映画『このごにおよんで愛など』テーマ深層解剖|広瀬奈々子監督が「新しい家族像」を描いた理由と脚本改訂の舞台裏

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映画『このごにおよんで愛など』ポスタービジュアル
常識的な家族像に問いを投げかける映画『このごにおよんで愛など』メインビジュアル((C) 2026 K2 Pictures)
Image: 映画『このごにおよんで愛など』11月27日公開決定/特報映像・ティザービジュアル解禁 – K2 Pictures 2026年11月4日閲覧

絵本作家の主人公・詩が夫と恋人の2人と同居生活を始める映画『このごにおよんで愛など』は、従来の家族観を揺さぶる意欲作だ。作品の根底には、既存の枠組みに対する広瀬奈々子監督の強い疑問と、当事者たちの切実な願いが存在する。一通の報告から始まった企画は、キャストとの対話を経て、従来の人間ドラマの枠を超えた物語へと昇華を遂げた。

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1通の報告から始まった奇跡:「3人で家族になる」物語の原点

友人の「子どもができたよ」で視界が開けた!広瀬監督が抱いた違和感

広瀬奈々子監督は、以前から世の中に存在する「当たり前の家族像」に対して強い疑問を抱いていた。転機となったのは、友人であるレズビアンカップルから届いた「子どもができたよ」という一通の報告だった。

広瀬監督はジャパンプレミアの舞台挨拶で、その報告を受けた瞬間に「すごく視界が開けた感じがした」と振り返っている。誕生した子どもが将来大きくなったとき、彼女たちがより生きやすい世の中になってほしいという切実な願いから、映画『このごにおよんで愛など』のオリジナル脚本執筆が始まった。

アジア映画界が熱狂!撮影前から高評価を獲得した「2冠」スクリプト

制作者の個人的な体験と問いから生まれたこの物語は、企画段階から海外の映画関係者を強く惹きつけた。撮影前の脚本段階であった2023年、アジア最大級の映画祭である第31回釜山国際映画祭の併設マーケット「Asian Contents & Film Market(ACFM)」内企画マーケット「Asian Project Market(APM)」に選出された。

既存の価値観に挑むストーリーテリングの完成度が評価され、同マーケットで「CJ ENM Award」と「ARRI Award」の2冠を達成した。アジア最高峰の映画企画市場で認められた脚本の強みが、作品の制作を力強く後押しした。

リアルを追求した現場:当事者の「生の言葉」と柄本佑が投じた「さざ波」

「本を読むより温度がある」長澤まさみと監督が挑んだ当事者カップル取材

リアリティのある人間ドラマを作り上げるため、広瀬監督と主演の長澤まさみは撮影前に大きな準備を重ねた。二人は共にレズビアン当事者のカップルへ直接取材を行い、自らのセクシュアリティへの気づきや出会いの経緯、日々の暮らしの細部まで耳を傾けた。

主演の長澤まさみはVogue Japanの取材に対し、事前に読んだ資料や書籍以上に「生の声には温度がある」「『こういうことなんだ』という空気を肌で感じられた」と語り、肌で感じ取った空気が役づくりの確かな基盤になったことを明かしている。

「単なるいい人じゃつまらない」柄本佑の提案で書き直された夫のキャラクター

現場でのクリエイティブな対話は、脚本そのものにも変化をもたらした。主人公・詩の夫である杜夫役を演じた柄本佑から、「杜夫がシスジェンダーのヘテロセクシュアル男性という立場を背負いすぎるのは違うのではないか」「もっと杜夫自身の意思や欲望があっていい」という意見が投げかけられた。

当初の杜夫は優しく全てを受け入れる人物設定だったが、広瀬監督と柄本佑が議論を重ねた結果、杜夫自身の葛藤や小さな反発という「さざ波」を劇中に加える形へ改訂されたと、広瀬監督はVogue Japanの同インタビューで明かしている。

「少数派 vs 多数派」の逆転劇:画面の向こうから突きつけられる問いの正体

あえて立場をひっくり返す!広瀬監督が仕掛けた演出の罠

劇中では、セクシュアルマイノリティと非当事者(マジョリティ)の立場を意図的に逆転させる独自の演出が施されている。

広瀬監督は前出Vogue Japanの取材の中で、この仕掛けに対して非当事者側からある種の忌避感のような反応が示されたことに触れつつ、「マジョリティだからといって軽んじていいわけでも、悩みが小さいわけでもない」という事実に改めて気づかされたと語っている。画面上の逆転構造を通して、観客自身が抱く無意識の偏見に揺さぶりをかける演出が成立した。

結婚・妊活という壁:「好きな人と一緒に暮らしたい」だけのシンプルな願い

好きな人と共に生きたいというシンプルな感情は、結婚制度や妊活、周囲の視線といった社会の枠組みに直面したとき、当事者間の思いだけでは容易に解決できない壁にぶつかる。映画『このごにおよんで愛など』は、その現実から目を背けずに描き切っている。

広瀬監督はジャパンプレミアの舞台挨拶において、「好きな人と一緒に生きていきたいというシンプルな願いが、社会制度によって難しいこともある。セクシュアリティに関わらずご自身の人生と重ね合わせ、当たり前だと思っていた家族の枠組みについて考えるきっかけになってほしい」とメッセージを残している。