囲気を音楽的に表現している。巨大モンスターが登場するシーンでも、『ジョーズ』のジョン・ウィリアムズやドヴォルザークの構造を参照したパロディが展開される。これらの劇伴は単なる表面的な元ネタのなぞりにとどまらず、各時代の映画音楽が持っていた調性や楽器編成の特性を深掘りした上で現代的に再構築された高度な音楽的変換として成立している。

85名のオーケストラと大合唱団が奏でる「ミッキーマウシング」と「ミニオン語」の音楽性
Image: Minions & Monsters | Behind the Score with John Powell / YouTube 2026年8月1日閲覧 ソニーの歴史的なスタジオで行われた大編成オーケストラと合唱団による劇伴録音風景
本作の劇伴録音はソニー・ピクチャーズの敷地内にある歴史的なバーブラ・ストライサンド・スコアリング・ステージで行われ、85名に及ぶ大型オーケストラと60名の合唱団が集結した。
カートゥーンアニメーションの歴史において、画面上のキャラクターのアクションや転倒、跳躍といった動作に対して音楽の旋律やリズムを1ミリ単位で完全に同調させる技法は「ミッキーマウシング」と呼ばれる。『ルーニー・テューンズ』の作曲家カール・スターリングらが確立したこの古典的技法が、本作ではフルオーケストラとソプラノを擁する大合唱団の重厚な音響によって展開される。
この大編成のオーケストレーションは、言語を持たない「ミニオン語」の特性とも密接に結びついている。ピエール・コフィン監督がThe Guardianのインタビューで言及している通り、ミニオン語には文法的な構造が存在せず、話す際のメロディとリズムによって感情やニュアンスを表現している。言語による台詞の情報量が削ぎ落とされているからこそ、ジョン・パウエルが手掛けるオーケストラ・スコアがキャラクターの喜怒哀楽やスラップスティックな笑いのタイミングを代弁する構造が確立されている。
映画愛と音響芸術をつないだ『ミニオンズ&モンスターズ』の真価
BAFTAのインタビューにおいて、監督のピエール・ココフィンは映画の第一層を子ども向けの笑い、第二層を大人向けの歴史的オマージュとして機能させることが重要だったと述べている。言語の壁を持たないミニオンたちの身体的アクションは、チャールズ・チャップリンやバスター・キートン、ハロルド・ロイドといったサイレント映画の巨匠たちが確立した物理的コメディの直接的な系譜に連なっている。
この映画史への敬意を音響面から決定づけているのが、パウエルの音楽だ。パウエルはThe Creditsの取材で、狂乱と情熱に満ちた1920年代ハリウッドの黄金期や古典映画のスコアを参照し、作品全体を意図的に過剰なまでのエネルギーで満たしたと説明している。1927年のトーキー移行期という劇中の時代背景に合わせ、サイレント的なスラップスティックの伴奏から、85名編成のオーケストラと60名の大合唱団によるダイナミックな交響楽へと展開する音響表現は、無声から発声へと進化した映画史の動的な歩みそのものを体現している。
単なる子供向けキャラクター映画のBGMにとどまらず、作中のスコアは映画制作という営みや表現の情熱そのものに捧げられた音響芸術として制作された。監督のコフィンやプロデューサーのクリス・メレダンドリが言及している通り、本作は映画をつくることへの情熱と愛が全編を貫くテーマとなっている。巨匠たちへのオマージュと現代的なビートが融合したジョン・パウエルの劇伴は、映画制作の混沌と喜びを豊かに表現しており、作品全体に深い映画愛の余韻を残している。








